見出し画像

『人間迷路』に寄せられた各種人生相談がガチで迷子ばかりである件について

 私のやっております有料メールマガジン『人間迷路』では、毎号巻末に読者の皆さまからのご質問やご相談にお答えする『迷子問答』というコーナーを設けさせていただいております。

 ところが、月3回刊のペースで消化しておりましたところ、現在概ね毎月7件から8件のご相談をいただき、せっかくのご質問なのに個別のお答えになってしまったり、泣く泣く掲載見送りになってしまったりしています。

 それもありまして、一部ご質問につきましてはご質問者の承認を頂戴して本件noteに放流させていただきつつ、回答とさせて戴ければと存じます。

 本編にご関心のある方は、ぜひメルマガをお買い求めください。

Q 【強いというのは何を意味するのかが分からない】

いつもメルマガを拝読しております。30代の元格闘技系男子です。
小学校高学年からボクシングをはじめ、ずっと「男は強くあらねばならない」という親の思想がありました。強くなりたい、強くなければならないと強迫観念を持って生きてきました。
ただ、自分がどんなに努力をしても上には上がいるものです。ま、もっと強い人がいまして、所属したジムではいつも三番手、四番手であり。新しい活躍の場やマッチメイクを求めて思い切って移籍してみたのですがこれもまた駄目でした。いろいろありましたが、詳細ははぶきます。
結論、プロボクシングの世界に入って自分なりに頑張ってはみたものの低迷を続けてました。最後は網膜剥離というボクサーとしては致命的なケガをしてしまいました。キャリアを絶たれました、ただ、引退が目の前の現実になった時、むしろホッとしたような、楽になったような気がしまして。
しかし、現実はさらに厳しく、高卒アルバイトで元プロボクシングの世界から普通の仕事を模索しようとしても難しい。
しょうもない話ですが、強くありたいと志したはずのあの世界、一番戦いで辛かったのは食事制限でした。どうしても敵わない仲間が同じクラスにいたので、ひとつ下のクラスで頑張った結果です。しかし、ボクシングを辞めてからデブになりました。たいして背もないのであっという間にチビタンクになりました。
ボクシングの良さである「見た目で戦闘力が分からないこと」を武器に、しばらくは飲食店の黒服などもやり、随分可愛がっていただきました。が、ふと、俺は強くなりたかったのではないか、と思い直しました。山本さんのことを知ったのは、ある著名な格闘家の人たちが、引退して娑婆に出る時山本さんをメンターとされていたと聞いたこと。また、昔はネットで騒いでいた山本さんは家庭を持ち妻子あっても戦う気持ちを忘れず強い人なんだなと思ったことが理由でした。
俺には経済のことは分かりませんが、分かろうという気持ちは強くあります。それに、たいして強くはなれなかったですけれどど、強い人の気持ちはよく理解できていると思います。
しかし、この現実を前に自分の強さを求める心が挫けそうだということ、そんなことについて、アドバイスをいただきたいと思っています。
よろしくお願いします。

A 【社会に出た人の「強さ」とは、期待に応え続けること】

 仕事柄、どうしてもスポーツ選手の「第二の人生」について相談されることも多くあり、同時に、それまで培ってきたことと、一度ユニフォームを脱いだ後でそれが通用しない社会でどう生きて行ったらいいのかという話によくなります。比較的プレイ人口が多く、現役を退いてからも仕事はまだある方のはずのプロ野球においても、やはり野球界に残れる人は一握りで、それ以外の人たちは異業種に出て行って身を立てていかなければなりません。

 そして、若いころ夢中になった野球ができなくなったあとで、自分には何の得意なことも、強みもないのではないかと皆さん悩むのです。その素質を認められてプロ入りした人たちが、より高い舞台で能力を発揮しきれず、あるいは不幸にしてケガに見舞われて引退に追い込まれた後は、皆さん牙を抜かれた獣のように意気消沈されることもまた多いのです。

