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絶望的な才能

2019年の大晦日。朝方に弟が新幹線で帰ってきて、久しぶりに家族4人が揃って嬉しかった。みんなでお昼ご飯を食べた。そのあとは各々好きなことをして過ごした。することがなくなった私は、母の赤い車を借りてコンビニに行った。私は車を運転をするのが好きだ。何百回も自転車や徒歩で通った道を、今は車でスイスイと走ることが出来る。窓の外にはセーラー服の私が見える。高校を中退しようか悩んでいた頃の私。頭の良い大学に入れる程の学力は無いという事実を受け止めきれなかった高校生の私。点滅している外気温。急な坂道。オートマティックな運転技術。自分のお金で買ったカフェラテ。SUVの方が好きだなって思う。本当は、弟子を辞めたら、タクシーの運転手のアルバイトもしてみたいと思っていた。

帰宅してもまだ時間が有り余っていた。することがいよいよなくなって、東京から持ってきたPCを開いた。そこでふと、「教養のエチュード賞」のことを思い出した。今回は出すつもりは無かったのだけれど、ちょうどよくぽっかり時間が空いている。自室のベッドの上に寝っ転がりながら30分、何とも言えないような日記を書いた。日記というより、脳の中で見た風景と記憶の整理。何も考えてない。指が勝手に喋ってる。何回書いてもnoteっぽくならないな、やっぱり私noteとか向いてないな、と書き上げてから思った。申し訳程度にハッシュタグだけ付けて、1階に降りて、今年最後の夜ご飯のための準備に入った。


主宰者の嶋津さんが賞に寄せて下さったコメントの中で、ハッとした一文があった。

「もしかしたら突然ふっと書くことをやめてしまうかもしれない。続けるも止めるも当人の自由なのですが、それを食い止めるのは誰かが対価を支払って「求めること」だと思います。この賞が彼女が「書き続けてみようかな」と思う〝きっかけ〟になればいい。そのような想いも込めました。」

どういう言葉でこの気持ちを伝えたら良いのか分からないけれど、この一文を読んで「この人は分かってくれている」と感じた。この言葉は適切では無いかもしれないし、あまり良い言葉では無いかもしれない。だけど、この一文を、アルバイトが終わってクタクタの状態で誰もいないロッカールームで座り込んで読んだ私は「この文章を書いた人は、私のことを分かってくれている」と心から思った。 

何千人もの観客が見守るステージに立つことよりも、誰かに本当の気持ちを打ち明ける事のほうが勇気が必要だとマイケルジャクソンは言っていた。今日のアルバイトの帰り道、くるくるまわりながらニコニコして、東西南北にお辞儀をしている男の子がいた。目が合った。彼は私に笑ってくれた。彼のいのちが光っていた。ぼくらが住むこの世界では太陽がいつものぼり 喜びと悲しみが時に訪ねるという歌詞がAirPodsから流れてきた。なにがなんだか分からないけれど、なにもかもが光って見えた。よく分からないけれど、何かが伝わって私はうれしかったんだということにようやく気づけた。

写真家の佐内正史さんが「どうして詩を書くのか?」と聞かれた時に「写真に撮れないことは言葉にするしかない。例えばこないだ見た夢は、写真に撮ることができないし」と答えていた。きっと会場の誰よりも私は頷いていた。私が日記と称した文章を書く理由はそこで、頭の中で見た景色や映像は写真に撮れなくてもどかしかった。

私にはこういう文章しか書けない。支離も滅裂だし脈絡もない。実際に話している時だってそう。話題がどんどん変わってく。このnoteだって、主宰者の嶋津さんにお礼を伝えたくて書き始めたはずだったのに、結局自分の話ばかりしている。後ほど個人的にメッセージを送ることにします。きっとそれが一番良い。

ツイッターでnoteのあの記事のURLを載せてくださった方々のpostをこの記事の最後に一つずつ載せようと思って準備していたけれど、自分の顔がたくさん並ぶのが嫌で全て消してしまった。色んな言葉を掛けて頂けてうれしかったし、何よりとても興味深かった。有難うございます。


昔から、才能という言葉がコンプレックスだった。欲しい才能が自分に無いということに気づいて涙を流したときのことを今でも鮮明に覚えている。努力も嫌い。考えたくない。絶望的な気持ちになるし、しなくていいならしたくない。よせばいいのに、自分にないものばっかり見つめちゃう。ケータイ握りしめたまま寝ちゃって、悪い夢でうなされる。映画は最後まで観れたら好き。インターネットと運命が大好き。だって誰にも触れないよ。お守りのような言葉が欲しい。未来の記憶を思い出せ!私は一生私の顔を自分の目では見られない。


「第二回教養のエチュード賞」において、「教養のエチュード賞」という素敵な賞をいただきました。側から見たら絶望的な状況すぎて、「そこまでいくともはや最高だね」と言ってくれた知人の何気ない一言に感謝します。そして、ごくごく個人的な狭い世界のことを、たくさんの方が読んでくださった事に感謝致します。火星にも風が吹くことを気づかせてくれたあの女の子や、過酷な訓練を乗り越えて宇宙へ行った宇宙飛行士の服に纏う焦げたラズベリーの香り、あの日あの夜誰がどう見てもどうしようもなく絶望的な状況だった私を励ましてくれたABBAの明るくてせつない音楽。その全てにいつかまた出会えますように。この度は素敵な賞を頂き、本当に有難うございました。

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