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昨今『反社会的勢力』チェックがザル化している件について

 新年早々おめでたくないネタではあるんですが、株価が全般的に噴いて、資産バブルが起きていることもあり結構無茶な増資や、どうしようもない企業の上場予定が相次いでいます。

 10月から暮れにかけて、お付き合いしている先のチェックを遠巻きにやらせていただいたのですが、だいたいネタ的に3種類あります。

指定暴力団や半グレ組織の構成員か、深く関与しているとされる人物

 当たり前ですね。ヤバい人たちなのですが、ここで氏名だけチェックしていると「有名だけど事業としてヤバイ方面に積極的に手を出している著名ユーチューバー」がなぜかダミーとして登場し、裏口上場の斡旋や売り上げの付け替えによる粉飾決算、さらにはインサイダー取引にまで加担していて、正面から対応していた元経営者がそのまま逮捕される事案にまで発展することがあります。

 基本、彼らは証券取引だろうが仮想通貨だろうが情報商材だろうがシステム金融(二社間ファクタリング)だろうが、自分ではやりません。実質的に舎弟になっている若造を教祖で仕立てるのが一番やりやすいのです。

 ところが、この手の人たちはそもそも偽名やユーチューバーなどでの仮の名前でやるので、チェックに引っかかりません。例えば、誰かが無断で「なんとかMAXです」と名乗って、周りが「こいつ誰やねん」となっても、誰も住民票や登記簿謄本では最初は調べられず、事件化して初めて「あっ、あいつアカンやつやったんか?」という話になるのですが、そのころにはそれ相応の二桁億円のおカネが動いてしまった後なので、いくらこの若者を吊るしたところで被害金額は返ってきませんし、反社チェックをしっかりやっていたつもりでも浮かび上がってこないのです。

暴力団関係ではないが詐欺事案で著名で、しかし逮捕されてない人物

 先日、俺たちの積水ハウスが巻き込まれた素敵な地面師事件で首謀者の皆さま方の公判があったりしましたが、詐欺事案では特に、事件化しない限り反社チェックにはなかなか載らないよという問題があります。

 しかも、別に暴力団関連の人脈に繋がってないのに詐欺的なビジネスをやらかす人たちというのはたくさんいて、血液クレンジングから謎水テクターまでさまざまなネタがあります。しかも、本人は人を騙している、根拠のない製品やサービスを提供しているという認識がなかったりするナチュラルボーン詐欺師というのもあり、四国に住んでたり、大学を自称してハーメルンの笛吹きのようなことをやっている事案もあります。

 周辺から見れば明らかに詐欺師の風格なのに、被害者が事件化していなかったとか、あったとしても返金訴訟で民事であれこれあり話題の人物になる程度だと、なかなかこれらのチェックに載らないという欠点があります。ウルフ何とかみたいに「金返せ」「返せない」と大騒ぎした挙句、良く分からないセミナー屋で恥ずかしげもなく顔出しをして二千円ぐらいのタバコ銭を取りに行く寸借詐欺めいた事件を起こしたりしても、あるチェックリストにはご本名が見当たらなかったりもします。

それどころか、これもう完全に詐欺やんけという案件においてすら、リバースで問題人物リストに載らないどころか、本人はいまだに弁護士資格を保持してるとか、最近では大阪府のゴミワクチン製造会社で株券印刷業のお手伝いをされていたりするのを見ると、何のためのチェックなのかと心配になります。

すでに上場企業の経営者や取締役で、リストに載りようがない人物

 もうすでに巨人が城壁の中に入っているとこのカテゴリーに入ります。

 入り込まれてしまっていたら、どうしようもないので、基本的にハコ企業に関係する人物はリアル経歴書を見てハコにいたかどうかからチェックしていかないと駄目です。

 先日、仮想通貨会社の代表取締役から降ろされた素敵人物などは、過去から計画倒産を繰り返し、昨今では「マックス何とか」とその無能な連れをたぶらかしてCFOに納まり、さんざんパワハラ案件をやった挙句に追いつめられると自分は末期がんだと嘘をつき、それらの経歴を隠して暗号資産に強いとの触れ込みで上場企業の社外取締役になろうと画策するなど、とんでもない狼藉を働いて、レーダーに機影を確認した私たちが遠くからミサイルを撃って撃墜しなければりませんでした。

