彼女と別れた日

※プライバシー保護のため男を「俺」女を「彼女」と呼称します
※筆者の実体験を翌朝に書いたものです

話し合いの末、彼女の地元奈良で決着をつけることにした。
東京で大学院に通う俺は新大阪までの新幹線でノートでいいたいことをまとめた。彼女が変わらないことに怒っていること、それを促せない自分も同じような欠点を持っていると言う仮説、色んなことを殴り書きした。
お母さんが最寄駅に迎えにきてくれていた。彼女のココがおかしいという部分を共有した。いっぱい共感してくれた。彼女の中で辻褄が合ったのではなく「合わせた」こと、安直に別れるという結論に至っているように見えたこと。理屈で考えれば考えるほどおかしい行動をしていることに腹が立った。

集合場所の大和西大寺駅に着く。「久しぶり」合流してお互い目をあまり見ずに話す。おそらく俺は好きな人と会うと猫撫で声になるが、男友達相手の時の声だった。もうすでにそこには恋人同士の空気は流れていなかったのかもしれない。
17:30店に入る。上手を譲る。席に着く。どうでもいい俺の家族の世間話をいつもより早口でした。注文を終えたのち「話すか。」切り出した。「他に別れたい原因はある?」俺は理屈では別れる理由に達していなかったため、真の理由を隠してることを最初に確かめたかった。浮気相手がいるとかの方が正直わかりやすい、別れることに辻褄が合う。しかしそういう意図は伝わっていなかった。彼女は「俺くんへの好意に波を感じる」という趣旨の話を始めた。好きじゃない瞬間もありながら付き合い続けたという話をしていた。会ったり電話をしたらそれがなくなり好きだなという実感が持てるが、それが終わった途端好きという感情に疑念が生まれることがあった。好きという感情は本物だが、根底には常に好きじゃなくなる瞬間があった。俺のコンスタントに彼女を好きな感情とのギャップに、しんどくなっていたらしい。先ほどの駅とは違い、目は真っ直ぐ顔は決意に満ちていた。

ーーー納得した。受け入れるのに2分の沈黙を要した。店に入って15分ほどで俺の中では決着がついた。「別れるべきだ」今までフラれたことしかない俺にはわかる。これはどうにもならないやつだ。またこれで関係が耐えても辛い思いをする2人の想像が易い。俺は持ってきていたアルバムとピアスを返した。一年記念日に彼女が作ってくれたアルバムと今年の誕生日にもらったピアスだ。「別れよう」言葉にせずとも伝わったようだった。
入れていたカバンはおととしの誕生日にもらったものだった。その中にはキーケースもあり、同じくおととしにもらったプレゼントだった。日常に逃げられないほど小さい彼女が散りばめられていた。これから彼女とは触れることなく、こいつらと生きていかないといけないと思うと辛かった。
泣く。泣くにはパブリックすぎる、耐えないと。彼女は全てが終わったと思ったのかうなだれていた。「一刻も早くここをでたい。」彼女はそう言って会計に向かった。1人でテーブルに残された俺。注文して来た寿司を吐きそうになりながらかき込み、緑茶で流し込む。美味しくない。彼女が冷たく見えた。別れる手続きを終え、ただの他人となった俺への振る舞いという印象を受けた。1年8ヶ月とはこんなに儚いのか?よぎるような一抹の考えだけでこんなに死にたくなるような思いにさせられる俺は酷だ。可哀想すぎる。店を出て恋人としての距離ではなくなった2人の隙間は近いが遠かった。沈黙の中俺が話す。「あっけなさすぎる。」こんなわけがない。悪夢なんじゃないか。訴えた。彼女は黙っていた。愛想が悪い。死ってのはこういう時に脳裏を過ぎるのだな。辛いなんてもんじゃなかった。こいつは本当に今まで付き合ってた彼女か?
急に彼女が俺の服を引っ張る。「こっち。」駐車場に入った。誰もいない。彼女は泣き始めた。「ごめんなさい。」やかましい。そう思うならフんな。そこで彼女は自分が変わらないことが悪かった、俺は何も悪くないということを言い出した。俺くんはいい人だった。何もかもに真摯に向き合える人、問題から目を背けない人、課題に対して頑張れる人。私は変われなかった。「ごめんなさい。」うるさい。本当にうるさい。死ね。うざったかった。そうだ全部お前が悪い。謝れ。反省しろ。俺は悪くない。

でも愛おしかった。彼女は今も俺のことが好きだった。今までで1番愛を感じた。皮肉なことに別れることを俺が決意した時、初めて自分ごとになったのだと思う。すぐに退店したがってたのも、駐車場に入った時も、自分の思いを他人がいる場所で伝えることが嫌だったからだと気づいた。顔をぐちゃぐちゃにしながら伝えてくれた。