 しかしながら、私が彼らに話をさせて戴くときに必ず枕に置くのは「好きで突き詰めて熱中してここまでやってきた経験を活かすことができれば、どのような仕事でも『熱中すれば』いまからでもひとかどの人物になれる」という内容です。己の価値観と向き合い、取り組むべき物事が好きにさえなれれば、ひとつの分野に必死で取り組んだ経験と自信があなたがたの未来に新たな礎を築くことはできると思うのです。「いまどうであるか」だけを考えれば、目の前にそびえたつ現実の壁は厚く高いですが、まずは「どうなりたいか」を見据えることができれば、そういう壁を認識しながらも、より高い目標に向けて歩むことが苦ではなくなります。ぼんやりと「いまがヤベェ」と思って立ちすくむよりは、距離がこのぐらいあって、このぐらいの努力を10年15年と続けなければならないと分かりさえすれば「じゃあ粛々と取り組んでいくか」となりやすいのではないでしょうか。

 成功例で言えば、子どものころからの夢を達成しながら大成できなかった悲しみを抱きつつも外車販売の仕事で持ち前の体力と集中力でトップに上り詰めた方もいらっしゃいますし、一念発起してロースクールに通われてから司法試験に通って弁護士になられた方もいます。どこの世界にも、上を見れば上がいます。どの山を登るのも自由ですし、ご自身の価値観や能力にしっかり見合った頂を目指して準備をされ、一歩を踏み出していただくのがよいのではないでしょうか。

 一方で、貴殿が仰る「強さ」という価値観は、現象や断片で終わってしまうと結構簡単に行き詰まってしまう危険なものです。例えば、あるタイミングで何かを成し遂げ「自分は強い」と確信した瞬間から退化が始まります。本当の強さとは、世の中いろんな変化があったとしても自分の本分を守り、強くあり続けることにあります。言い換えれば「優勝すること」ではなく「優勝しても挑み続けること」であり「優勝争いに絡み続けること」です。

 もしもいまなお強さを求め続けておられるのであれば、一からでも、弛まず努力し続けられる強さを発揮し、どんなことで頂上を目指そうとされるのか是非お考えいただければと存じます。ボクシングのように、ある程度の若さと素質と巡り合わせが伴わなければ強さを認めてもらえない世界で得た経験を活かしながらも、社会人はさまざまなところに生きる価値があり、勝ち抜く意味を持つ山の頂があるということは是非知っておいていただけると幸いです。

Q 【山本さんは「嫁ブロック」をどうしていますか】
山本さん、いつもありがとうございます。ここ2年ほどメルマガを読ませていただいている40代男性で、既婚、11才8才のオスメスを養っています。
質問なのですが、今私がいる業界は景気低迷が深刻なとある精密部品を扱う製造業です。と言いましても、私は社内システムを担当しているのですが、本社にいる百数十名ほどのパソコンのお守りをするようなヘルプデスク業務で毎日消耗しています。
先日会社でシステムの更新プロジェクトがあり、上長がリーダー、私がサブとして入っていたのですけど、上長は何もせず、実質私が要件定義から導入実務、テストや顧客への説明まで全部やり、何日も何週間も会社に泊まり込み本格運用にこぎつけました。
達成感は凄かったですが残業代もまともに出ず、半年以上家庭の事もあまりかえりみられず、珍しく嫁と喧嘩をしたりしました。こんなことで人生を消耗していていいのか。ストレスが溜まるので仮想通貨に手を出して40万円ほど損をしたり。
よく考えたら先日40才になりまして。業務システムのことを見ても、わが社に将来性はないのは当然として、私にも出世の道も、それに出世の意欲もないことに気づきました。
幸いにして、以前世話になった取引先から何度も声をかけていただいているので、思い切って転職を、、こんな先のない組織からの脱出を、、、と思ったのですが、ここでさらに嫁ブロック。専業主婦である嫁と言い争いになりました。「ずっと家にいるお前に何が分かる」と。
こう書くと嫁は気性が荒そうに見えるかもしれません。が、実際には今まで決してでしゃばることなく、家の中を守ってくれて、とても感謝しています。とはいえ、仕事のことは私もあまり家で話すこともないままずっと会社で残業していたため、突然私が転職すると言ってびっくりしたようです。
とにかく猛反対した嫁を説得してでも転職をした方が良いのか、それとももうこの冴えない会社に骨を埋めるつもりで頑張った方がいいのか。転職相談など山本さんにしても仕方がないのは承知していますが、どう思われますでしょうか。

