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A3052の神様(2)

壁の先には目を疑う光景が広がっていた。
真っ黒な空間に2メートルほどの赤い鳥居が十数本並んで道を作っているのだ。あまりの神秘的な光景に少し恐怖を覚え後退りするも、背中が壁にあたり元へ戻ることが出来なくなっていた。

本当に都市伝説は存在したんだ。私は唾を飲んで一呼吸を置き、心の中でよしと唱えて鳥居の中を進んでいった。
進んでいくにつれ、目の前に何やらはこのようなものが置いてあるのが見えた。距離が近くなりその箱が明瞭になっていくと、どうもそれが見覚えのあるものであることがだんだんと分かってきた。

そしてとうとう箱の前にたどり着くと、そこには「A3052」というプレートが貼られた見覚えのある個室がぽつんと存在していた。個室の隙間からは少しばかりの光が漏れており、それが色鮮やかに動いている。
私は恐る恐るその扉にノックをした。

「よいぞ」
扉の向こうから返答が聞こえ、私は扉をゆっくりと開いた。
「遅かったのう。もう少しで閉めてしまうところだったわい」
そこには部屋のど真ん中に胡坐をかきながら動画サイトを見る巫女姿の幼女が座っていた。古臭さを覚える独特な言い回しが、まるで幼女の皮を被ったおっさんなのでは?と思わせるほどに違和感がある。さらに驚きなのが、その幼女の頭の上に生えている狐の耳だ。とても動物園に売っている動物の耳のカチューシャとは思えないほどにリアルだ。

「あなたは…誰ですか?」
「わしか?わしはここに住まう神じゃ」
「か、神……?」
「そうじゃ」

幼女がなにを当たり前のことを聞いているのだと言わんばかりに自信満々な口調だ。私は神とはもっと神秘的なものだと思っていたが、目の前にいる神はだらしない姿で、ポテチの袋を開けながら街中華の探訪動画を眺めている。
だが今はこの目の前いるだらしない神様を信じるしかない。

「あ、あの、あなたに頼めばなんでも叶えてくれるんですよね……?」
「あぁ、叶えるとも」
「それじゃあ亡くなった人を蘇らせることはできますか?」
私は恐る恐る神に聞いた。
「あぁできるぞ。できるが叶えることはできないな」
「さっき叶えられるって言ったじゃないですか」
「いいか?死んだ人間の魂を天界からおろして、体に定着させれば蘇らせることはできる。だがおぬしはその肉体を用意できるのか?おぬしが蘇らせたい人間は骨壺の中にいるのではないか?魂と肉体はセットじゃ。人間には魂に合う肉体は用意が出来ない。これが叶えられない理由じゃ。分かったら他の願いをいえ」
私はぐうの音も出なかった。漫画やアニメならすぐに蘇らせてもらえたかもしれないが、現実はそう甘いものでもなかった。

「亡くなった人と会話をすることはできますか?」
「ふむ……それなら可能じゃな。何か言い残したことでもあったのか?」
「はい……。私には幼馴染がいました。その幼馴染と喧嘩別れしちゃったあとにそのまま交通事故で亡くなってしまって……。その時のことを謝りたいんです」
私はあふれ出る涙をこらえながら言葉を口にした。

「謝りたいか。まぁ良いじゃろう。おぬしが謝って終わりか?」
「え?」
私は思わず聞き返した。それもそのはずで、私は自分のわがままで傷つけてしまったことを謝るということしか考えていなかったからだ。
「謝るのは自由じゃ。おぬしはその者に許しを請いたいのか?」
神様の一言に私は押し黙った。何も言葉が出てこなくなってしまった。
許しを請いたいかと聞かれると、そういうわけじゃない。

「まぁいい。このまま押し問答を続けていても先には進まない。早速だが願いを叶えて、亡くなった者に引き合わせてやろう。だが願いを叶える前に二つの条件がある。一つは魂を呼び戻せるのは一回きりじゃ。そして二つ目は、現世の死の記憶を伝えてはならぬことじゃ。この約束が守れるかの?」
神様の真剣なまなざしに私はこくりと頷いた。

「よし、じゃあ行こうかの。おぬしの願いのもとへ」
神様はそういうとパンと手を叩いた。

その瞬間、耳元で水の弾ける大きな音が聞こえ、思わず驚き周りを見渡すと、私は海の中にいた。
不思議と苦しさはない。それどころが下へ沈んでいくほどになんともいえぬ気持ちよさまで感じ始めてきた。私はその気持ちよさに溺れるように深海まで堕ちていった。

もう一度目を覚ますと、そこは自分の部屋であった。私はベッドを背もたれ代わりに座っており、部屋には参考書や勉強ノートや筆記用具が散乱した状況となっていた。

いつかみた懐かしい光景。ちょうど1年前に大学受験を控えていた時の勉強に苦しんでいた時の光景だ。床に置かれたスマートフォンをみると、2022年10月22日18時45分と表示されていた。

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