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「フランケンシュタイン」

2017年2回目の観劇。
韓国ミュージカルが元の新解釈フランケンシュタイン。Wキャストの役者が柿澤勇人さんと加藤和樹さんの日に観に行きました。

友情、愛憎、復讐、孤独、破滅、運命…韓国っぽさを感じる壮大なお話でした。

-あらすじ-HPより
 19世紀ヨーロッパ。科学者ビクター・フランケンシュタインは戦場でアンリ・デュプレの命を救ったことで、二人は固い友情で結ばれた。“生命創造”に挑むビクターに感銘を受けたアンリは研究を手伝うが、殺人事件に巻き込まれたビクターを救うため、無実の罪で命を落としてしまう。ビクターはアンリを生き返らせようと、アンリの亡き骸に今こそ自らの研究の成果を注ぎ込む。しかし誕生したのは、アンリの記憶を失った“怪物”だった。そして“怪物”は自らのおぞましい姿を恨み、ビクターに復讐を誓うのだった…。


イギリスの小説の、みんながよく知る「フランケンシュタイン」じゃないんです。ビクターとその創造物の怪物が、もとは固い友情で結ばれた友人同士だったという設定が加わっただけで、より複雑でドラマティックになっていました。

また、主要キャストが全員タイプの異なる2役を演じると聞いていたからどんな感じなんだろうと思っていましたが、こういうことか……!
深読みしようと思えばどこまでも深読みできるし、意味深な2役で何度も観に行けそう。リピート観劇者続出なのも納得でした。

冒頭、半裸の加藤和樹がのたうちまわる…。鉄のベッドから転がり落ちる…。痛そう…。
そして戦争地帯でのシーン。軍服姿の加藤和樹がカッコよくてわたしも同行者もオペラグラスで加藤和樹を追う……。
「生命の創造なんて神への冒涜だ」と、死体をいじって生き返らせる実験について反対していたアンリが、ビクターの描く理想や情熱に共鳴して、二人が固い友情で結ばれる。
1曲の中に二人の信頼関係の構築過程がギュギュっと凝縮されていました。
生きる意味を失って冷めた心のアンリと、理想や野望について熱っぽく語るビクターの温度が徐々に交わって…...強い絆で結ばれる力強いシーンです。とりあえず加藤和樹のいい男ぶりとカッキーの美声にビビる。

戦争が終わり、ジュネーブへ。ビクターの故郷に帰ってきたはいいけど、民衆の冷ややかな目…...。子役の歌が上手くて回想シーンが心に刺さる…...。

優しくビクターを支えているまじめなアンリが、酒場で飲もう!とビクターを元気付けるところも好きです。いいやつ...…。

その後いろいろあって、アンリに殺人事件の容疑が。
真実を話したらアンリの容疑ははれるからって家族に言われてもなかなか行動できないビクター。アンリが処刑されれば親友の首が手に入るわけだし、柿澤ビクターは完全に「アンリの首が欲しい」って思ってそうな演技で。完全にイってるなぁと思いました。
その後の留置所でのアンリの歌もグッとくる。そのまま、ビクターをかばって死刑台へ向かうアンリがその想いを歌い上げるナンバーでは、クールなアンリの目にも光るものが。もうすぐ処刑されるっていう状態なのに、ビクターや彼の未来を思って微笑むんですよ...…。
加藤和樹の表情から、アンリがビクターに向ける友情というかもはや母性というか、、あたたかい優しさがにじみ出ていて、ビクターは家族以外にもこんな近くで守ってくれる人がいたんだなあ、と感じました。ひとりぼっちだったアンリが唯一家族同然に過ごしたビクター。彼を大切に思っていたんだなあ…。アンリがビクターに夢を託す儚くて美しいシーンです。

そして冒頭に戻る。
ついにきた1幕の盛り上がりどころ。
アンリを生き返らせようと、ついに神の領域に踏み込むビクター。
研究のためなのか、アンリのためなのか…徐々に常軌を逸して、一線を越えてしまうビクターの迫力とカリスマ性がすごい。
ここの歌もめっちゃ難しそうで。音程が迷子。歌詞もすごい。カッキーの白熱した演技がすごいし歌い上げっぷりもすごい。声量どうなっとんねん。
アンリは蘇らず、怪物が誕生して1幕終了…。

2幕
主要キャストは2役目でも登場。

怪物になった加藤和樹のワイルドさとセクシーさと儚さが入り乱れた魅力的な姿!なんじゃありゃ。やばい。あれはやばいよ……。
衣装も常に腹を出すスタンスで。身に纏っているコートは、怪物として誕生したばかりのときにビクターに着せてもらった黒いロングコート。ずっと着続けていたいたのか……。ここ、グッとくるポイントです。
淡々と復讐を遂行しているけれど、アンリの記憶は本当にないのかな?怪物はどう感じているんだろう?って思っちゃう余白があるのがいい。
観客が自由に推測できる隙間を残してくれる演出っていいですよね。観客ならではの希望も入り混じりつつ、深読みが捗る….。

濱田めぐみさんは、ビクターの姉のエレンが本役だけど、2幕のエヴァもすごい!
エレンは、器用に生きられない天才の弟ビクターをひたすら守る芯の通った包容力のある強い女性。反対に、2幕では血も涙もない見世物小屋の主人エヴァ。エレンで抑圧していたものを一気に爆発させるかのごとき欲望むき出しの振り切った悪! 完全防備のドレス姿からセクシーな衣装に切り替えるのもすごい。
そしてとにかく歌がうまい。どの歌もめっちゃ心に刺さる。とくにエレンの最後のシーンはすごい、迫力も優しさもあって泣きそうでした。

鈴木壮麻さんのルンゲも良かった。シリアスな中には彼のユーモアが唯一癒し…...。「坊ちゃんに愛されたいんです!」っていうところとか可愛かった。「先祖代々フランケンシュタイン家に仕えてます」って感じる説得力。どんな夢であろうとも坊ちゃんについていくっていう、主人と同じくちょっとイってる部分とかもありつつ。2幕の残忍な白塗り道化もすごかったです。

音月桂さんは、元男役トップスターとは思えないほど清楚で可憐なジュリアと、元男役って納得できるワイルドでパワフルなカトリーヌ。
カトリーヌが怪物と触れ合うところはピュアすぎて心が痛んだ。カトリーヌは劣悪な環境の中生きていくのに必死で、怪物に毒入りのお水を渡すところなんか見ていて辛い。カトリーヌの苦悩を何も知らない怪物は、お水もらって嬉しそうにニコニコして手なんか振っちゃって、これまた切ない...…。

紆余曲折がありつつ、最後は原作通り北極で対峙するビクターと怪物。
最後にビクターの目に映ったのは、怪物? それともアンリ…..?  観客に解釈が委ねられている演出でした。

何度も観たくなる作品ってこういうのなのかな。
中川さんのビクターや、小西さんのアンリをみたらまた感じ方が違うんだろうなあ〜。
Wキャストってたくさん見方が楽しめていいですね。同じ作品を何度も観る人の気持ちが少し理解できた作品でした。

今回は、久しぶりに誰かと一緒に観劇に行ったんです。
いつもソロ観劇だから、観終えたあと感想とか感動を誰にぶつけたらいいかわからずに、寂しく一人家で余韻に浸っているんですけど、今回は友人とご飯を食べながら語ることができてよかったです。
誰かと観るのっていいなあ……。

2017年1月14日 日生劇場にて(2020年再編集)