A 【まずはいまおられる会社で、待遇改善の交渉をされてはどうでしょうか】

 さすがに細かな企業さんの状況やご待遇について知らない状態で無責任なことは申せませんので、一般論として、気になったことを折り返しさせて戴ければと存じます。

 拝読するに、非常に企業システムへの投資をおざなりにする中で、ご担当である貴殿に対しての評価が低いところからすべての問題が始まっていて、もしも充分に基幹システムの更新に予算がついていたならば、また必要な権限が与えられていたならば、社内から人を回してもらうなり、中途で採用するなりで貴殿の仕事はある程度軽減させられたようにも見えます。また、上司の方がイマイチ使えないけど最後までやり遂げたのは凄いとしても、そのような大仕事の後でもたいして待遇が改善していないのでは、会社にとどまったところで最後までこき使われるのがオチではないかとも感じます。

 奥さまのお考えはすべては分かりませんが、やはり今のお勤め先での貴殿の立ち位置や考えについてもっと多くの時間を割いて細かく説明されるなかで、残留なのか転職なのか、さらに職掌としてステップアップのご転職をされるにももう人生で最後であろうこと、そして貴殿がこの仕事を通じて何を実現し、家庭をどう幸せにしようとしているのかというあたりをじっくりとお話されるのが良いのではないでしょうか。ちゃんと話をせず説明もされていない状態で、夫婦の仲だからと言って「わかってくれていたはずだ」というのはさすがに微妙です。正しい答え、望む回答を言って欲しいと考えても無理筋なのではないでしょうか。

 一番気になるのはそれだけの仕事をしていてたいした評価をしていない会社に留まる選択をいままでもされてきたのか、という点です。儲かっていない会社あるあるですけれども、薄給で頑張るシステム部門の要人がパッと転職してしまい、会社が慌てて採用しようにも人が集まらず、外注で出したら数千万の費用を要求された、というネタはよく出ます。情報化投資にカネを突っ込まない経営者のいる会社ほど、システム担当者が去った後で右往左往することになり「ゴン、お前だったのか」みたいなことになるんですよね。

 それもこれも、会社の中での出来事やお立場を、貴殿があまり奥さまにご説明されていないという家庭内でのミスコミュニケーションが問題の中心であり、貴殿自身もその後の人生やご家庭をどうされたいのかというもう少し明確な目標をお持ちであれば、奥さまのお考えももっと合理的なものとなり、ご夫婦・家族一丸となって問題に取り組んでいこうという流れになるのではないかと期待します。

 まずは、何よりもご状況をきちんと整理されたうえで、人生の先に何をお築きになりたいのかを考える作業をやられるほうがいいと思いました。

Q 【左遷されて身の回りが馬鹿に見える支社長へ付ける薬】
山本様、以前プライバシーフリークカフェでご一緒させていただいたF氏と申します。大変ご無沙汰しております。
私は半導体系のエンジニアをずっとやっておりキャリアも長いのですが、昇進によって開発現場から引き剥がされ、R&D施設の責任者を経て今は営業や研究拠点を束ねる地域統括の仕事をしています。
さて、質問というのは私の部下たち、特に管理職の扱いについてでして、アドバイスを戴きたいのですが、仕事でミスをしたり精彩を欠いている管理職の面々については、心機一転して環境を変えればまた前向きに取り組んでくれるのではないかということで、国内工場の技師長や地方都市にある各支社の責任者として送り出すことが多くございます。
ところが、本社や海外で上手くいかなかった管理職を、いわば「左遷して」これらの仕事につけると大抵において現場から猛反発、大ブーイングが発生いたします。これは100%起きることです。
ヒヤリングいたしますと、パワハラは当たり前、単身赴任もあって現地に女を作ろうとして部下の女性に手を付けたり、地方大卒や高卒の社員を衆人の面前でバカにしたりと、酷いことばかりを起こします。
それまで、決してパワハラなどの訴え出がなかった、見るからに温厚そうな人物ですらです。まさか、というようなことが起きます。
執行役員として唖然とするばかりで、どうにかしなければならないと思うのですが、こういう場合はどんな取り組みをするのが一番有効とお考えでしょうか。
当社の社風なのか、ここ数年この仕事をしていると地方に出した管理職はほぼ全員、確実に何かやらかすのです。これが普通なのでしょうか。それとも当社の方針が悪いのでしょうか。

