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性被害を受けて笑っていた話

今でこそ異性愛者な私ですが、成人するまでは同性愛者でした。
男性に対してはいわゆる男性恐怖症で、業務連絡以外でまともに話した経験はゼロ。

同性愛者ではありましたが「女であれば誰でも好きになれる」という訳ではありません。
高校で好きになった相手がたまたま同性だったという表現が近く、生涯で好きになった女性はただ一人です。

前置きはここまでとして、成人を間近に控えたある日、夜道で男性に襲われました。

イヤホンで音楽を聴きながら歩いていたこと、ミニスカートを履いていたこと、若い女であったこと、一人で夜道を歩いていたこと。
どの要素が引き金となったかは分かりません。

暗い中いきなり背後から押されて組み伏せられ、そしてものすごい力で下着を剥ぎ取られました。
思いきり叫んで抵抗したせいか、それ以上の被害はありませんでした。

横になった視界から、去り際の加害者が見えました。そこで目にしたのは、当人の足元を揺れるプリーツスカートとポニーテール。

要は、女装した男に襲われたのです。

加害者が去ってからは自宅に走り、寝る支度をしていた妹にその話をしました。

その時私は泣きながらでもなく、怒りながらでもなく、笑いながら話をしていました。

妹は真面目に話を聞き、寝ている母親を起こして経緯を説明しました。
笑いを堪える私とは正反対に、ふたりはやけに真剣な表情だったことを覚えています。

あっという間に警察に連れて行かれ、事情聴取中もずっと私はへらへらと笑っていました。

だって「この私」がまさかの「女装男」に襲われたなんて、そりゃ面白いでしょう?

翌日からの日常生活でも、友人には笑い話として今回の事件を話すのみでした。

事件現場で見た下着はふたつに分断されており、その力の強さを物語っていました。
体には痣と切り傷が残り、犯行現場には剥ぎ取られた下着の落ちていた場所を示す印が残りました。

笑い続ける自分とは裏腹に、身体と通学路に残った跡を見る度に恐怖心が湧きました。

加害者はほかの地域でも同様の猥褻事件や傷害事件を起こし、後に逮捕されました。

男性恐怖症で同性愛者である私を全て否定するような事件に巻き込まれたというショックを、笑いでかき消したかったのだと気付けたのは、それから3年後のことでした。

気付いたきっかけとしては、自分の気持ちのアウトプットです。
「怒り」をテーマとした文章の募集に向けてこのことを書いたとき、ようやくあのときの行動が腑に落ちたのでした。

なんだ、私、きちんと怖かったんだ。

面白いから笑っていたのではなく、とっさに反動形成して自分を守っていたという話でした。

加害者は女子中高生ばかりを狙い、中には性器を見せつけられた子や殴られた子もいました。

もし私が誰にも話をできないでいたら、それらの事件と紐付けられることはなく、犯人逮捕に繋がることもなかったかもしれません。

性犯罪被害者は、7割が泣き寝入りしてしまうと聞きます。
そんな中、笑い話という間違った形でも妹に伝えることができた自分には感謝しています。
そして、無理にでも母親を起こしてくれた妹と、瞬時に警察に連れて行ってくれた母親にも。

当時の私にかけたい言葉があるとするならば、「笑い話にしてもいいけど、怖いと言っても誰も引かないよ」。

辛い過去を乗り越えて最終的にお笑い種となるのなら問題はありませんが、順序が逆となるならそれは本心を抑えていることになります。

しかし過ぎた過去に対して自分ができることと言えば、何もありません。いまさら悔んだところで、当時の私にかけたい言葉があると言ったって、過去は変えられないのです。

そこで、この投稿を読んでくれた方にお願いがあります。

犯罪の種類は問わず、被害者となったことを笑い話としてしまう方は少なからず存在するかと思います。
その笑い話の奥底にあるのは、こんな事件があったということと、本当は辛かったという思いです。

もし身近な人がこのような状態に陥っていたら、笑い話に一通りのった後「泣きたかったら泣いていいんだよ」とひとこと、伝えてあげてほしいです。

そして、もしあなた自身がそうでしたら、一度だけでいいので自分を慰めてあげてほしいのです。

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