NHK関連の記事を書くとやってくる関係者からの程度の低いクレームについて
はじめに
NHKを巡る問題について、別にNHKで働いている人たちが悪いわけじゃないんですが騒動になっているので、プレジデントにも記事を書かせていただきました。
私どもに寄せられる業界内での反響は7割がた賛成といったところなのですが、もちろんいろんなお立場やお考えもあるので、異なるご意見をお持ちの方がいても然るべきとは思います。もちろん、真摯に聞き流します。
ただまあ何度かやり取りをさせていただく中で、ちょっと私にはよく理解できない「NHK不要説」を硬く主張される方たちがおり、また、それによって、いまだに本気でNHKは民業圧迫なのだと信じておられるようであることを知り、強いショックを受けています。馬鹿なのかな。
本来ならば、頂戴したご意見に対していちいち論証したり反論することは望ましくないのですが、状況的に簡単に論じておくべきだと思いましたので軽く触れます。
別に誰かと連動して何か陥れるような陰謀があるわけではない
関係先から頂戴した中で割とショックだったのは「NHKの陰謀に山本一郎が加担している」という内容です。まともな経歴の人が真顔でそういうことを言ってくるので、大変なことだぞと思います。これは先週、私が文春オンラインに記事を寄稿した際にも、複数の新聞業界や放送業界の関係者から頂戴した内容ですが、実際のところ陰謀も陰毛も陰嚢もございません。単純に、業界を知る者として、また、政策議論を行う界隈のはじっこに生息するものとして、当然に事情を知り得る立場であり問題意識を持ち論ずることができるから書いたまでです。
「このようなことを、あまり面と向かって言われることが無かった」とのことですが、おそらく、新聞業界において、いまのNHKのネット進出を本来業務化したり、情報ソースの多元化を担保したりする議論で「NHKがネットに出てきたところで民業が圧迫されるほどのスーパーパワーではない」と誰も中で指摘が無かったのかという話になります。そんな馬鹿な、と思うんですよね。
こんなのテレビ業界に取材をちゃんとしていれば、あるいは総務省の親会であれWGであれオブザーバーで出入りしていれば、当然に関係する役人や業界関係者、有識者は等しく指摘することでしょう。実際、それらの指摘はしたという取材先さまからのネタもありますし、それを「知らなかった」なんてことはあり得るんでしょうか。民放や新聞社含む民間事業者VS日本放送協会の構図、なんて認識している人は痴呆症レベル5です。
故に、私がどこかと結託して、何かの利益を代弁するために記事を書いたなんてことは特にないのに、NHKの肩を持っているように見えたのであればそれはあなた方が毒されています。ここ数年、本件でもそれ以外でもNHKから百円とてもらったことはないし、取材でNHK職員に鰻を奢った(それも自腹で払った)のと、イタリアンでピザを割り勘で食ったぐらいの関係しかありません。ぶっちゃけ渋谷で出されたお茶も飲んでません。私、出先であまりお茶に手を付けないので。
それどころかNHKから記事に対して一部クレームも受けている
記事中、一般的には割とどうでもいい記述のところでNHKから事実無根であるとの抗議も頂戴していたようです。
実際には、事実無根どころかNHK内部の有志の皆さまから提供された情報・資料に基づいて記述した一文に関するものだったのですが、NHKからするとそのような検討を内部で行っていたことそのものがけしからんと言われる懸念があることから、対外的には否定せざるを得なかったのではないかと思っています。NHKの組織内の立場やWGでの説明内容も承知しておりますので、私から多くを書き募るつもりもありません。ただ、本件に限らず、私は相応に取材を終えて裏付けが得られてからでないとこのような記事は絶対に書きませんので、そこはご承知おきください。
文春もプレジデントもヤフーなどに記事配信してるので、プラットフォーム関連についての悪口は書いていない
また、新聞記者の方からも複数、日本新聞協会(メディア開発委員会)の立ち居振る舞いに関するご意見は頂戴しました。一部ごもっともだなと思うものもございましたが、私が記事中、NHKネット関連事業・テキスト配信の収益構造について触れなかったのは、掲載媒体の文春オンライン、プレジデントオンライン共にヤフーなどネットニュースやプラットフォームに対する記事配信をしていることから、ハレーションを避けるために記述をしなかった部分があるというだけのことです。
