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公証制度(公証役場、公証人)を使った適法性確認とかいう与太話について

はじめに

 さっき木曽崇さんと副島雄一さんが私的な賭け事についての契約書面の公証のため公証役場にぶっ込んだところ、門前払いされるという珍事がありました。

 面白いので見てましたが、一時の娯楽に供する罪に問われない賭け事に関する契約の私署証書認証を取りに行った話なので、ひょっとしたらいったんは受け取り後の審議あるかなと思いきや門前払いでしたね。

 公証人法26条による拒否は理由書を作ることになりますが、ただ本件では「法令に違反した事項」に該当するかどうかは裁判例から引っ張らねばならず、法的判断を伴う事項であって公証できませんから一行で終わるか提出されない奴ですね。

公証人は、法令に違反した事項、無効な法律行為及び行為能力の制限により取り消し得べき法律行為につき証書を作成することが出来ません(公証人法26条)。

https://www.koshonin.gr.jp/system/s02/s02_04

 それに先だって、あしやまひろこさんが私署証書認証を公証証書で取っておけば警察に表現規制で踏み込まれても摘発されないという類の与太話をしたのを真に受けた人たちが、何件か公証役場に類似案件を持ってきていたようです。

結論として先に書くと

 無駄です。

 公証人が違法ではないと判断していたとしても捜査機関や刑事訴訟との関係でただちにその判断が通用するわけではなく、必要があれば逮捕されますし、刑事事件になれば普通に弁護人に依頼するなどして法的主張をすることになります。

公証制度とは

 公証制度とは、基本的に国民同士の揉め事が起きがちな私的契約を記した契約書面などに対して、その内容の「一定の事項」を公証人に証明してもらうという制度です。

 この「一定の事項」を認証するのがは、私署証書の認証です。日本公証人連合会のウェブサイトで,「私文書の成立の真正を証明するため、私文書にされた署名(署名押印)または記名押印(押印)が本人のものであることを、公証人が証明すること」と説明されています。

 私署証書の典型的なものが、世間一般の取引(金銭消費貸借や不動産取引、遺言信託など)についての契約書です。

 公証制度とは,国民の私的な法律紛争を未然に防ぎ,私的法律関係の明確化,安定化を図ることを目的として,証書の作成等の方法により一定の事項を公証人に証明させる制度です。
 公証人は,国家公務員法上の公務員ではありませんが,公証人法の規定により,判事,検事,法務事務官などを長く務めた法律実務の経験豊かな者の中から法務大臣が任免し,国の公務をつかさどるものであり,実質的意義における公務員に当たる(刑法の文書偽造罪等や国家賠償法の規定にいう「公務員」に当たる)と解されています。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji30.html

 不動産取引などで多く公証制度が利用されるのは、取引の中身の明示で一般的な取引事項の公証を得られる傍ら、工業用地などでは特に土壌汚染など瑕疵条項について確かに署名者が契約を結んだということを明確化させるにあたり、環境アセスメントによる確認を義務付ける際の私署証書認証が必要とする大口取引が存在するからです。

 最近では、メガソーラーなどでの土地利用でも、公証制度が良く利用されるようになりましたが、これも休耕地にソーラーパネルを敷き詰める際に土壌・水質汚染が大きな問題になって瑕疵があるものの、自治体からすると行政指導までしかできない時期が多かったからです。

 ここで「公証人ハ法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為及行為能力ノ制限ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ法律行為ニ付証書ヲ作成スルコトヲ得ス」(公証人法26条)とされています。日本公証人連合会のウェブサイトの説明では,「公証人の行う認証の効力は、その、内容の真実性や正確性を証明するわけではありません。内容の真実性や正確性ではなく、公証人は、公証人法26条の規定により、文書の内容が違法、無効等なものでないかどうかという観点からの審査をしなければならず、法令に違反した事項や無効な法律行為等の記載がないかどうかを審査する」とされています。あしやまさんや木曽さんは,この「法令ニ違反シタル」の審査があるから、公証人が私署証書認証をしてくれた契約に記載されている内容は適法になったんだ、と主張したいのだと思います。

 しかしながら、公証人の審査内容に「法令ニ違反シタル」が入っているのは、

公証制度は国民同士の契約の署名の真正などを証明する制度だから

 であり

違法であったり、無効であったり、取消事由がある契約書の私署証書の真正を証明することを防ぐため

です。他方で、公証制度で審査されるのは契約が無効になるかどうかという意味での違法性(公序良俗違反)です。売買しようとするを特定の作品があまりにも卑猥だとか、賭博の賭け金についての契約であるとかで、当該契約が公序良俗違反であるとすれば公証人が私署証書認証を断る場合はあるでしょう(木曽さんのケースです)。

 そして、これは著作物や契約行為の中身が「捜査機関や刑事訴訟など司法において違法性のあるものかどうか」の審査ではありません。それらは私人間の契約とは無関係ですから公証人は判断しません。際どいものについて公証人が違法ではないと判断したとしても、捜査機関の判断や刑事訴訟において違法であるとされることはあり得ます。

法務省民事局は何を言っているか

 所管の法務省民事局にも「おんどれのとこ、こんな話あるようだがな」と水向けしてみましたが、一通り話を聞いてもらって一言「何でそんな話になってるんですか」とのお言葉の後「公証制度は、国民同士の既存の(一定の)法的事項で公証する仕組みですから、個別の法的判断は行いませんし、事例ごとの適法性はもちろん判断しません」という普通の返答でした。

 ワンチャン通ったら面白れえかなと思った私が馬鹿でした。

おわりに

 なお、グラビアアイドルに詳しい弁護士の板倉陽一郎先生にコメントを求めたところ「公証人を論破しても仕方ない。筋違いのことをしているのではないか」とのことでした。

 本当にありがとうございました。

 画像はAIが考えた『ゴリラが折から出ようと暴れていろんなものを投げているけど制度の分厚い壁に阻まれてやっぱり出られない残念な状況』です。


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