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【雑文】夢日記 超訳風清書(令和四年九月〜十月)

これは別記事で書いた私の夢日記を脈絡や表現を補い、かつ夢の内容をよく理解できるよう清書したものである。元の記事がより新鮮な状態で夢のイメージを残すことに重きを置き、寝起きで文を書いたため、解釈によっては別のイメージを喚起させてしまう所も多かった。そこで夢のイメージをより正確に伝える為の超訳風清書に挑戦してみる。

元記事


令和四年九月十六日

 私は映画のような形で、つまりは第三者による視点で夢を見ることが多い。何台も様々な角度からカメラを回して、必要なカットを繋ぎ合わせた映像が私の夢、そのイメージである。
 私は母校の小学校に居た。その一室でTと二人っきりで座っている。但し、Tは別の小学校を卒業しているので、彼女からすれば全く知らない学校の教室に座っているわけである。二人横並びの机に座っていて、向かい合うことはない。平行に視線は黒板を貫いている。
 私は水仙の花が挿された陶器の花瓶を机に置いて、両手を包み込むように添えている。
 何度かの会話がなされた。その殆どは忘れてしまったが、会話もまた平行線であった。 
T「複素数は……」
私「けれども、漱石の……」
T「湊かなえさんが島を散歩していて、私はずっとついて行ったら(私)君を見たんだけれどいつの間に来てたの?」
 ここから私の視点、一人称視点になる。
 私は沈黙した。それは私の生霊だと了解したからであった。それは散歩している湊かなえに憑いた生霊ではない。他ならぬTを求めて、島を彷徨っていたに違いない私の生霊である。
 答えるわけにもいかず、手元に視線を落とす。陶器の模様に目が行く。すると、そこには先程までなかったはずの、昔に見た特攻兵の手紙の文字がびっしりと描かれている。私はこの手紙を見るたびに、えも言われぬ後ろめたさと悲しみが胸にのしかかるので避けていた。
 たまらず視線をTに移すと、いつのまにか赤い眼鏡をかけている。知らない眼鏡。夢の中で私は「現実でも掛けていたっけ」と無知のまま明晰夢を見ている状態になった。
 ずっと持っていた花瓶から漸く手を離して、胸ポケットを探ると生徒手帳が出てきた。しかし、これはTの生徒手帳であった。返却すると、君は退室した。
 水仙の白さが急激に茜色になってゆく。教室もその色の変化と速度に合わせて夕方の姿になる。
 机の上には給食が並んでいて、私は居残りさせられていたのだ、と悟った。
(ここで場面は変わる)
 坂をおりている。ここは長崎。
 坂の下にTがいるが、遠くにいるため蟻のように小さく見える。
 彼女は手を振っている。急がないといけない。
 何度も転びながら下っているうちに、目が覚めた。


令和四年九月二十日

 私は真っ暗な夜の山を登っていた。
 見回すと、遠近の木々の合間を雪の小面が何枚も何枚も浮遊していて、遠巻きに私をとり囲んで、じっと見てくる。
 ここは六甲山。そういう確信があったが、立ち止まって麓を見晴らすと真っ暗で、神戸はない、と思った。神戸は無いが六甲山はある。それはそうだ。神戸はただ六甲山と大阪湾の間、狭い狭い陸地にへばりついたただの町で、何かがあれば容易に無くなる。その時も六甲山はいつもと変わらぬ隆起を誇って聳えるだろう。
 再び登り始める。雪の小面は白く、闇に溶暗することなくくっきりと見える。私と一定の距離を取っているらしく、登っても登っても距離は縮まらない。
 突如として山頂の方から嬌声が聴こえてくる。誰の声かはわからないが、なんだか嫌な気持ちになって、木に凭れ掛かると、カラカラと音がした。音がした方も見やらなかったが、全ての雪の小面が地に落ちたと了解できた。
 電話が鳴る。出ると、耳元で嬌声が響く。嫌な気持ちを増幅させながら、ずっとそれを聴いていた。この声はきっとOである。相手はきっとあいつであるが、あいつの名をとうに忘れてしまった。
 ずっと聴いているうちに、目を覚ました。


令和四年九月二十一日

 大学構内を出て、坂をおりていく。大阪湾の煌めきを見つめながら降りてゆくと、降りた先は明石市西部だった。ラーメン屋に入って、炒飯セットを頼む。頼んだ瞬間に店を出た。
 海岸沿いの道を歩く。起きた。


令和四年九月二十三日

 大阪芸術大学の学食でカレーを食べているUの向かいに私は座り、喋っている。
私「ダリの雲についてすごく気になってんのよ」
U「うんうん」
私「多分やけど、賢治のそれとは違うんやろうな」
U「ボードレール?」
私「お前知ってる?」
U「うん」
 彼女がボードレールを知っていることに驚いた。
 目を窓際に移すと芸大生が天照大御神らしき巫女姿の女神の下書きに着色していた。私の嫌いな画風だ。イラスト風のもので、それをわざわざ絵筆と画布を用いて描く必要があるのか? と思ってきます。
 Tが迎えにきた。
 目が覚めた。


