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小説

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2021年9月の記事一覧

【短編】こう語ってみた

※基岡の実験劇場※ 1 「回斗、今日はどうよ?」  るんるんと高い声で、な子は今日のコーデを彼氏に見せた。 「おっ、今日は女の子っぽい感じだ」 「でしょ? お気に入りはここのフリル」 「うん、可愛いな。それにスカートのふわっとしてる感じもいいし、ウィッグの色も可愛い」  な子は彼氏に褒められて満足そうな笑みを浮かべた。 「じゃあ行こう♪」  蝉時雨の中を二人は行く。今日は帰るまでこのままだろう。  夕方の教室にて、窓際に座る永子は、校門横の満開の桜から視線を外し、一つ前の

【短編】忘れもの

 彼は自転車で坂を駆け上がっていた。同じ高校の生徒たちが談笑し下っていく横を、荒い呼吸の立ち漕ぎで逆走していく。背を照らす夕日はまだ健在だが、空は濃い色へ移ろっている。  絶対。なんとしてでも間に合わせる。  彼は回転数を上げた。  少し前。 「おまえさぁ、今日って言ってなかったか?」  大袈裟なほど呆れた顔をされて、彼は顔ごと目を逸らした。錆びたブリキのようなガタつき具合に友達は小さく溜め息。 「そりゃタイミングがあるから無理強いするのもどうかと思うけど、ただでさえズルズ

【短編】たい焼きの三分間

『個性に合わせた教育。その子の才能を伸ばしましょう』  それで私はバスケをやるようになりまして、この夏、私よりも遥かに才能のある方々を前に無様に散ってしまいました。小学一年から高校三年までの十二年間を費やしてこの結果なんだから将来性はないしょう。おしまい。  ということで、私は現在、何もやる気が起こらない状態なのです。バスケが好きという気持ちは変わらないけど、「あなたにはバスケの才能があるの」と言われてバスケに特化した英才教育を受けて、そしてその唯一のものが見事なまでに粉

【見開き1P】赤い海と青い海

※見開き1ページ相当の小説です  魚は赤い色をしています。  魚には様々な種類がいますが、あらゆる魚が同様に〈不思議なもの〉を作ることができます。その〈不思議なもの〉の色や形は様々で、それが種類を決めるのです。  その〈不思議なもの〉を食べに鳥がやって来ます。鳥はお礼に小さな生き物を落として、魚はそれを食べて生きてます。  魚は山で生まれ、川を下って海にやって来ます。川を下る間に魚は多くのことを学び、自分が作れる〈不思議なもの〉を知ります。そして、どこに行けば同じもの