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公開空地はコモンズ空間になり得るか?

川崎市中原区、武蔵小杉。渋谷までの抜群の利便性で、大変人気な街です。

私も初めて訪れた時、本当にたくさんの子育て層に遭遇し、「関東はすごいんだな」と面食らいました。あちこちのカフェでベビーカーが渋滞?していましたし、商業施設・グランツリーはワンフロアまるまる子育て層ターゲットの店舗や、屋上に緑地があり、大人気。

しかし、工場跡地などがタワーマンションに急に置き換わっていった影響で、まちのインフラが追いつかず、通勤時の駅舎からの渋滞や、不自然に分断された歩行者のネットワークが課題になっています。また、マンション住民でのコミュニティ形成も難しさを抱えていると思います。

コモンズ空間とは

そんな中、コモンズ空間のあり方を考える業務のお手伝いをしています。

コモンズとは、共有、共通といった英語ですが、「地域住民がまちの共有資産として活用し、魅力的にできる可能性を持った場所」と考え、公園などの公共空間から、民間施設の空地などアクセスできる空間、さらには川沿いやお寺の境内地なども含めて、幅広くとらえています。

例えば、グランツリーの屋上にある緑地も、まちのユーザーである子育て層に愛されている、一つのコモンズ空間だと思います。

まちの魅力、使いやすさのため、空間をまちに対してオープンにする、シェアすることで、滞在・休憩や、アメニティ、人との出会いなどなど・・・まちの価値を高めるための一つの装置として、コモンズは重要だと考えます。

これは公共が整備する場合もあれば、民間がする場合もあるので、公共空間というより、来街者がアクセスでき楽しめる、公共性を備えた空間だと思います。

しかし、コモンズは放っておいても自動的に作られるわけではありません。様々な制度でこうした空間が担保されている場合もあれば、商業施設として来店者のサービスの一環として整備する場合もあり、それぞれに性格も違います。

公開空地とは

ここで、公開空地について、取り上げたいと思います。建築基準法で定められた総合設計制度というのがあり、簡単に言えば、「事業者がマンションなどを建設するにあたり、一般の方が通行・利用できる『公開空地』を確保すれば、そのボーナスに容積率のアップが得られる」制度です。

これによって、足元の地上空間に緑地や通路が生まれ、まちの景観にも寄与するということが期待されます。中には、ガーデンのように美しく整備され、居住者の方がそぞろ歩きを楽しむようなスペースになっているところも。武蔵小杉のタワーマンションはほぼこうした公開空地を確保していますし、全国的にも広く使われている制度です。

公開空地の問題点

しかし、マンションの敷地内なので、管理はマンションの管理組合が担います。そこに不特定多数の方が入ることによる管理上の問題も。例えば、防犯上危なくなるとか、ゴミが捨てられるとか、ペットが入るとか・・・。そのため、利用を制限するようなデザイン、管理にするところもあるようです。

また、公開空地といっても、容積のボーナスの対価で整備する緑地空間として捉えられているところもあり、通行は確保していても、まちに対してデザイン的に開かれず、閉鎖的に作られているところもあります。すると、緑地がある意味壁のようになってしまい、まちの賑わいが分断されてしまいます。

コモンズ空間としての機能が期待されている公開空地なのに、そういったことで閉鎖的に使われるのは、趣旨が違う。そのような問題の構造があります。

これは制度上の改善点もあり、筑波大学の藤井さやか先生が明確に指摘しておられます。ご興味のある方は下のリンクからどうぞ。

まちと人との関わりを生むコモンズ空間

一方、最近では、公開空地を販売のウリにしているマンションもあるようです。入居者のサービス施設という捉え方だけではなく、まちに対する貢献、シェアだという考え方が広がってもらえればと思います。

一つ、面白い事例があります。北九州の城野地区。概要はリンク先をご覧ください。

こちらは、「シェアタウン」として、住宅地の各主体が、少しずつ、まちのためになることを「シェア」して居場所を作る試みを実践。地区内の病院のホール、薬局ビルなどの共用空間を地域住民らが活用したり、まちかどに休憩スペースやガーデンがあったり、公園に近接してみんなが活動できる菜園があったりと、まちを楽しむ装置(シェアプレイス)があちこちに広がっています。

実際どうやって作っているのか聞いたところ、「タウンエディター」と呼ばれるまちの専門家が各地権者に粘り強くお願いして実現しているとのこと(ラブレター型まちづくりと仰ってました)。一人で楽しむよりも、みんなで楽しむほうが、ずっといい。簡単に言うと、そういうことだと思います。

自分の敷地だけで考えれば、クローズドな空地の方が管理しやすいのですが、広くまちとして考えた時に、何をまちの価値のために提供できるか。そういった視点が、公開空地という空間と、それを扱う住民に必要かなと思います。

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