A 【手放しで認知に送り込んで権力を与えるには「大義名分」や「思想」の徹底が必要】

 ご無沙汰しております、まさかそんなお悩みがあったとはと思いながら拝読しましたが、あまりにも機微性の強い内容ですので詳細については個別にやり取りさせていただきつつ、メルマガでは一般論として回答させていただければと存じます。

 平安時代に律令政治をやるにあたり、地方に国司を出して治めさせたら大混乱になった話は歴史を習うと出てきますが、中央、本社から人を出して権限を与え組織を走らせるにはどうしても「思想による手綱」が必要なのではないかと私は思います。

 ぶっちゃけ、国内でも海外でも事業を他人に任せるときは「常に問題はなにかしら起こすもの」という大前提でやらなければなりません。言い方は悪いですが、さして素養がないけど企業人事の都合で彼らに管理職としての仕事を与えなければならないので地方に行ってもらう、というのは、やらかさないはずがないのです。人格的にも能力的にも本当に優れている人であれば、中途半端な形で地方拠点を任されるというようなことは置きませんし、もしもそんなことをしたら普通はどこか別の会社に引っ張られて辞めてしまいかねません。そういう組織の中では「左遷人事」と見られかねない不名誉な異動すらも淡々と受けて流れていく人たちというのは、ある意味で会社にしがみついて生きていかなければいけないという事情を持つ人か、その程度のレベルの人でしかない場合が多いのです。

 そういう人たちに権限を与えて自由に地方で頑張れというのはトラブルの温床であり不正乱発もあり得ることだと思いますし、私自身も中国人を雇って上海で仕事をさせたときに勝手に大穴を空けられたり、会社のカネを使い込まれたけど証拠が挙がらなくて歯がみしながら退職金を払って解雇したりということはありました。

 必要なことは会社の仕組みとして常にチェックできる体制を作るだけでなく、地方で仕事を任せる意味について、会社の側がしっかりとした意志を示し、そこに使命と思想を詰め込んで何度でも何度でも言い続けて本人に理解をしてもらい、また、それを実現することが自分自身の価値を高めて成長に資するものなのだと確信してもらえるようにしないとなりません。それでも不正は起きるわけですが、好き放題やって良しとなってフルスイングで悪事を働かれるよりは、多少は他人の目があり、思想を吹き込まれて良心の呵責がある状態でおずおずとやるぐらいのほうが妥当です。

 欲を言えば、中高年の管理職で人事ローテーションに本来は地方赴任のような放り投げ人事をしなくて済むような、現地採用と若手起用の座組があったほうがいいんじゃないかなと思います。これは本当に業種に違いますし、人材の採用しやすさや拠点が叩き出せる利益率にも拠るので何とも言えませんが、貴殿のようにB2Bの仕事がメインのところであれば、さらに企業秘密の防衛なども視野に入るので、むしろ企業全体で社員さんたちのキャリアパスをいま一度デザインされ直すのが良いのではないかとも思います。

 いずれにせよ、本社人事の成れの果てで役に立たない人にもポストをあてがわなければならないというクソみたいな理由で地方に行くというのは、その地方で働く人たちにとっても苦痛以外の何者でもありません。骨を埋める覚悟で意欲的に取り組んでくれる人が本社なり現地なりにいれば、そういう人を育成していくのが本来は一番ハッピーなのではないかな、とは感じるのですが。

画像1


いいなと思ったら応援しよう!

山本一郎(やまもといちろう)
神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント