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運命の人

大好きなあの人のお店に簡易ダーツ台が入っていた。常連さんと対決をしていた。楽しそうに酔っ払って笑っていた。だから、夢を見た。


初めて、あの人を見たとき。


誰から紹介されたわけでもなく、たまたま。
本当に偶然に、あの人が参加していたダーツ大会の会場に行っていた。
別なイベントをやっているところと併設されていて、ダーツ会場が賑やかだったからつい足が向いたのだ。
何やってるんだろ?ダーツだ!私、初めてだよ!
そう言って、そちらを一周したんだ。

ステージが人だかりになっていた。
投げている選手すらも、人だかりで見えない。
けれど一瞬、人の隙間から見えた。
蝶が舞うように、ひらりと。

皆が真面目に投げている中で、一人だけ可憐に。
風のようにふわりと。
そして、的を外さない。

「…………すごい…」

とても美しくて、もっと見たい、と思った。
けれど、人が沢山すぎてどんな人なのかすら判別がつかない。見えない。

そしたら、人だかりがざわっと崩れた。
あれ……??終わっちゃった???
人の波が薄くなってもその人は見えなかった。
いや、既にいない。
どこに…??きょろきょろと頭を巡らせてもわからない。だってよく見えなかったもん。
向こうから、Gジャンを着て、ハットを被った金髪の人が歩いてくる。イケメンの細身のお兄さんと一緒だ。
ん?選手の人は皆、ちゃんとしたユニホーム着てるみたいだから、この人は違うよなぁ??
観客かな。

目線を合わすわけでもなく、すれ違う。
どこを探しても、さっきの可憐な人は見つけられなかった。
…………わかんないや。
もう会えないのかな。

うん、でもきっと。
ご縁があれば、どこかで会えるわ、きっと。
きっと………。。。




「俺、実はダーツの大会で優勝したことがあって」
「へぇ?」
武勇伝を聞いていた。
大好きなあの人の、まだ恋でなかった私の、お兄さんのように慕っていたあの人の、武勇伝を聞いていた。
あの人は酔っ払って、上機嫌で、そう言った。

「あいつに頼み込まれて参加した大会でさ、ギャラ取るからね、って言って、いいよって言われて、出たの。参加してる奴らはみんな一生懸命練習してるじゃん?俺はちょっと数回投げたくらいでさ、そいつらをバカにしてやろうと思ってやったの。炎上商法だよね。で、かるーく投げてやったら優勝しちゃって。SNSに、軽い気持ちで参加したら優勝しちゃった、みたいなこと書いたらメッチャ叩かれた笑」
「みんな真面目にやってるでしょうからね」
「うん、普段着で参加してやった」
「ははは」
笑いながら、何かを忘れている気持ちになった。
ダーツ。優勝。………なんだっけ。なんか引っかかるなぁ。。。

後日、別な人にまたその話をしているのを聞きながら、私はまたもや、んん???と思った。
なんだろう。この話、引っ掛かるんだよなぁ。。。

私はふと、口にした。
「それって、いつ頃の話?」
「ん?去年」
「……季節って、夏だったりする?」
「お?おお、夏だわ」
「……………………」

夏。去年。ダーツ。
…………ん?????

「私……、???」
なにかが、カチ、と切り替わった。
ザワザワとした会場。
沢山の人だかり。喧騒。
ダーツ台の電子音。

「あ……れ……、???」
あの人が私を不思議そうに見ていた。
鳶職の人が頭にタオルを巻くみたいにタオルを被っている。
そこからはみ出た長い金髪。

「フワッと投げてたりした…??」
「ああ、遊ぶみたいに投げてた笑」
「………あの人…???」

蝶が舞うように投げるフォーム。
皆がガチガチに力業で投げる中で、風のように。

「わたし……、会場にいた…」
頭にピカーン!と閃きが墜ちた。
あのひと……???
まさかの。

ご縁があれば、また会える。

そう思った私の。

「あの人なの……!?」

思わず口元を押さえて、目を見開いた。
あの人。もう一度、会いたかった。
あの、可憐なフォームの、あの人に。

「私、会場にいたの!あの時みてたの。すごく上手で、それで、思わず探したの。すぐに終わって見つけられなかったの…!」
あの時、どんな人か見たかった。
見つけて、そして。
そして。。。

あの人はカウンターの向こうで、楽しそうに私を見つめていた。
私の感動を、ちゃんと見ていたんだろうな。



「で、ダーツするボスを見たら、当時を思い出して、夢に見ちゃったの」
「へぇ」
2人でドライブしながら、そんな会話をしていた。
夢の中でも姿がよく見えなかった。
探したのに、解らなかった。
すれ違う本人に気づかず、探していた私。
笑っちゃう。
でも、誰かに連れてきてもらわないと見つけられないこの場所の、このバーに。
私が知人に連れてきてもらう前に、ちゃんとこの人と出会っていたってこと。
自力で、この人を見つけていたってことが凄いよな、と今更ながらに感じていた。
占い師さんに、「一緒に生まれてこようね、って約束して来たんだね。でも、時間がズレちゃったんだね」って言われた私とあなたの関係。
「二人はツインレイですね」別な占い師さんもそう言った。
そんなご縁。私達には計り知れない、二人の絆。
それを引き合わせるために、きっと早めに産まれたあなたが、無意識のうちに、私に出会えるように、私に見つけてもらえるように、注目を浴びる人物であったんじゃないかって、ふと思ったんだ。
あいついないじゃん。でも会いたい。出会うためには?…じゃあ俺が、あいつに見つけてもらえるようになればいいんじゃないか?有名なやつになれば。注目を浴びるやつになれば、勝手にいつか会えるんじゃねーの?
……そんな風に画策したんじゃないかなぁ。
策士だから、ボスは。

「あの時、私、ボスを探したの。ダーツ会場で。でも見つけられなかった。人だかりの向こうでカッコよく投げてて、ちらっとしか見えなくて、すぐ終わっちゃって。キョロキョロしたけど、見つけられなかった。声かけたかったのね。でも、今になって思えば、見つけられなくてよかった。知らない人に声かけられたら、変なやつって思われるでしょう?」
「俺は声かけられたことないけど。でも、ちゃんとプロとかでやってるやつならあるだろうな。俺はそんなに凄くないし」
「凄くないやつは優勝しないでしょう」
笑ってしまった。
「あの時、すごかったです、って伝えたかったのね。本当は。だから探しちゃったんだわ」
あの時の思いを、今、伝えられるなんて思ってもみなかった。
ようやく伝えられるなんて。

ツインレイだからだね、なんて片付けるには言葉が足りない。私達の結びつきの強さも、不思議さも。
会いたかった。

あの時も、産まれたときからも、きっと。
ずっと探していたんだね。
運命の人。
私の半分。




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