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【見開き1P】おまじない

※見開き1ページ相当の小説です

 その人は面倒臭がり屋で、年中コタツを仕舞わないほどでした。夏場には暑苦しいぐらいですが、冷房がきき過ぎてコタツに入ることもありました。それで満足でした。寝るのも面倒になってゲームを始めて気づけば深夜テンションで朝を迎えることもあります。それでもちゃんと会社に向かいます。

 社会でうまくやっていけてる自信はありません。周りを見れば色々な人がいて自分と同じような人も見かけますが、自分よりはうまくやっていけてるように見えます。みんな自分よりも足が速いのではなく、きっと自分よりちゃんと歩けてるんだろうと思いながら、それでもうまく歩けないままです。

 歩き方が分からないなら調べればいいと思い、歩くどころか走ることもできる人たちの話を聞いてみたことがあります。自分にもできるかもと思ってやってみましたが、どうしてでしょう、うまくいきませんでした。少しだけは歩けるようになった気がするのですが、心が痛いのです。痛くて痛くて歩けなくなってしまうのです。

 それをどうにかしたいと思い、その人は質問してみました。自分みたいな人でもどうにかできる方法はありませんか?

「言い訳ばかりですよね。怠けたいだけじゃないですか?」

 彼の言葉は正しいと思いました。同時に、あんまりだと思いました。

 その人は質問したことを後悔し、コタツの中に潜りました。彼に関する全てから離れることを選び、まだ七時でしたが眠ることにしました。泣きながら眠りました。

 しかし数時間で目が覚めてしまいました。思い出してつらくなり、そしてダメだと分かっていながらもSNSや動画投稿サイトを漁りました。何度も彼と同じような意見の人と出会い、そのたびに気持ちを奮い立たせて別の人の意見を見に行きました。

 そしてついにその人は携帯から指を遠ざけました。そして携帯も落としてしまいそうになったというときに、その人は俄かに指を動かして、そして、とある言葉を見つけました。

「そのとき、あなたにあるものを、あなたなりに」

 その人は星空を見上げました。一つ、それを挟む七つ、五つ。

 そして、一羽の鳥が夜空へ羽搏いているのを見つけました。やがてその姿が見えなくなったとき、一瞬、青い光が落ちていきました。それが一体なんだったのか、それははっきりしません。その人は、ひときわ大きく輝く星を見つけました。

 ふと目を下ろすと、その人はまた言葉を見つけました。

「頑張りすぎないで。大丈夫なんとかなっちゃうから」

 そしてその人はおまじないにしました。夜になれば空を見上げるようになりました。
 星はくるくると回り続けますが、あの星を、今でもまだ見つけるのです。

最後まで読んでいただきありがとうございます