高田馬場の決闘~武藤昭平ソロ初観戦記【再掲】

※2022年6月に発表したものを再度掲載しています



「カバー曲」が好きなんです。

オリジナルも良いけれど、カバー曲は、歌手やアーティストごとにアレンジがあり、違った魅力が楽しめるのが良い。
個人的に好みがど真ん中なのは「女性の曲を男性歌手が歌うカバー曲」。あるいは、その逆の組合せも大好き!

オリジナルとカバーでは、曲への感情のこめ方が全く違うと思う。

オリジナル曲は、作詞者・作曲者・歌手、それぞれの意図と感情が曲を構成している。一般リスナーは、その「感情も込み」で完成した状態で聞くことができるのがオリジナル曲の良さだ。

一方、カバー曲は、カバー歌手のその曲への解釈・愛情・敬意がこれでもかというほど込められている。
言ってみれば、歌い手から曲への公開ラブレターのようなもの。「オリジナル曲がこんなに好きなんです!」という歌い手の表現を味わえるのがカバー曲の楽しみ方のひとつだと思う。


私見だが、オリジナル曲とカバー曲は『別物』だと思っている。人間で例えるならば「双子」。見た目は似ても別人格。それぞれ別の個性を持っている。

あ、言い忘れましたが、私はオリジナル絶対原理主義でも、カバー礼賛派でもなく、どちらも素敵だと思ってます。もちろん両方好きです。

2022年5月27日イマイアキノブ・武藤昭平@高田馬場BLAH BLAH BLAH

へ行ってきた。

私にとっては初のイマイさん。チバユウスケさんと組んでミッドナイト・バンクローバーズというユニットで動いているのだけれど、チケットがなかなか取れない。いつか生で見たい人達の内の1組だ。

今回、武藤昭平withウエノコウジのライブのようにずっと2人でやるのかと思って行ってみたら、イマイさんと武藤さん、それぞれのソロライブだった。
予想外の武藤さんソロ。

いつもウエノさんと2人で演奏している姿か、「勝手にしやがれ」のバンド編成しか見たことが無い私には新鮮そのもの。武藤さんの歌とギターを楽しめるまたとない機会がやってきた。


先攻イマイさん、後攻武藤さん。

後攻の武藤さんパート。
まず、ソロアルバムや、勝手にしやがれの中から数曲が披露された。そしてMCが入る。

「今日はイマイさんとですが、普段はウエノ君と2人でやる機会が多くてですね。2人だと打合せ通りしかできないんですけど、1人でやると良い所は、思い立ったらやる曲をすぐ変えられる所なんですよ」
「今回、何やろうかと色々考えていたんですけど。昨日の夜に思い立って、今日、朝練でギターをさらってきた曲があってですね」

話しながらもなにか決断をしかねている様子の武藤さん。「あ~どうしようかな」なんて独り言をつぶやき、ギターを抱える手をパタパタとせわしなく動かしている。

「この曲は久しぶりなんです。たまにリクエストも入るんですけど、先に言うと、難しいの!俺がギターを弾いている訳じゃないからやるのが難しい!」

俺がギターを弾いていない?どういうこと?

武藤さんの前置きが長いなんて珍しい。しかもニコニコというよりは、何かを紛らわそうとしているのか少し苦笑い気味。一体どうしたんだろう……。
もしかして緊張している?

「う~ん。やってみるんだけど、間違ったら!」

突然、ギターを抱えていた両手を左右の耳元にあて、指を揃えてピンと伸ばし、ウサギの真似をする武藤さん。
手の平を観客の側に向け、ウサギの耳に似せた手を添えたまま、ペコリと小さく頭を下げた。

「ね?!間違ったら、ね?」

とウサギの真似をしたまま、もう一度ペコリ。

うわー!びっくりしたー!
先に言い訳をする姿なんて初めて見た!え?何?何やるの?
こんなに前置きをするなんて、どんな挑戦曲なんだろう!?

「じゃ、しばらくやってなかった曲、やってみますか」
「『ワインレッドの心』です」

うわぁぁぁぁぁぁ────!!!
きゃぁぁぁぁぁぁ────!!!

うなるような歓声と、大きな拍手が客席から起こる!
今、観客の思いは全員一致だ。

『ワインレッドの心』をやるなんて!

客席からの大きな反応に、武藤さんも肩の力が抜けたのか、やっと普通の笑顔を見せてくれる。

「ワインレッドの心」は皆さまご存知の通り、「安全地帯」の大ヒット曲。
2010年に発売された武藤さんのソロアルバムにも収録されているが、そのアルバムの中でも傑出した1曲だと思う。
作品リリース時のプロデュースと、曲中のフラメンコギター演奏は沖仁さん(フラメンコギタリスト)、武藤さんはボーカリストとして参加している。

武藤さんを長く見ているファンの方の話によると、この曲はウエノさんと2人でやる「武藤昭平whithウエノコウジ」のライブでは披露されたことがないらしい。おまけに、武藤さんのソロライブでもあまり披露された事がなく、いわゆる「レア曲」。
音楽配信サービスにさえ入っていないのだ。

当然、私もこの曲を歌う武藤さんはYouTubeで公開されているミュージックビデオでしか見たことが無い。


『ワインレッドの心』を自分のギター1本で、沖仁さんの演奏を再現しながら歌う武藤さん。

ギターを弾く気迫もすさまじいのだが、何より歌が!歌声がもう…… 哀愁が…… たまらない!
先に歌った数曲は「出し惜しみ」をしたのではないかと勘ぐってしまうほどの、あふれる感情。歌声からこぼれる味わい、風情。そして色気!!

