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リグ・ヴェーダ

何はさておき、伝えたい言葉があります。

「生きていてくれてありがとうございます」



今日は少し、ミュージシャンの武藤昭平さんについて語らせてください。

武藤昭平さん、53歳。
「勝手にしやがれ」というバンドのドラム兼ボーカル、そしてリーダー。このバンド以外にも「武藤昭平withウエノコウジ」という2人組で活動しており、そちらではギター兼ボーカル。とにかく歌える方。

私がこの方の存在を初めて目にしたのは2022年3月。ベーシストのウエノコウジさんが今やっている音楽を聞きたいと思い足を運んだライブ、「武藤昭平withウエノコウジ」でのこと。
ウエノさんの隣でギターを抱えていたのが相棒の武藤さんだった。

黒の中折れ帽をかぶり、上下黒のスーツに黒いシャツ。少し焼けてツヤのある顔で、ニコニコしながらウエノさんのお喋りに静かに耳を傾ける姿。
格好は夜の匂いがしてやや胡散臭いけど、仏みたいな顔したおじさんだなぁと思いながらぼんやり見ていたら、ギターの演奏はラテンやスパニッシュの雰囲気をまとわせて力強く情熱的、歌では男らしい声を朗々と響かせ、ギターの演奏に負けないくらい味わいある歌声が私の脳天を直撃した。

なにこの人……歌うとすごいんですけど。
仏なんかじゃないよ。どうなってんの?

胡散臭い服装をした生き仏の、予想外に強烈な歌声。あの鮮烈な出会いの感覚は、10ヶ月近く経った今でもはっきり覚えている。

そうそう、忘れていた。
この出会いに関して、私は武藤さんと、武藤さんのファンの先輩方に謝らなければいけないと感じているので、今この場で謝罪させてください。

武藤さんの事を「胡散臭いおじさん」だなんて思って申し訳ありませんでしたっ!
人を見た目だけで即判断する短絡的な私をお許しください!


この時の衝撃で、私はマスクの下で開いた口が塞がらず、ライブ後の物販で、この2人が発表したアルバムをまんまと買ってしまった。
私が購入したCDにサインを入れる武藤さんから「初めて来てくれたの?嬉しいねぇ~!楽しめた?」と、ニコニコした顔で問われ、「はい!武藤さんの歌声にハマりそうです!」なんて、嬉しさのあまり子供のように元気よく返事をした記憶が蘇る。

2022年3月の私へ
その2か月後、武藤さんが歌う「ワインレッドの心」をライブで聞いて、更に迫力のある歌声に腰を抜かすから気をつけなさい。
「ハマりそう」なんて軽く考えていると、本気を出した武藤さんの色気あふれる歌と演奏に、口から心臓が飛び出すよ?マスクの下では、きちんと口を閉じましょう。
武藤さんに「あてられてしまった」12月の私より

2018年以降、大病から復帰後の武藤さんを直接見た事があるファンの方にはお分かりいただける感覚だと思うのですが、ステージを降りた武藤さんは、板の上での迫力はどこへやら、穏やかそうな「普通人」の雰囲気を持つ方。それを「ミュージシャン『っぽくない』」と表現すると、失礼にあたるでしょうか。
……なんというか、喋ると本当に一般的な、「会社の喫煙所にいる隣の部署の上司」くらい普通の感じに見える方。
お喋りではないけれど、こちらから話かけると、普段考えていることをポツリポツリ話してくれたり、会社の近所の安くて美味しい店を教えてくれそうな、身近な感じがするおじさん。

ところが、この身近な感じのおじさん、歌い出した途端に人並み外れた声が出る。
こうなると、全然身近じゃない。

しわがれ気味で、独特の味のある声が強烈で印象に残る存在。生で聞くと、めちゃくちゃ心揺さぶられる。
職場の隣の部署の上司ごときでは私の心は揺れないけれど、武藤さんの歌声は心揺さぶられるを通り越して、脳に刺さる。その独特の声で響かせるビブラートが脳に刺さったまま、いつまでも消えない。