令和四年九月二十六日

 Mと帰る。どこへ帰るのかはわからない。しかし、高校からの帰り道であることだけは確かだ。
 彼は晴れているのに、黒い傘を持っている。私も黒い傘を持っている。同じ天気予報を見たのだろう。夕方から雨、と言われていた。
 さわやかなJR灘駅前の空を眺めて歩いていると、突然Mが結婚することを報告した。一瞬にして私は喜びの最高潮に達し、黒い傘と自らの鞄と眼鏡を渡した。
私「誰と?」
M「Oと」
私「Oって、 O・A?」
M「いいや、O・M」
 一瞬の安堵、その後肝心なことを忘れている気がしたが、とにかくMを祝おうと手を叩いた。
 場面は刹那に変わった。
 生田神社で神道式の結婚式。私は新郎家族側の末席に座っている。着たこともない立派な袴を私は着て、新郎家族、新婦家族は洋装だった。
 長々と神主が何事か神に言挙げている。
私「言祝ぐとは口に出して……
  来ぬ人をまつほの浦の夕凪に焼くや藻塩の身も焦がれつつ、とは藤原定家……
 桃の夭夭たる」
 神社裏手にある森から鳥の囀りが満ちてきている。
 目が覚めた。覚めた途端に風邪気味であった。


令和四年九月二十七日

 廊下を歩いている。
 深夜の病院の廊下をひたすら歩いている。
 起きてから覚えているのはこれだけだ。


令和四年十月二日

 快速電車に乗っていると、隣の車両からTがやってきて私の隣の席に座った。前向きの二人分の席。窓際に私、通路側にT。そのほかの席には誰もいない。六甲山と手前の神戸の街並みが窓外を過ぎる。
 ただ黙っているだけで、良かった。
 夢は別の物語へ。
 自室で探し物をしている。何を探しているかわからないが、とにかく焦っている。
 ピンポーン。
 呼び鈴が鳴る。無視して探す。しかし、同じところばかりを探しているから進展はない。
作業机、本棚、玄関、皿置き場、便座。
作業机、本棚、玄関、皿置き場、便座。
作業机、本棚、玄関、皿置き場、便座。
作業机、本棚、玄関。
 玄関の三和土の上に携帯が落ちていた。いつのまにかそこにあった携帯が探し物だったことを思い出す。電源をつけるとLINE通知がきている。
(Tから二件)
 文言は覚えていない。
 目が覚めた。


令和四年十月三日

 Oの葬式らしい。通夜かもしれない。
 棺から一メートルほど離れて、棺の窓を覗けないでいる。遺体を見たくない。確かに今も腐りゆく顔を、見たくない。
 真っ白な棺の表面ならば永遠に見つめられもする。私が死者と向き合う方法はこれしかない。しかし無情にも黒服の男たちが窓を閉めて棺を担ぎ、運んでいってしまった。ぞろぞろと参列者がそれについていく。会場に一人残される私。
 棺のない祭壇に静かに掛けられている遺影には青い背景のみが写っていて、誰も写っていない。
プゥーーーーーーーーーー!
 霊柩車のクラクション。
 さようなら。と心で言って、手に持っていた菊の花を何も写っていない遺影に掲げた。
 すると外からSが戻ってきて、私の首に接吻した。そして、また出ていった。
 今度は私も外へ出た。出た途端に、海が広がっていて、渚にはSが裸になって海に駆け出していた。
 私は汀に佇む。
 目が覚めた。


令和四年十月四日

 知らない女とまぐわっている。自宅の風呂場、狭いその中で。この女、雲のように軽い。故に、体がぶつかり合っているような感覚がない。腰を打ちつけて、難儀しながらも射精した。
 物語転換。
 何台ものバイクが国道二号線をずっと走り抜けていく。国道二号線と言いながら、道沿いに建造物はなく、山と海、恐らくは六甲山と大阪湾の間を真っ直ぐと道が伸びている。バイクは同じ形、ライダーも同じ服装でみな岡山へ向かっている。私は大学へ行こうと大阪へ歩いているのだが、一向に神戸を(と言っても神戸らしいのは地形だけだが)抜け出せない。
 ふと山へ行きたくなって、山へ歩き出した。建造物は無いため、一直線に麓まで歩くことができ、そして木々の中へ。
 いつのまにか明石海峡に居た。舞子らしいが、あの松林も舞子駅も移情閣もなく、しかし明石海峡大橋は存在していた。
 かの激しい流れを横切って、誰かが淡路島へと泳いでいる。遠泳か。誰かはわからない。男のように見えるが、それも上半身が裸であるからそう判断しただけ。
 物語転換。
 二階家の一階に居る。知らない家だ。二階では誰か複数人で話しているが、はっきりとは聞き取れない。わかるのはみな、日本語ではないということだ。
 私は立ち上がり、階段をのぼった。三段のぼると、もっと段数があったのに、二階に着いた。二階に着けば声もはっきりして、何語かがわかった。韓国語、ドイツ語、スペイン語、日本語。
 襖を開けた。畳に洋風の立派な椅子を四つ置いて、車座になっている。全員がこちらを向いた。朴正煕、メルケル、ダリ、Tだった。瞬時にメルケルの首はもげて、Tはあからさまに嫌がって、転がってきた生首を蹴り飛ばした。生首を見ると、それはメルケルではなくフランコの首になっていた。
 畳に転がるフランコの首。断面には血液ではなく白濁とした粘液をとろとろと流れている。
 ダリの髭のイメージが鮮明に頭に焼き付く。
 目が覚めた。


令和四年十月十日

 星も月もない夜空。眼下に広がる街の明かり。夢の中では、神戸か函館か、と繰り返し幼女に問われている。
幼女「神戸なん? 函館なん?」
 幼女の母が慌てて回収しにきて「すみません」と早口で言って走り去った。
 暗い丘をぐるぐると徘徊した。
 目が覚めた。


令和四年十月十四日

 蛇が道路の上を這っていく。
 私が国道二号線沿いを歩く。凶々しい夕焼け。一台も車は来ない。それでもガソリンスタンドは煌々と灯りをつけている。
 歩道橋に上がって、東西を見回す。
 目が覚めた。


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