公園に向かう。歩くの疲れた。公園で座り、黙る2人。口火を切ったのは俺だった。「いつも思うんやけどフるやつってなんで泣くの?」半分ふざけながら聞いた。「うざいかもしれないけど」「本当に離れたくないから。」彼女はずっとうざい。
昨日電話した時、こんなに私のことを怒ってくれる人はいないし、真摯に向き合う人間はいない。今でも大好きだ。私は今日フった事を一生後悔して生きていくと思う。電話した後に友達に相談した時、俺くんと同じことを言われた。彼氏じゃない人と同じ意見を持てる俺くんが自分がフラれるかもしれない状況でキツく言えるのがすごい。こんなにいい人はこれから現れるのだろうか。人生のうち俺くんの濃度が薄くなるのが嫌だ。
私は大学3年生の頃まですごく自己肯定感が低かった。彼氏ができてもその人と心底楽しい思いをしたと言われれば嘘だった。俺くんと出会った。人生が豊かになった。こんなに愛されてもいいんだと思った。自己肯定感の低かった自分を人間として救ってくれた。大きな愛をありがとう。こんな私でごめんなさい。ごめんなさい。

穴という穴から体液が溢れる。しゃくりあげる俺の顔は世界一ブスだっただろう。ふざけモードで「お前の逃がした魚は大きいぞ」伝えた。本気でそう思う。俺みたいな最高の人間をフったことを後悔させてやる。死ぬまで後悔しろ。その死に顔で食う飯はさぞかし美味いだろう。そんな事を言うと笑ってくれた。

その後も話をした。
「彼女できたらインスタあげてな」
「いや上げへんよ」
「なんでよ」
「あげへん人やし、シタトモであげてたことはあったけど」
「じゃあシタトモ入れてよ」
「親しくないやん」
「なんでそんなこと言うん」
「お前フった側よな?w」

「次はお酒飲める女の子と付き合いたいな」
「それがいいと思う」
「彼女より可愛くて、賢くて、」
「魚も触れる子な」
「それは絶対いるわ」「お前は後悔する。」
「そりゃ後悔するよ」
「いやもっと先の話これからずっと後悔する」
「どういうこと?」
「生きてたらわかるよ」

「来る前に彼女のアルバムのピープルとどう森のフレンド消して来てんな」
「賢いな、私どうしよう」
「知らんよ笑」「ダメージ軽減は大事やで」
「ほんまにどうしよう」
「お前がフラれたん?」

お腹が空いたのでコンビニに行った。目を腫らした2人が入店する。俺は肉吸い、彼女はオイコスを買った。公園に戻る。最後のちょっとちょうだいとかそういうやりとりもした。オイコス食べた後の肉吸いはまずい。
俺は恋人っぽいやりとりをしただけに別れる理由がまだ欲しくなった。感情がマックスに昂った。
「俺が悪い。」俺が悪いから別れる、俺が彼女に罪を犯したから別れる。そう思った方が合理的だ。辻褄も合う!「俺が悪いから別れるんや。」
「そんなことない。」俺くんは悪くない。しんどい思いさせたのは私で勝手な事をしたのは私。
「じゃあなんで別れなあかんねん。」声が荒くなった。少しびっくりした彼女は真っ直ぐこっちを見ていた。ごめん。今のなし。

顔ぐちゃぐちゃやで笑
その写真を撮った。本当にブスだ。

皆に別れた報告しないと。俺はLINEを起動する。目の前でそんなことすんな笑
写真を撮られる。

「写真撮ろう」2人で写真を撮って帰ろうと思った。最後の会話が近づいていた。
「ノーマルで行くか」彼女が言った。

終電も近く帰ろうという雰囲気が流れる中
「最後にハグしてもいい?」言われた。
本当にお前俺のことフったん???嬉しい反面、なんだこの感じは。
ちょっと人が多かったから、茂みに行ってハグをした。俺の肩を強く握ってワンワン泣き始めた。俺は背中と頭を撫でた。「ごめんなさい。ごめんなさい。」彼女は泣きながら感情に任せて、今まで思っていた事を緩まった水道のようにばしゃばしゃ流し始めた。「泣き止んだら離れよう」「離れたら泣かないと約束しよう」俺が言った。1番離れたくないのは俺なのに、俺に言わせるこいつは最後までせこい。離れたくないやら、大好きだとか、ずっと隣にいて欲しいと本気で思うとか。別れ際に何を言ってるんだこいつは。1番愛を感じたくない瞬間に大量の愛を注ぎ込まれる。
別れよう。爽やかに決心できた。「大丈夫。」2人で声を掛け合って10分ほど続いたハグを終えた。
最後の時が迫る。彼女は改札まで行くといつもみたいになるから公園でさよならしたいと言い始めた。デート終わり改札で俺たちはいつも見えなくなるまで何回も振り返りながらニコニコ手を振る。恒例の2人のノリだった。
「さようなら」彼女の元を満面の笑みで離れた。彼女も引きつったような笑顔で手を振る。公園から駅に向かって歩く。前をずっと向いて歩いた。これが最後かと思うと我慢できなくなり後ろを振り向いた。そこには両手をいっぱい伸ばして背伸びをして大きく手で180°を描く彼女がいた。いつものバイバイのように「またね」がない。どこか清々しい気分だった。

駅までの道中、もう泣くことはなかった。服の胸の辺りについた彼女の化粧汚れが白い服に目立っていた。近鉄奈良線ももう長らく使わないだろう。22:48大阪難波行きの準急に乗った。

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