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金魚の発生学実験#04:孵化してから成体になるまで

1:導入

水生動物学研究室主宰の太田欽也です。金魚の発生学について学んでいきましょう。上記のYoutubeの動画の解説です。動画よりもテキストを読んだほうが理解が早い人、あるいは文章で確認したい人向けです。前回の動画では金魚の胚が孵化するところまで見ていただきました。今回はその続きです。もし、前回の動画をご覧になられてない方は概要欄にリンクを張っておきますのでご参考ください。

2:背景の説明

孵化する前の胚は卵黄を使いながら大きくなってきました。そして、孵化した後も徐々に卵黄が消費されていき、最後にはなくなってしまいます。この点が孵化する前と後の大きく違うところですね。つまり、孵化したあとの金魚はこれから餌を食べて、外から栄養を得て大きくなってゆきます。
 そうなると、温度だけでなく、餌の条件も成長に関わってきます。ほかにも、水槽の大きさや、水槽の設置場所、飼育密度などなど、成長に影響を及ぼす環境要因が胚発生の時期に比べて多くなります。大きな池で少なく飼ってたっぷり餌をあげた場合と、小さな水槽でぎゅうぎゅうに飼って餌をあんまりあげなかった場合とで成長に差が出るのは当然ですよね。ここまで、極端じゃなくても同じ成長過程を違う環境下で再現するのが非常に難しいことはお分かりいただけるかと思います。
 なので、今回の動画では自分たちの研究室の飼育条件下で孵化仔魚が、どういう風に姿を変えて成魚へと成長してゆくのかについて、解説します。

3:孵化仔魚から成魚まで

3-1:受精後3日目です。

孵化した直後は浮袋が発達していないので安定して泳ぐことができません。これだと餌を追いかけて捕まえることも上手にできません。でも、おなかに卵黄が残っているのでまだ大丈夫です。外部の刺激に反応して泳ぎまわったりしますが、基本、水槽の底や壁に張り付いてジッとしています。

3-2:孵化して一日たちました。

受精後4日目になります。この辺りから浮袋が徐々に出来上がってきます。成長の早い個体によっては浮袋が機能し始めます。この銀色の部分が鰾です。こうなると、上手に水の中で態勢を保って泳ぐことができます。まだ、お腹には卵黄が残っているのですが餌を追いかけて食べることができます。水を汚さない程度に水槽にゾウリムシを入れておいてあげれば餌を食べ始めます。

3-3:受精後5日目です。

いかにも食べる気満々の顔つきになってまいります。ちょっと、前の段階の金魚たちと比べてみましょう。口が前で開くように下あごがしっかりしてきたように見えます。これで多少大きな獲物でも捕らえることができるようになりました。なのでこの時期にブラインシュリンプを与えると活発に追いかけます。ブラインシュリンプを食べた魚のお腹はオレンジ色に変わるので容易にわかります。ちなみにこのブラインシュリンプは全長0.4mmほどです。なので、これからブラインシュリンプと仔魚の大きさを比べていただければ、これからの成長の様子を把握していただけると思います。

3-4:受精後18日が経ちました。

先ほどの孵化仔魚と比べて明らかに大きくなりました。2週間も見ないと劇的に姿形が変わります。口もさらにしっかりして体も大きいのでブラインシュリンプを簡単に丸呑みできます。さらに鰭の作りを見てみましょう。尾びれがしっかりしています。背鰭も尻びれも明らかです。これらの鰭の中には鰭条と呼ばれる鰭を支える骨格も入っています。ちょっと、受精後5日目の仔魚と比べてみましょう。この段階だと背鰭も尻びれも尾びれも一枚の膜として全部くっついています。そして、成長が進むにつれてこういう風に分かれてきます。浮袋も注意して比べてみてください。個体によっては銀色の球のように見える鰾の数が一つから二つに増えているように見えます。はい、この約2週間の間、目をはなしている間に様々な組織器官が発達したのですね。この二週間の間、何が起きたか詳しく知りたい方がおられるかと思いますが…

