詩みたいな【なんにも】#シロクマ文芸部
お題「布団から」から始まる物語
【なんにも】(352文字)
布団から松ぼっくり。
どうしてこんなものが?
布団から出てきた松ぼっくりを
朝のココアを飲みながら眺める。
こんなカタチをしているんだね。
なんだか初めて見る気がする。
松ぼっくりをころがして
今度はマグカップを眺める。
こっちも初めて見るような。
毎日使っているのにね。
薄いブルーのボーンチャイナ。
マグカップに描かれているのは
青い花だと思っていたのに
よく見たら小鳥じゃないか。
「なんにも見ていないのね」
布団からそんな声が聞こえる。
このカップをくれた人の。
もうずっと前に出て行った…
ぼくは布団を振り返る。
ぽっかり空いた洞窟の入り口。
もちろん誰もいやしない。
空耳か。
ぼくは残ったココアを飲み干す。
ふと見ると
松ぼっくりも消えている。
空ぼっくりか。
ぼくはその形を思い出そうとする
でももう思い出せない。
彼女の顔みたいに、なんにも。
おわり
(2024/1/28 作)
小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』イベントに参加させていただきました☆
見ているようで、見ていない。
目を閉じてもはっきり思い出せるものって、そんなにないのかも。
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