あぁどなたか、この脳に刺さったブツを、武藤さんの歌声という強烈な印象を取り除いてくれる名医を教えて下さい。


私は何度ライブを聞いても、武藤さんのこのギャップに慣れないんですよね。ライブの帰り道、いつも私の頭の中は武藤さんの声がこだましているし、帰宅後は速攻で、ライブで演奏された曲のCDをかけるのが最近の習慣。
全く、ややこしい習慣を身につけてしまった…。

良いライブを見た夜は興奮と感動ですぐには寝つけない、翌日は仕事だと言うのに。うん、これは困る、まじで困る。


「♪んあぁ~」と一節でも歌えば、すぐに分かる誰にも似ていない声、出すぎの声量、伸びすぎの高音、絶大なる歌唱力。
全く、あのスリムな方のどこからこんな存在感ある歌声が出てくるのか……。私たち、同じ人間ですよね?

少ししわがれた独特の声、そして「情念濃いめ」とでも表現したら良いのだろうか。情熱的な歌い方と相まって、唯一無二の存在感を感じるボーカリスト、それが武藤昭平。

数年前に大病をして以来、体力が落ちたって本当ですか?大病前の武藤さんは、どれ程パワフルだったのだろうか。
「勝手にしやがれ」の10年ほど前のライブ映像を見ると、大きなリアクションでドラムを演奏する様子や、ピリッと気合いの入ったステージが見られたりするけれど。
あと、ちょっと”やさぐれた”雰囲気をまとっていて「常の人にあらず」という感じが見えるのも、またミュージシャンっぽくてカッコいい。
今の穏やかそうな顔をした武藤さんしか知らない私には、10年ほど前の、映像の中にいるピリッとした武藤さんなんて、もはや全く別人を見ている気分だ。


武藤さんを長く見ているファンの人からは「病気が発覚し、半年程度の治療・療養期間を経て表舞台に復活した」なんて教えてもらった事があるけれども、そんな短期間での復活はかなりすごいと思う。奇跡的すぎてにわかには信じられない話だ。
2018年、武藤さんが療養していた頃の話を色々な方から教えてもらうたび、2022年の今、私がこうして板の上で歌う武藤さんを生で見られるのは、本当に奇跡的でありがたい事だなぁと感謝の念がわいてくる。
もし武藤さんがステージに戻っていなければ、私は「武藤昭平withウエノコウジ」という2人組に出会えなかったし、どこかで武藤さんの存在を知ったとしても、それはサブスクやYouTubeの中だけ。生でその凄まじい歌声を聞き、心揺さぶられる経験なんて絶対にできなかったはずだ。


武藤さんの歌声って、よーく耳を澄ませて聞くと、主旋律の周りでも音が鳴っていて、声そのものが太く感じられる時があるのですよ。
歌っている音は当然1つだけれども、同時に2つも3つも声を重ねているかのような、多重録音を聞いているかのような不思議な歌声。どうやったらこんなすごい声が出るんだろうと、ライブで聞くたびに疑問がわきます。
音楽の専門家ならば、この歌声についてもっと分かりやすい言葉で表現できるのかもしれませんが。そんな訓練など受けたことが無い素人では、疑問を頭の中で無限ループさせるだけで答えが見つからないので、この歌声の凄さを解説して下さるエライ人の降臨を願って止みません。

武藤さんご自身で解説してくれたりしないかな?…… うーん、ないか。

失礼を承知で申し上げるならば、どちらかと言えば営業下手というか、シラフでは物静かなイメージのある武藤さん。自分の事についてペラペラ語るなんて想像つかない。飲んだらちょっとはお喋りになるだろうか?