3-5:言い訳と開き直り

ちょっと、孵化仔魚の成長過程の観察の難しい所について説明させてください。前回の動画の胚発生の過程はこのような感じのタイムラプス映像で時間を縮めて皆さんにお見せすることができました。胚発生の過程で起きる出来事は短くて数分、長くても3日で撮影が終了します。なので、短い撮影時間でとりたい映像が収録できたのです。ところが、孵化仔魚の成長は数日単位で進んでいきます。そして、魚たちは動き回ります。そうなると、その変化を連続的に映像に収めるのが難しいのです。とくに、同一個体の成長の過程を追いかけるのは非常に難しくなります。
 しかし、ご安心ください、我々の研究室ではすでに孵化後の金魚の成長過程の詳細な観察に何度も成功しております。そして、これらの論文を発表しております。なので、反響やご要望に応じて、これらのさらに詳しい解説動画も作っていこうかと考えておりますので、興味のある方はチャンネル登録のほどよろしくお願いします。

3-6.受精後26日目

もう、輪郭が大人の金魚に近づいてまいりました。ブラインシュリンプの大きさと比べても明らかに違います。口を開くと少し離れた場所の餌を、水ごと吸い込むことができます。そして、いままで見られなかった新たな特徴が出てきました。腹鰭に注目してください。ちょっと、受精後18日目の胚と比べてみましょう。腹鰭が著しく発達しているのがわかります。18日目の金魚の腹鰭がちょっと飛び出しているだけなのに対して26日目の個体の腹鰭はより広く平たく、そして、鰭条を持っていることがわかります。この鰭の出現順序についても、いろいろと話したいことがあるのですが、それはまた別の機会に。

3-7.受精後46日目。

体の大きさは小さくても、成魚と同じ特徴を持っています。すべての鰭に鰭条がしっかりとできています。なので、この辺りになってくると仔魚の時期から稚魚の時期に移り変わってまいります。この仔魚と稚魚の定義については、これまたいろいろと議論があるのですが、成魚と同じ組織器官をもっていて生殖能力がないものを稚魚と呼んで、その前を仔魚と定義できます。
 でも、その定義だと、受精後26日のあの金魚たちはなんで仔魚と呼ばれるんだと思われる方も出てくるかと思います。なので、ちょっと比べて確認してみましょう。はい、比べてみると、26日目のこの個体には総排泄孔の前に膜があるのが見られるかと思います。これは成魚にはない特徴ですね。一方の46日目のこの個体。完全にこの膜がなくなってますね。しかも、鱗も出てきています。このように鱗が出てきてこの膜がなくなっているかどうかで仔魚なのか稚魚なのかを分けることができます。こちらの受精後48日目の魚たちも鱗をしっかり持っていますので稚魚と呼ぶことができます。このころになると色のバリエーションも明らかになってきます。

3-8.受精から一年経った金魚たち

屋外の大きな水槽で飼うと簡単に大きくなってくれます。雄は精子を出しますし、メスでも大きな個体は卵を産みますので発生学の実験に使えるようになってきます。そして、2年目以上になるとさらに大きくなります。この大きさになると沢山卵を産んでくれるので実験には重宝します。これらの金魚は雄雌に分けて飼っておいて、産卵期に人工授精を行います。もし、まだ、人工授精の動画をご覧でない方は、これも概要欄にリンクを張っておきますので、ぜひ、見てください。

4:まとめと予告

孵化仔魚が成魚になるまでの過程をサックリと解説しました。金魚の鰭や鰾、鱗にはできてくる順序があることを見ていただけたかと思います。これらの組織器官が発生する過程で体の中ではもっといろいろなことが起きて、まだまだ説明しきれていないことがたくさんあります。なので、また、別の機会にもっと詳しい発生過程の解説もしてゆこうかと考えていますのでお待ちください。
 では、次回予告です。いままでは人工授精や胚発生、そして、孵化仔魚の成長についてみて来ましたが、観察方法については説明してきませんでした。なので、次の動画ではそれらの技術について解説してゆきたいと思います。お楽しみに。それではまた。

文献:

Tsai, H.-Y., Chang, M., Liu, S.-C., Abe, G. and Ota, K.G. (2013), Embryonic development of goldfish (Carassius auratus): A model for the study of evolutionary change in developmental mechanisms by artificial selection. Dev. Dyn., 242: 1262-1283. https://doi.org/10.1002/dvdy.24022

Li, I.-J., Chang, C.-J., Liu, S.-C., Abe, G. and Ota, K.G. (2015), Postembryonic staging of wild-type goldfish, with brief reference to skeletal systems. Dev. Dyn., 244: 1485-1518. https://doi.org/10.1002/dvdy.24340

Li, I.-J., Lee, S.-H., Abe, G. and Ota, K.G. (2019), Embryonic and postembryonic development of the ornamental twin-tail goldfish. Dev Dyn, 248: 251-283. https://doi.org/10.1002/dvdy.15


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