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詩みたいな【しあわせ】#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「紫陽花を」に参加させていただきます☆

お題「紫陽花を」から始まる物語

【しあわせ】(290文字)


紫陽花を見ながら歩く
六月の住宅街には
たくさん咲いている

静かに眺めていたら
一軒の家の中から
おじさんの怒鳴り声が聞こえた
誰に向かっているのか
大声で叫び続けている

嫌な気持ちにはならない
ただ
元気だな、と思う
多分、七十代くらい


母も、七十代だった
紫陽花を好きだった母は
昨日の朝、逝った

紫陽花に見送られるように
夏至の太陽に招かれるように
ついさっき、煙になった

おじさんは
怒鳴り散らしながら
元気に生きている

元気だった頃の母も
怒鳴り散らすことはあった

心ゆくまで怒鳴れるしあわせを
おじさんは知っているだろうか
母は知っていただろうか


おじさんの家にも
紫陽花は咲いている

おじさんもきっと
紫陽花を好きなのだろう



おわり


© 2024/6/16 ikue.m

※実話ですが、母が亡くなったのは四年前です。

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