武藤さんの相棒、ウエノコウジさんは、

「大病する前の武藤さんは、酔うと同じ話を延々と繰り返して、相手が寝るまで喋っとった!」

なんて、たまに茶化して笑う。
一方、武藤さんと同郷、ミュージシャンの後輩にあたる百々和宏さんは、

「昔、酔っ払った武藤さんに『どれだけデビット・ボウイが好きか』という話を5時間位聞かされてねぇ~。」

なんて、武藤さん本人を前に笑ってネタにするけれど、酒の力を借りてそこまで語る武藤さんなんて、私にはちょっと想像できない話だ。
あと、酔っ払いの話に5時間もお付き合いした百々さんのねばり強さを尊敬する。マジで。

あ、話が脱線しました。申し訳ない。



武藤さんは歌声も当然素晴らしいのですが、「息」にも魅力がありまして。武藤さんの息が持つ感情豊かな世界に、私は毎度、心打たれてしまうのですよ。
リリースされた作品だとそうでもない気がするのですが、ライブだと「フウゥ~」というハミング、「はぁ…」といったため息や、合いの手が入ることがあるんです。
もう、それを聞いただけで、「あぁ~間違いなく武藤さんだ」と思ってしまう不思議な感覚。普通の人よりも、声が持つ情報量が多いんですかね?

あと、武藤さんはビブラートが最高!
声を震わせ、一生懸命歌いあげる姿を生で見ると、かっこよくてしびれる。余裕綽々よゆうしゃくしゃくで歌うボーカリストも素敵だと思うけれど、やはり、真剣に一生懸命に表現する姿っていいなと思います。

蛇足ですが、私的「武藤かけ声」No,1は、テンションが上がった時の「オーゥラァーイ!」。ちょっと巻き舌気味に言うのが、男くさくてかっこいい。
この「オーゥラァーイ!」が出ると、こちらも嬉しくて、マスクの下でついだらしない顔になってしまうのですよ。
オーゥラァーイ!の時の武藤さん……好きです。

誰にも似ていない雰囲気を持ち、その、ため息や合いの手の1つ1つに魅力や艶があるのが武藤昭平という人の凄さだと思います。
男性歌手でいうと、タイプは全く異なるけれども、玉置浩二、久保田利伸、鈴木雅之のような強い存在感。歌い出しの「♪あぁ~」のワンフレーズだけで「この人!」と分かる唯一無二の強烈な個性がすごいなぁと、何度聞いても感動します。武藤さんと似た人なんて、ちょっとすぐには思いつかないかな。

素人がその魅力を分析しようとするだけ野暮なのは分かっているのですが。けれども、武藤さんの歌声を聞いていると、己の少ない語彙をフル活用し、なんとかそのすごさを自分の理解の中に納めたくて色々考えてしまうんですよね。
まぁ、何が言いたいかっていうと、それだけ歌声が複雑で魅力的だってことなんですよ。
武藤さんの歌声を聞くだけならば、YouTubeでもサブスクでもCDでも何でも良いとは思うのですが、やっぱり生の歌声の心地よさ、生でこその魅力ってあると思います。
中でも、2人でやる「武藤昭平withウエノコウジ」ではなく、バンド編成の「勝手にしやがれ」でもなく、武藤昭平一人きりの気合いが入った歌声。その本気の声。
まだ「武藤ソロ」の歌声を生で聞いたことがない方にもその凄みを味わって頂きたいのですよ。
武藤さん一人きりの弾き語り、生で見ると、真剣で男らしい姿、演奏中の格好良さに感動しますよ。

武藤さん、生きて板の上に立ち続けて下さりありがとうございます。
私は今とにかく、あなたの絶大なる歌唱と演奏が好きなもので。同じ時代に生きて応援できる喜びがあふれすぎて、勢いでつい書いてしまいました。
本当は、おめでとうよりも先に「生きていてくれてありがとうございます」が言いたかっただけなのですが……。
今、ここまでしつこく書いた己の気持ち悪さに、私は震えています。

2022年12月28日、お誕生日おめでとうございます。
54歳のその先の景色も沢山見せてください。どうか健康で幸せにすごせますように。そして音楽の神の恵みあふれる1年になるよう祈っております。

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