幸せな世界

※この話はフィクションです。実在の人物や団体とは一切関係ありません。
※特定の人物や組織を傷つける目的は一切ありません。
※残虐なシーンがあるので苦手な方は注意してください。
※専門的な知識は間違っている可能性があります、ご了承ください。

—病院にて

「ああ!私たち、なんていい時代に生まれたのかしら!!」

「本当だね!これで俺たちの子も健康に生まれて、将来何不自由なく幸せに暮らせるだろうさ。
俺がまだ高校生ぐらいだったときに、ゲノム編集の可能性なんてニュースを見たときはびっくりしたし、絶対にあり得ないなんて思っていたけれど…
時代は変わるもんだな。」

「確かにね…でも大丈夫よ!世間でもこれだけ安全だって言われてて、政府はゲノム編集による出産には補助金を出してくれる。まあ人口減少に歯止めをかけるにはそうするしかないのもあるけどね…
私たちも最初説明を受けたとき、ボノボでの実験の成功例を聞かされたし、既に生まれてるゲノム編集された赤ちゃんたちもみんな健康だそうよ!」

「そうだな、俺たちの子は病気にかかりにくくて、知能指数が高いんだよな、とにもかくにも幸せになってほしいな…」

——

「あ、おはよう!もうちょっとで朝ごはんできるから待っててね。」

「おはよう、待ち遠しかった今日がやっと来たな!」

「ふふ、準備は万端よ!なんたって愛する我が子の1歳の誕生日だもの!たっくさんお祝いしなくっちゃ」

「そうだな、俺もやっとパパってのに馴染んできた気がするよ、なあ」

「あーうー」

「ずっと背負ってるのも疲れるだろう、ほらこっちおいで」

「あーあー」

「ありがとう、ちょっとわたしの代わりに面倒見てあげてて」

「ああ」

——

「本当に俺たちの子はかわいいなあ」

「ふふ、本当にね、親バカって言葉の意味がよくわかるわ、ってあら、ソファに手をついて立ったわ!!」

「おお!すごいじゃないか!大丈夫か…転ばないかな…」

「あら!そのまま私たちのところまで歩いてくるなんて!今日はとっても幸せな日だわ!」

「この子も成長していっているんだな…なんだか感慨深いよ」

「そうね、正直ゲノム編集に不安がなかったと言えば嘘になるけど…この子が無事に今生きてるんだからこれからもきっと大丈夫よね!あ、そろそろ暗くなってきたから晩ご飯の支度をしなくちゃ、もちろんケーキもあるわ!お守りはよろしくね」

「ああ、任せてくれ」

——

「ケーキ持ってきたわ!ああ、まだ触らないでねー。もうちょっとだけ待っててねー。」

「よしよし、このろうそくを立てて火を点ければいいんだな」

「そうよ、やっぱりお誕生日はそうしなくちゃ」

「よし、じゃあ電気消すぞ」

Happy birthday to you
Happy birthday to you
Happy birthday dear...

「ちょっと待って!!!電気つけて!!!」

「どうした!?」

「この子フォークを飲み込んじゃったみたい!!!!どうしよう!!!」

「病院だ!救急車を呼ぶから!ああ、暴れて危ないからろうそくの火は消せ!」

「わかった!…うそ!この子ろうそくまで飲み込んでるわ!窒息しちゃう!どうしよう!!!」

「おい、うそだろ!とにかく吐き出させるんだ!何とか手で引っ張って取るんだ!」

「そ、そうね!ちょっと口開けてね……熱いっ!けどそんなこと言ってられない…!なんで…なんで…こんなもの飲み込もうとしたの…」

「ああ!救急隊の皆さん!この子なんです!どうかどうか助けてやってください!!」

——

「守れなかったな…俺たちが授かった…小さな命の灯火…」

「わからない…わからないわ…あなたは見ていなかったでしょうけどあの子、フォークもろうそくも自分から飲み込んだのよ。まるで自殺しようとしているみたいだった…」

「1歳だぞ?そんなおかしな話あるか」

「でも本当なのよ…」

「うーん…それにしてもあの子の声がしなくなって寂しくなったな、そういえば最近忙しくてニュースを見る余裕もなかった、テレビでもつけて気を紛らわすか…」

『最近多発している乳幼児の自殺についてのニュースです。亡くなった乳幼児はいずれも受精卵の段階でゲノムを編集されていたことが確認されています。
自殺が最も多いのは1歳前後で自殺の方法は誤飲、転落様々です。ゲノム編集センターで24時間監視下に置くことが今のところ最善の対策となっています。ゲノム編集センターの電話番号はこちら…』

———

[とある新聞への寄稿]
私はゲノム編集反対派の科学者だ。
最初に一連の出来事の遺族となった方々には謹んでお悔やみ申し上げます。反対派の者どもで今回の出来事を止められなかったこと、悔やむに悔やみきれません。
ゲノム編集された赤ちゃんは知能指数が高いが、知能指数の高さを調整するのは遥かに難しい。
極端に言うと赤ちゃんたちは脳にAIを飼っているような結果になってしまった。
推進派はそれを利用して、現在の人口減少や不景気といった問題の解決策を見出すつもりだったのだろうが。
言葉を理解し始めてから、様々な哲学が脳を駆け巡り、
結果出した答えが反出生主義だった
ということではないだろうか。
健康で知能指数が高いことを期待され、ゲノム編集でオリジナリティが失われ、自分たちの未来に多様性が見つけられなかったのだろう。
AIに近い脳がそういった結論を出したのならば私たちはそれをヒントにして、水準の高い画一性を得ても我々は幸せになれないことを学ぶべきである。
ゲノム編集にはやはり反対である。
ゲノム編集推進派の科学者や医者、企業、そして政府には責任を強く追及していく所存である。

#小説 #ゲノム #遺伝子 #反出生主義

ありがとうございます。サポート代はマイク等の機材費の足しに使わせていただきます。環境が整えば音声作品を投稿する予定です。