そして曲の後半、サビを重ねるにつれ一層出る声。出過ぎの声量、伸びすぎの高音。

これが武藤さんの本気か……!

声にも「隠微いんびな色気」というものがあるのか。これがそうか!私、それなりの年月を生きてきて、初めて知った感覚なんですけど……。
武藤さんの歌声に今、教えられてしまった。

全く……武藤さん、なんという感情を教えてくれるんですか。こんなの、もう知らなかった頃には戻れないですよ。どうしてくれるんですか。
いつものにこやかな笑顔に油断していた私が世間知らずだった。

武藤さん、絶対に今まで本気を出してなかった。爪を隠していたんだ!
けしからん、とんでもない方だ!


歌い終わると、会場は万雷の拍手!観客は頭上で大きく手を叩き続け、いつまでも拍手が止まない。

うぉぁぁぁ──!
きゃぁぁぁ──!
ムトーさぁ──ん!

あちこちから次々とあがる歓声!
間違いなく、本日一番の盛り上がり!

観客全員が興奮気味。誰かが、ピィーッ!ピッ!ピィーッ!ピッ!と何度も指笛を吹き、一層場内を盛り上げている。

チラリと後ろを振り返ると、後方でライブを見守っていたイマイさんも大きく手を叩き、笑顔を見せている。

場内のそんな様子を見て、武藤さんも安心したのだろうか。やっと私の見慣れた、にこやかな武藤さんの顔に戻っていた。
そして、再び両手を耳元にあて、ウサギの真似をしながらの、ペコリ。

「いや~緊張したぁ~!なんてったって、歌詞も俺じゃないしさ!この曲、サビが3回とも微妙に違うんですよ!ほんっと微妙なんだけどね。あんまり難しい事しないでよ陽水さん、玉置さん!って思ってさ~。アハハハ!」
「ギターも、フラメンコギター大会で世界1位の人ですからねぇ~。ちょっと弾こうとして真似できるようなもんじゃないんですよ!」
「間違っちゃった!いや、間違えてもいいんだけど、そこで緊張して後が委縮しちゃうのは良くないんですよ。あ~緊張した~!ほんと緊張した~!」

そんなことを言いながらも、弾ける笑顔!
演奏前の、普段は見せないような苦笑いや、長めの前置きは緊張からだったのか。

「これ、たまにやって欲しいと言われるんだけど、しばらくやっていなかったんですよ。だって人の曲だからね、緊張するんだよー!」
「もう!後は寝てても弾ける!アッハッハッ!」

緊張から解放されてよほどスッキリしたのか、珍しく早口で饒舌な武藤さん。両手を大きく広げ、手をブラブラと振りながら、余裕の表情で笑っている。


その後、続けて「勝手にしやがれ」から数曲を披露。
そして武藤さんのパートが終わると、イマイさんが大きく手を叩きながらステージに戻ってきた。

「いや~!武藤君の歌が良すぎてねぇ~!!俺、妊娠したかも。今、ワインレッドの赤子がいる!」

「アッハッハッハ~!!それ!ワインレッドの赤子って!アハハハッ!いいですねぇ~!」

冗談を言いながらお腹をなでるイマイさんを見て、武藤さんも手を叩いて笑っている。


武藤さんはライブ序盤で「イマイさんが先輩だから~」なんて、にこやかな顔でイマイさんを立てていたけれど、終わってみれば、お互いに一切の手加減なし!
互いの歌やギターから気迫が溢れすぎて、それぞれにピリっとした緊張感が走る瞬間さえあった。

2人ともMCは穏やかなのに、演奏を始めるとギターと歌に集中する姿がまるで「もののふ」。武士の緊迫した真剣勝負、ギターを手にした剣豪同士の一騎討ちだった。
「つばぜり合い」あるいは「伯仲」などという表現が似合うような、本気度100億%の勝負。
まさに深淵に潜む竜と雌伏する虎!
1度起こしてしまえば、ライブハウスの中で咆哮し駆け回る姿は、私たち観客の手が届くような存在ではない。

私が江戸時代の人間で、もし日記をつけていたら、きっとこう記しただろう。

高田馬場に決闘あり。
竜虎相搏あいうつ。名勝負也。


5月27日イマイアキノブ・武藤昭平@高田馬場BLAH BLAH BLAH
武藤さんセットリスト

1、ピノキオの鼻 (武藤昭平ソロ)
2、Englishman In New York (Sting)
3、罠のような午後 (勝手にしやがれ)
4、エカクシャナ (勝手にしやがれ)
5、ワインレッドの心 (安全地帯、武藤昭平ソロ)
6、不明
※ワインレッドの心を聞いた衝撃で記憶無し
7、フィラメント (勝手にしやがれ)
8、ザ・ムーンレイカー (勝手にしやがれ)

アンコール1:イマイ・武藤
・君といつまでも (加山雄三)

アンコール2:イマイ・武藤
・Stand by Me (Ben E.King)

※武藤昭平「ワインレッドの心」2009年12月リリース
今の武藤さんとは声も雰囲気もやや異なりますが、当時40歳くらいにして既にこの渋さ!そして、少しやさぐれて哀愁あるたたずまい。武藤さんの味わい深い世界をお楽しみください。




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