最悪の目覚め

「助けてぇ!」

 誰だ?人が気持ち良く寝てるというのに、真横で大声出してるお姉さんは。

「早く…早くぅ……あいつに殺されちゃう…」

 殺されちゃうの?おじさんは君の悲鳴で耳が殺されそうだよ。だって寝てるもの。

「ねぇ…何で起きないの…?」

 だから、寝てるんだってば。勘弁してよ、こっちは姪っ子が連れてきたよく分からない馬の骨とその両親のせいでここ二日間まともに寝れていないんだ。寝かせてくれよ。

「なんでなの…?」

 何で、って言われてもねぇ。寝ないと疲れ取れないでしょう。

「あっ、やだっ、見つかった!」

 見つかった?俺に?もしかして、いい歳こいて一人鬼ごっこでもしてんのかい?他所の家でやるくらいなら、せめて自分の家でやってくれ。

「いや、お願い、来ないで…」

 来るも何も、俺寝てるからね。来ないでってこっちの台詞だからさ。

「やだ…やだ…死にたくないよ……」

 死にたくないって、一人鬼ごっこにしては随分迫真すぎるなぁ。

「いや…いやぁ…!やめてぇええ!!!」

 やめてって言われても寝てるから何ともいえないって。ちょっと、人が寝てる横で暴れないでもらえます?ちょ、痛い痛い痛い、爪が皮膚に食い込んでる。いって、ちょ、どうした?

 全く、いい加減にしてくれないかな。寝てる人の横で大声出したり、暴れたりするの、一人でやるにしても、常識がなってないですよ。

「…………」

 ったく、ようやく大人しくなったか。激しい一人遊びも結構ですがね、せめて自分の部屋でやってもらいたいと改めて思うね。

 そういや、なんか濡れてない?参ったな、いい歳こいて小便漏らすとか恥ずかしくて言えねぇな。年齢的には、そろそろ気をつけたほうがいいらしいがね。
 うーん、でもなんかこの濡れ方、気持ち悪いな。ちょっと見てみるか。

 一旦起きてみると、俺の横で見知らぬ女が苦悶の表情を浮かべて倒れていた。
 畳一畳から敷布団の端にかけて、女のものと思われる血と体液が広がっており、ビチョビチョに濡れていた。首には噛み跡がくっきりと残っており、両肩には鋭利な刃物で切り付けられたと思われる深い切り傷からドクドクと血が流れている。穴という穴からは色んな液体が溢れ出ていて、凄惨の一言にふさわしい状態となっていた。

「…まーた犠牲者か」

 俺は眠気を身体に纏ったまま、布団を出た。

 『鬼ごっこ』は夢じゃなかったんだな。

 俺は、女性に対する詫びの意味を込めて、さっきまで身をくるめていた掛け布団で遺体を包め、それを持ち抱えて外に出た。

マストドン・一次創作丼(ichiji.social)@kiri_nijikuraより一部訂正して抜粋。

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