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客席に私だけ

とあるアーティストのライブに行ったときのこと。

会場は収容人数20人程度のカフェバー。

初めての場所なので、行き方と所要時間を
あらかじめ調べておく。

いつものように時間に余裕をもって家を出た。

会場近くのコンビニにたどり着く。

『この調子だと開演40分前に会場に到着しそうだ。
このまま行くと、時間をもてあますことになるだろう』

そう思い、コンビニの外で時間を潰し会場へ向かう。

会場に到着した。

外からお店の中が見える。

店員さんらしき人はいるが、その他は誰もいなかった。

会場を間違えたかと思い、
グーグルで調べたが、この場所で間違いなかった。

恐る恐る店内に入る。

私以外、客は誰もいない。

入口の受付で飲み物を注文し、客席に座った。

開演30分前というのに誰もいないことに
不安に駆られる。

客席に私だけ。

こういう時にスマホを取り出せば、

『何もすることがないんだな、
さみしさをまぎらわしているんだな』

と店員さんに思われるかもしれない。

そう思われるのは納得がいかない。

ライブに来てまで、いつでも見れる
スマホを取り出すなんて、自分のポリシーにも
逆らってしまう。

『店員さんに何もすることがないんだな、と思われない
ようにするため、自分で決めたポリシーに反しないため
にも何が何でもスマホを取り出さないでいよう』

壁に飾られたギターを、興味もないのにまじまじと
見ている。

しかし、誰も来る気配がない。

ギターをずっと見ているのも限界がある。

注文した飲み物を店員さんが持ってきてくれた。

ここで一気に飲み干しては、
ライブが始まる前に飲み物がなくなってしまう。

少しずつ飲むように心がける。

『誰でもいいから早く来てくれ』

心の中でそう思いながら、
絶対にスマホは取り出さないようにしている。

壁に飾られたギターもまじまじと見たし、
飲み物も飲んだし、何をしてこの時間を乗り越えようか。

やはり手もちぶさたで店員さんの目が気になる。

アーティストさんも店内を行ったりきたりしている。

なんて思われているのだろう。

アーティストさんの目も気になる。

やはり、ぼーっとしているだけでは限界がある。

『スマホをみない』
という自分のポリシーに逆らおうとしていた。

すると、2人目のお客さんがやってきた。

『やっときた!私以外にもお客さんがいた。よかった。
これで、店員さんやアーティストさんの見る目が
私だけじゃなくなる』

安堵した反動だろうか。

『スマホを見ない』という自分のポリシーに反し、
スマホを取り出していた。

どうでもいい他人のSNSを見ている。

自分で課したルールをいとも簡単にやぶってしまった。

情けない。
そんなことも守れないのか。

『次からは絶対にスマホを見ないぞ。
客席に私だけだろうと、そうでなかろうとスマホは
取り出さないぞ』

絶対にそうすると自分に誓った。


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