せ〇れ募集

私は山の上にいて、世界を眺めている。地球には緑が広がり、かつての人類の営みなど跡形もない。あれから何年経ったろうか。その年、未知の流行病が全世界で猛威を振るった。私はまだ二十歳だった。目の前で人が倒れ、死んでいくのを幾度となく見た。ワクチンをつくり、特効薬をつくり人類は抵抗したが、そのウイルスは変異を繰り返し、ついに人類は死滅した。私を除いて、である。ある医師が死の間際に残した報告書によると、私の遺伝子を分析したところ、私が人類で唯一ウイルスの抗体を持っていたということがわかった。私はそれから今までの数十年間、たったひとり森の中で彫刻や絵を描いて過ごした。今になって気づいたことだが、芸術作品だけあっても、鑑賞者がいなければ。ひとはひとりでは生きられない。
私、人類には子孫が必要だ。倅が必要だ。私の作品が、技が、存在そのものがすべて忘却の彼方へと消し去られてしまう。吐き気がする。よって今倅募集を開始する。種族、年齢は問わない。誰か。

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