ここはnoteなので書いてしまいますが、有料記事配信のペイウォールとヤフーやGoogleなどプラットフォーム事業者への配信との関係で言うならば、スポーツ紙の芸能・スポーツのゴシップ系コタツ記事ならともかく、私らが原稿料を頂戴してこれらのプラットフォーム事業者に記事配信をしてもたいした収益は媒体としては得られないのも事実です。これはNHKが悪いのではなくヤフーは滅ぶべしという話に過ぎませんので、多くを書く必要も無かろうと思います。
ブロック紙でもない地方紙が、NHKがネットでの記事テキスト配信を本来業務化することに反対したところで、そもそも地方紙はたいしてネットで儲かっていないだけでなく、本来ならば、お前ら自身が業界が横で繋がって俺たちがカネかけて作った記事を安くばら撒くな、時期に貼られたネット広告収益に対する分配を行えと団体交渉するべき立場です。要するに、ヤフーニュースに配信されて得られる小銭を巡って取り分が減ると騒いでいるだけであって、NHKは仮想敵でもなんでもないし、所詮は外部の業界団体の分際で公共放送WGで意見書を出せる立場ですら本来はないでしょう。
この辺の話を焚き付けたのは日経なんですか、電子化で先行して頑張って独自のポジション築いたのは良かったと思いますが、少なくとも日経がその後失速した理由はNHKには無いのは明白だし、いったい日経グループの社内の誰に忖度して潰れそうなローカル紙の皆さんを焚き付けてNHK改革の足を引っ張る書面出させたりしたんですか。NHKの改革を妨害したところで、ローカル紙は近い将来みんな死ぬ運命にあるし、日経だってピアソンの後始末どうするんだって話になるでしょ。死ぬなら他人を巻き込まず一人で死んでください。
くたばりそうな地方紙が自民党に圧力かけてどうするんだよ
で、たぶん「自分たちが何をしたか分かってない」のでしょうが、よりによって、日本新聞協会の名目で自民党に突撃してました。それを、提灯記事よろしく読売や朝日がネタにしたものだから、結果的に、寝た子が起きたことをたぶんまだ彼らは理解をしていない。しかも、そこの自民党情報通信戦略調査会の会長は私極道の妻認定を最高裁から頂戴した野田聖子さんです。やあ元気? 裏を返すと、そんなことしなければ、公共放送WGで出る方向性にそこまで注目は集まらなかったのかもしれません。
https://www.pressnet.or.jp/news/headline/230712_15091.html
先にも書いた通り、新聞協会はNHKのネット展開に対してモノを申せる立場にはないし、総務省に対して「(NHKの)ガバナンスの協議」を申し入れること自体がお門違いです。他人の土地に入ってきて、この土地からはちゃんと花火大会の花火が見えないと言っているようなもので、NHKが放送受信料を法律で徴取できる根拠である公共放送とは何かについて何の責任も負っていないのが新聞協会です。彼らの意見を通したら、彼らはNHKのために、何かしてくれるんですか。民業圧迫だとかいう長年お馴染みの言いがかりをつけて妨害してるだけでしょ。
それを、地元の名士がさも票田がありそうな雰囲気で自民党に持ち込んできたところで、議席を確保したい自民党議員は「ですよねー」と総立ちになることはあるかもしれません。地方紙自体というより、その地方紙を運営している地元財界はテレビ局もタクシーバス会社も駅前の不動産も持ってる人たちでしょうから、逆らえないので「なるほどですね」って言ってるだけです。
さらに、特設リングのある総務省は総務省でよりによって小笠原陽一さんが局長になって、政策に対する態度がマヨネーズ状態で頭ゆるゆる放送村だから陳情を受けて煽られて顔真っ赤な自民党議員たちが鈴なりになって局長室の扉を丸太どーーんでぶち破ろうとするなら光の速さで開門落城待ったなしです。ブレてんじゃねえよ。
ただ、さすがに自民党も千年一日のごとく百日手状態のNHK問題で右往左往するほど馬鹿でもないから、政策や業界状況を理解してる人たちに「あれってどうなの」って訊いてくるわけですよ。説明するのに手間がかかるんだよ。もちろん聞かれたらちゃんと答えますが、0時回ってからクソ深夜に「一郎ちゃん、赤坂にいるならちょっとこれ教えてくれる?」とかいう暮らし安心クラシアン同様に呼び出されてご説明申し上げるのも辛いんですよ。
