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アルバムへの言葉(2):トリプルファイヤー/EXTRA

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アルバムへの言葉?

「アルバムレビュー」という言葉がある。
レビューは、評論や批評を指す言葉であり、自分には少し「重く」感じられた。ただ、「感想」と表現するとそれはそれで少し「軽い」、そしてどこか他人事に感じられた。
今の所妥当な表現が見つかっていないので、ミュージシャンが全力160KMで投げてくれたアルバムという作品に対しての言葉、というまとめ方にしておきたい。テトリスが綺麗に消えるときのように、すっぽり収まる表現が見つかるまで。

EXTRAへの言葉

現代病とダンスミュージック


早速他のアーティスの引用で恐縮だが、菊地成孔氏が直近のライブで発言されていた言葉が印象に残っている。書き起こすと以下

現実は酷い、本当に酷いよ(中略)今のこの酷い時代を生きられる若い人が本当に羨ましいよ(中略)一つだけ方法がある。現実が酷いということと、踊りが楽しいということを体の中で同時にやるよこと

https://x.com/cani_tsuyo/status/1818631892591317403

最初に上記動画を見たときには「いい言葉だなぁ」とじっくり来ていただけだったが、EXTRAを聞いた時に、そしてEXTRAのリリースパーティーで踊った時に、「EXTRAという音楽は、現実が酷いことと踊りが楽しいことを同時にやるための音楽なんだ」と確信した。

冒頭から日本の現代病である「酒」について、酔っ払っいがツイートしたような言葉で歌う吉田氏の言葉。それを無視するように、バンドはひたすらダンスミュージックを演奏する
ギタリスト鳥居氏が作成した「EXTRA、この108曲」からもファンク・ニューオリンズ・ソウル・ハードロック・ミクスチャー・アフロビート・アフロビート・ヒットチャートを彩った曲たちと様々な音楽をベースに、バンドはマジで踊らせたいのが伝わってくる。鳥居氏の愛とストイックさ。山本氏と大垣氏にシマダボーイを加えたリズム隊の精度UP、おそらくシリアスにしすぎないために添えられたフルートとコーラスも含めて、バンドが一段階スキルアップしたように感じられる。

そして、そのバンドの裏で、横で、真ん中で鳴っている歌で笑えなくなったのが印象的だった。「カモン」やYoutubeでバズった呂布カルマとのバトルなどを象徴するように、吉田氏やトリプルファイヤーの歌は、どこか笑えるシュールさがあったが、EXTRAは笑えなくなった。
それは、聞き手である私が歳をとったからなのか、歌がリアルさを増したからなのか、現代がますますおかしくなっているからなのか、吉田氏が個人として売れて現代病の塊みたいな東京の業界人と会うようになったからなのかはわからないが、酔っ払いのふとした寝起きの一言が少しだけ確信に迫ってしまったような怖さを持っている。別に鋭いこと、本質を切り取ったわけではないが、ストロングゼロを飲み干した坂本慎太郎のように、どこか遠い目をしながらつぶやく男の歌。まぁ、聞いて踊ってみましょうや。

「普通の人」と愛

というのが、音源だけを聞いていた感想だったのだが、先日開催されたアルティメットパーティー11回(EXTRAのリリースパーティー)参加して、少しだけ印象が変わった。

まず、彼ら(おそらく鳥居氏をメインとして)はすごく自分たちの好きな音楽のルーツを大事にする人たちなんだなと感じた。音作りやフレージングに、悪い意味での奇を衒う発想がなく、影響を受けた音楽をいかに混ぜて新しい良さを出していくかに集中しているように感じられた。

吉田氏のボーカルやキャラクターのおかげで、「変わったバンド」と東京インディー三銃士(懐かしいですね。ミツメ・スカート・トリプルファイヤーがそう呼ばれている時代がありました)の中でも思われていたが、4人でアンサンブルを突き詰める中でどこか遠くに行ってしまったミツメやコードの魔法であらゆる音楽をごちゃ混ぜにするスカートよりも、ある意味すごく「普通の音楽ラバー達がピュアに演奏しているバンド」なんだな、と感じた。
それは、楽器リペアを仕事にしながらバンド漫画を愛でるラッキーサウンド氏やサラリーマンとして働きながらバンドを続ける大垣氏からも勝手に感じ、勝手にシンパシーを持った。Taliking Headsへのオマージュ(気づけなかった・・・)や吉田氏の「ハイロウズのCDを聞いて、ライブ行くのいいよね」というMCも、ある種のピュアさで美しさがあった。

また、どれぐらい利用されかはわからないが、19歳以下はチケット無料にしていた。彼らの音楽を10代に浴びせようとするのが、愛なのか意地悪なのか「変なおじさん」のだるがらみなのかはなんとも言えないが、渋谷クアトロという大箱でそれをやることに価値があると思った。人生が変わってしまった10代がいたら、変なおじさんになりかけている一人として嬉しい限りだ。

各種リンク

序盤のゆったりペースから、パーカッションとギターでぶち上げるスタイル。最高。

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