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Apple Arcadeについて思うこと

Appleからゲーム定額サービスが発表されました。

自分は以前より、ビデオゲームのサブスクリプションサービスは「難しい」と考えていたので、Appleがどのようなサービスを作ったのか注目しています。

難しいと考えているのは、「メーカーへの料金の配分」の部分です。
ビデオゲームと他のコンテンツの性質の違いを理解し、既存の定額サービスとは異なる分配ルールを設定しないと、うまくいかないと考えています。

もし既存のルールで分配したら

既存の定額サービスでは、視聴時間とか視聴回数とか利用したユーザー数などから算出し、分配が行われていると思います。

既存の定額購読サービスが成立しているのは以下のような場合です
1.コンテンツの開発費に大きな差がない場合
2.一次利用が終わったコンテンツを提供する場合
3.運営がコンテンツを制作する場合

1.コンテンツの開発費に大きな差がない場合

定額収入を制作者で分け合うわけですから、コンテンツの開発費の格差が大きい場合は、大予算のコンテンツが不利です。大予算のコンテンツは他よりもたくさん回収しないとペイしないのです。

書籍や音楽は開発費がほどほどで、差がそこまで大きくないため、定額サービス化しやすいコンテンツだと言えます。

2.一次利用が終わったコンテンツを提供する場合

映像作品、特に映画は開発費に大きな格差のあるコンテンツです。
しかし、大作映画も映画館での回収を済ませた後ならば、定額サービスへ提供が可能になります。

また、定額サービスへ提供する際に、媒体が変わることもポイントです。
例えば映画では、映画館に行かなくても手持ちの端末でいつでも観られるようになる、という価値が付加されます。
このため、すでに一次利用を済ませたユーザーも、定額サービスを利用するメリットが生まれます。

3.運営がコンテンツを制作する場合

Netflixが力を入れてやっていることです。

前述の通り、大作・新作映画を定額サービス限定に作ってくれる制作者はいません。なので、サービス提供元が出資してコンテンツを作ってしまおうという動きです。

これ自体が悪いことではないのですが、これはあくまで「競合サービスに勝つ」ための戦略であり、継続可能なエコシステムになっているとは言い難いでしょう。

これをゲームに当てはめるとどうなるか

以上をふまえ、ひねりなくゲーム定額サービスを作ると以下が爆誕します。
・新作は小〜中規模のインディーサイズのゲームが中心
・大作ソフトは、他のコンソールからの「お古」がメイン
・大予算の新作ソフトも出るが、タイトル数はAppleのさじ加減次第

すこしシュッとした「Ouya」といった感じで、微妙な印象です。

ビデオゲームの開発費は、AAAとインディーで100倍以上違います。何らかのメリットがない限りは、大作ゲームを定額サービスに提供する理由がありません。結果、新作はインディー規模のゲームが中心になると想像できます。

一次利用を終えたゲームを定額で遊べるようになっても、「古いゲームが定額で遊べるようになった」以上の意味はなく、映画にあったような価値の付加は発生しません。
映画なら「ついにソフト化」が、ゲームだと「お古」になってしまいます。
ゲームは一次利用時から「家庭用」であり、個人所有のデバイスで楽しむものなのです。

Appleがどんどん金を出して大作ゲームを出してくれるならいいのですが、望み薄だと思っています。Apple TVを売る時も、ゲームコンソールとして煽った割には、その後の面倒をみていない印象です。

また、少し話題は飛びますが、ゲームは鑑賞に要する時間や期間が一定しないメディアです。この特性を利用して、料金の分配方法を「攻略」すべくゲームをデザインすることが可能です。

例えば分配方式に応じて、以下のようなゲームが横行する懸念があります
・起動時間で分配 → 起動しっぱなしで放置すると進行するゲーム
・起動回数で分配 → ゲーム中断・再開を繰り返すと進行するゲーム
・プレイしたユーザー数で分配 → 1つのゲームを複数のタイトルに分割

収益を最大化すべく基本無料ゲームが生まれたことと似た感じもしますが、基本無料は開発者が「ユーザー」を攻略すべく編み出した手法です。
「Apple」を攻略すべくこの手のハックが生まれるのは、いいことだとは思いません。

おわりに

・ゲームの開発費はバラバラである
・ゲームは二次利用時も体験に変わりがない
・ゲームは鑑賞に要する時間や期間が一定しない

などのゲーム固有の理由で、既存のコンテンツ定額サービスの分配ルールをそのままゲームに適用しても、さまざまな問題が発生してしまいます。
Appleがこの問題にどのような解答を出してくるのか、楽しみに待ちたいと思います。

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