ゆえに、この界隈はルーピー鳩山対策同様に終わりなきオセロをやることになるので、つまらんロビー活動してくんじゃねえというのが本音です。ひっくり返し直すのが大変なんすよ。タコ焼きじゃねえんだからさ。
有識者も経営委員も当事者性ゼロのゆるふわ意見やめろ
14年以降長らくNHKどうすんだよとワイコラやり続けてきたからか、もう有識者の皆さんも緩みまくってて大変でしょう。ゆるゆるですよ。ただあからさまに「私はどうせ無関係ですが」って前置きして議論すんのほんとやめてください。割と放送内容や放送技術に対して真面目に取り組んでる職員が百人単位でこれらの政策議論にぶら下がって飯食ってるんですよ。
あと経営委員も媒体からの取材やヒヤリングに匿名でも割と気さくに応じてくださるのは嬉しいのですが、そんな中で「僕はNHKの経営については良く分からないので」って前置きして議論すんのほんとやめてください。あなた、国会で承認された経営委員でしょ。「山本君の記事、立派で良く書けているなあ」とか感心してる場合じゃないんですよ。お前のことなんだよ。正確に書くならば、仕組み上は、あなたが稲葉延雄さんをNHK会長に推薦したんです。さすがに頭ゆるゆる経営委員会になってませんか。
全体がこんな感じなので、みなさまのNHKが方針ガバガバのまま、将来どうするかも分からず漂流するのも当然のことですし、これはもうネット業界やマスコミ業界全体の不幸であり、民主主義の根幹である知る権利の危機だと思うんですよ。新聞社にもNHKにも現場を支えている優秀な記者やディレクター、技術者以下たくさん人材を抱えているのに、これほんとガバナンスというか経営力・指導力なき組織がもたらす最悪の事態なんじゃないですか。記事を書くために取材すればするほど、当事者性がなさすぎてマヨネーズ地盤に高層ビルを建て替えるかのような事態であることに驚愕します。
国民の知る権利、国民益を実現して民主主義をより良いものにするために、NHKをどうしたいのか、有識者も経営委員もNHK執行部も牛耳ってる井上樹彦さんもその周辺もちゃんと考えてくださいよ、というのはあります。
いいからNHKはちゃんとネットで国民のためにニュースやれ
NHK関連は言いたいことはたくさんありますが、結論から言えば、公共放送の定義から考えても、また、NHKが担うべき国民の知る権利の充足の面をとらえても、そもそも地上波テレビの前に座っている人たちの割合が減り、国民の情報を知るルート(媒体)にNHKは常に存在しなければならない以上は、ちゃんとネットでのコンテンツ発信をNHKの本来業務に組み込んだうえで多くの人たちがNHKを通じて様々な情報に触れられるよう努力するべきです。
というか、NHKに関わる人たちも、総務省や有識者方面の人たちも、ここはみんなほぼ全員同じ意見でしょう。分かってて反対してるの日本新聞協会だけでしょうに。どうせあいつらNHKがあろうがなかろうが死ぬだけなんだから無視しろ無視。
あと、NHKの中にいる人も関係する人も、「表では言えないが」ってのほんとやめろ。言えよ。っていうか「ネットに進出してカネを取れるNHKにして初めて改革なんです」とか「ちゃんとネット対応で受信料を頂戴できる検討も進めたいと思っています」とまで取材に応えておいて、最後になって「外には絶対言いません」って、なんですかそれは。ヴォルデモートか何かですか。
誰に忖度しているの。そんなにそこにいるという立場が大事で、誰に対してなんの配慮をしているの。ちゃんと役割を果たすので、多くの人たちにNHKを喜んで観てもらって、国民全員から法律通りガッツリ放送受信料貰いますって言えばいいじゃないですか。そして、国民はぶつくさ言いながら受信料払うんですよ。
また、今回は敢えて某誌に罪深き官僚と名指しされた人には取材しに行きませんでした。むしろ、ある程度ちゃんと弁えて政策議論を主導してきた人に対して、一種のジェラシーコントロールできなかった面々がいたってことなのかなとも思いましたし、いまこの状況でこうだというのは実に報われないことだなあと同情もしましたので。
こんな感じでいいですか。画像はAIが考えた『船長不在のままもうすぐ座礁する1億2,000万人乗りの船』です。