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退化する炊飯器

 23年前に生まれて初めて買った炊飯器がオシャカになった。ここで強調しておかなければならないのは、プラスチックの蓋の部分が経年劣化で割れただけで、炊飯や保温といった基本性能にはすこぶる満足できていたということである。壊れるまでは、ちゃんと美味しいご飯が炊けていたし、問題なく保温できていたのだ。
 なにぶん、親元を離れて以降は他の炊飯器を使ったことがなかったので、当然、どの炊飯器に買い換えても、同等の満足感が得られるものと思っていた。今の世の中、電化製品の性能にそれほどの差はないでしょうと。むしろ23年分、進歩しているでしょうと。
 大きな間違いだった。

<不満1:デカすぎるサイズ>

 

 論より証拠で写真を見せよう。左が壊れた炊飯器で、右が新調した炊飯器。ろくな家電店もない田舎町に住んでいるため、新しいのはホームセンターの限られた在庫品の中から選ばざるを得なかった。
 一目瞭然なのは、新機が無駄にデカいということ。旧機が直径220ミリの円筒形であるのに対し、新機は230×290ミリの四角形。重さは旧機が1.7キロだったのに、新機は2.8キロ。置き場が狭く感じるし、使用後に本体内部に残った水分を捨てようと、持ちあげてひっくり返す時、重くてかなわない。
 メーカー側は「美味しく炊くためにはこれだけの大きさと重さが必要なんですよ」と言うかもしれないが、そんなのはブルシットな言い訳だ。繰り返して言うが、小ぶりな旧機で十分美味しいご飯が炊けていた。

<不満2:ユーザー・アンフレンドリーな設計>

 

 旧機はハンドルと蓋のストッパーが上部に付いていて、持ち運ぶにも蓋を開けるにもまったくストレスがない。一方、新機は、持ち運ぶ時にいちいちハンドルを立てなければならず、蓋を開ける時には前面のストッパーを押しこむ仕組みだ。
(1)購入した当初は、人差し指1本でこのストッパーを押しこみ、炊飯器全体を後ろに押し下げるというマヌケなことをしていた。
(2)少し慣れると、人差し指から小指までの4本の指を側面に添え、親指でストッパーを押した。多少は開けやすくなったが、まだ本体ごと後ろに下がってしまうことも多かった。
(3)購入から1カ月近くたってようやく気づいたのは、人差し指から小指までの4本の指を上面に添え、重力の力を借りて下方に軽く押さえつつ、親指でストッパーを押せばいいのだということ。そうすれば炊飯器本体を後ろに下がらせることなく、上手に蓋を開けることができる。
 同タイプの炊飯器の蓋が開けづらいとお悩みの皆さん、ぜひこのソリューションをお試しください。

<不満3:危険な内釜>

 

 これまた写真から一目瞭然で、旧機も新機も直径は約170ミリのほぼ同じ寸法であるのに対し、深さは旧機が85ミリで、新機は108ミリ。
 これだけ深いと、炊きあがったご飯をしゃもじでかき混ぜたり、茶碗によそったりする時に、気をつけていないと手の付け根付近が内釜に触れて、けっこう熱い思いをする。
 旧機も新機も同じ3合炊きなのに、なぜ昨今の炊飯器はこんな危険な設計になっているのか。各家電メーカーよ、新製品を発売する前に、私のような賢明な生活者の意見をモニターしてくれよ。

<不満4:過剰な保温性能>
 いろいろ書いたが、一番驚き、かつ、あきれたのはこれ。お昼に炊いたご飯を夕飯時まで保温しておくと、うっすら茶色いお焦げができちゃう。全体に固くもなるし、もちろん美味しいはずがない。保温時の温度が明らかに高すぎるんですね。メーカーの製品開発部長と社長よ、市販する前に、なぜ自社の製品を自分で使ってみない。
 最初に書いたとおり、私自身は旧機しか使ったことがなく、しかもその性能にはすこぶる満足していた。ゆえに数年前に炊飯器を新調した母親が、「今度の炊飯器は上手にご飯が炊けない」とボヤくのを聞いたとき、「いやいや、そんなはずないでしょ。水加減とかが間違ってるんじゃないの?」と、あらぬ疑いをかけてしまった。
 真相はしかし、市販されている炊飯器が全体として20年前より退化しているということらしい。

 とはいえ、美味しくないご飯をこのまま食べ続けるわけにはいかないので、どうにか知恵と創意で乗り切らなければならない。
(1)なので最初は昼食時に炊いたご飯を2~3時間だけ保温し、そこでコンセントを抜いてみた。当然ながら夕食時には中途半端に冷め、電子レンジで温め直さなければならなかった。
(2)次は壊れた旧機を保温にだけ使えないかと考えたが、ものぐさな私はご飯を移し替える段階にさえ到達せず、試行錯誤もできなかった。
(3)旧機には「再加熱」という機能があったのだが、この新機には付いていない。しかしダメ元で試してみた。
 具体的には、お昼にご飯を炊いたら、昼食後にコンセントを抜いてしまう(当然、釜内のご飯は次第に冷めていく)。そして夕食の1時間ほど前になったら、再びコンセントを差し、「保温」のボタンを押す。
 結果はオーライ。これで事実上の再加熱が実施され、夕食を取る時間にはほどよく温められたのだった。ご飯が釜の中で焦げつくこともなかった。
 なにぶん、住まいが寒冷地なので、真冬になっても同じやり方が通じるかどうかはわからない。しかし臨機に即応し、この新機がドードー鳥やマンモスと同じ轍を踏むのを、どうにか救ってやりたいと思う。

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