 昨今では、絶対に不可能なテクノロジーを標榜して大学発ベンチャーと称し、コスト的にまったく見合わないエコ事業を立ち上げて煙幕を放ちつつ、会社のプロモーションのためにCFOを公募して未経験の人物を就任させておきながらやっている事業の実態は単なる健康食品販売業という糞のようなハコ企業もあります。

焼け太る問題企業や人物の排斥について

 それもこれも、上場企業ゴロと呼んでも差し支えない事案ばかりですが、いまの一番の問題は、面と向かって「おんどれは反社会的勢力でいらっしゃいますね」というと名誉毀損だなどと騒がれて面倒が増えるという点にあります。元暴力団組長が出てきて「こいつは20年前ウチの組の舎弟でした」と証言されているにもかかわらず、本人が「そのような事実はない」と突っ張って揉め事になる事例さえもあります。

 また、以前は香港、最近はシンガポールに家族ごと逃げて、チェックリストのレコードが消える(ことがある)3年から5年程度の冷却期間を経て舞い戻ってくるケースも増えました。粉飾したコンテンツ会社をタイトルごと大手企業に売ると持ち掛け十億単位のカネを得てシンガポールに飛んだケースや、同じく粉飾したコンテンツ企業を「他からも声が掛かってるのでいまからならこのぐらいの金額で売ります」と吹っ掛けて買わせてその後インチキコンテンツが大炎上したらそのカネをもってシンガポールに逃げて界隈から消息を消すケースもあります。

 当然そういうものは我々も追いかける習性があり、また、先方からも「この日本人、羽振りいいですけど何なんです?」と情報提供があったりもするので、いろいろと突き合わせて指さし確認をしながらやっていきます。が、最近追いかけきれないようになってきたのはIPOだけでなくバイアウトの規模が大きくなってきて不正の問題もかなり抜き差しならない状況になっている割に、肝心の東証が問題企業を放逐しないので、「上場前から現在に至るまでずっと粉飾してました」とかいう企業を上場廃止にしないどころか、救済先企業に対して照会もあまりきちんとかけていないからです。

 言い方は悪いですが、悪いことをしたもの勝ちであるのは間違いなく、しかも、最近はその程度が悪くなっている実感があります。粉飾を見抜けない監査法人が悪い、上場させれば儲かる証券会社がいけないという話もありますが、一番の問題はそういう「やられ方」が防げないのは仕方がないにしても、それが露顕しても上場廃止や課徴金などのペナルティと、第三者による調査委員会で出た事実をきちんと認定して「こいつはヤバイ」っていう人たちをリストに入れて証券市場からきちんと締め出すエコシステムが存在していないことにあると思います。

 昨今では、内部告発を社内の有志が行ってもなかなか対応できないケースが増えているようにも見受けられ、おそらくは、チェックと対応のペースよりも上場や増資の規模が大きくなり、そのスピードも速くなっているからだと思います。あっさり上場した後でクソのような下方修正、実はその理由は売り上げの先食いや不正計上でしたというときに「お前死ねや」とちゃんと言えないのがマズいし、それに加担したり、見逃したり、仕掛けた人物たちを(仮に刑事訴追などされていなかったとしても)きちんと排除できなければいけません。

 また、本人はやっちまったことについて真摯に反省しているよ、実は本人も騙された側だったよ、というものもあります。このあたりのリカバリーの方法は真剣に考えなければならず、神の前では人はみな原罪を背負った咎人であることも踏まえて性悪説なんだけどツーストライクアウト制や、タイプ別の反社チェックみたいなものを充実させるといろいろ捗るのではないかと思います。もちろん、問題企業の市場からのキックアウトは裁判によらずに(公序良俗よりもう少し厳格なラインで)できるといいなと思います。

 それもこれも、投資家保護を行うための公正な証券を含む市場環境の実現という大命題があるべきで、一人でも多くの投資家が不当で不正な取引で損害を蒙ることのない環境づくりをしていってほしいなあと切に願います。

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山本一郎(やまもといちろう)
神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント