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追っかけみっちゃん【再掲】

初めて武藤昭平withウエノコウジのライブへ行った2022年3月のこと。ライブ前に、行きつけの美容室でヘアカットをお願いしていた。
もう7~8年はお世話になっている店で、担当の美容師さんとはプライベートで食事をしたり、一緒にイベントへ行く仲。もはや家族、あるいは姉妹。

この美容師さんがまた、絵に描いたようにサッパリした感じの年上美人だ。ショートカットが似合う小顔、接客業向きの明るい笑顔、スリムですらりとした手足。女優の吉瀬美智子(敬称略)風。話すと案外低く落ち着いた声まで似ている。
地上に降りた吉瀬美智子。吉瀬美智子ジェネリック。

今日は分かりやすいように、吉瀬美智子似のこの美容師さんのことは「みっちゃん」とお呼びしようと思う。

みっちゃんが私の髪をカットしながら鏡越しにたずねる。

「徳ちゃん、これからどこか行くの?」

普段の私とは違う夜っぽい服装、スマホとクレジットカード、リップを入れるといっぱいになるような小さなバック、そして花束を抱えてお店に来た私を見て、これは何かあるなと思ったようだ。

今夜のライブは私が普段よく行くミュージシャンとは系統も会場も違うため、なんだか急に恥ずかしくなってしまい、小さな声でそっと伝えてみる。

「ライブなの。武藤昭平とウエノコウジっていう2人組のライブ。これから南青山のレッドシューズ初めて行くの。」

「ウエノコウジってミッシェルのウエノ?え⁉ウエノ好きなの?」

みっちゃんが驚いた声をあげる。

「私、昔ミッシェルのチバが好きでライブ行ってたんだよね~!ちょっと追ってたの!懐かしいなぁ~。」
「まさか徳ちゃんがミッシェルに手を出す日が来るなんて!知らなかった~!いつからハマってたの?」

え…初耳…。みっちゃん、ミッシェルの追っかけだったの?

私達はどちらも音楽が大好き。会うと必ず、最近行ったライブの感想を話すような仲だ。しかし、みっちゃんがミッシェルを追っかけた過去があるなんて初耳で驚いてしまう。
やはり人は知らず知らずのうちに、感性の似た者同士が近寄るようにできているのだろうか。縁とは不思議なものだ。

「ミッシェルを追っていた」という言葉のパワーに驚き、改めて色々聞いてみると、みっちゃんは1999年、開催第1回目だったライジングサンロックフェスティバルへ、ミッシェルガンエレファント目的で関東から北海道まで遠征したという。
あの頃はまだ10代の学生だったというみっちゃん。当時、まだ珍しかった「オールナイト野外イベント」であるライジングサンのために、北海道の石狩まで10代で行くなんてすごいキャリアだ。
歴戦の猛者、戦場を生き抜いて来た者、「面構えが違う」というやつだ。


YouTubeに1999年のライジングサンでのミッシェルのステージがアップされているのでぜひ見て欲しい。セットリストがどぎつい。
メンバー全員キレッキレ、気合いとチバさんの唾が画面から飛び出してきそうな映像だ。

キュウちゃんのドラムが気合い入りまくりで怖い。ウエノさんは威圧感ある演奏姿がはっきり映っている。そして、チバさんとアベさんのちょっとイッている顔と演奏が恰好良すぎて怖い。特にアベさんがキレッキレ。
夜のステージのため分かりにくいが、全員汗だく。圧倒的な気合いと石狩の熱い夏の夜。

女性への媚びは全くなく、男性の格好良さが全て詰まったステージ。その男らしい輝きに恐れすら感じられる格好良さ。
私はこの映像を初めてを見た時、その近寄りがたい輝きに恐れを感じながらも、映像にくぎ付けになったのが忘れられない。

私にはこの4人の何もかもが恐ろしい。全員カミソリみたいな存在感。会場で気を抜いて見たら切られたのではないのかとすら思う。
これを10代にして現地で見たというみっちゃんの見る目の確かさに脱帽だ。尊敬してしまう。もう、私の姉的ポジションの美容師じゃない。バンギャの先輩、先達。
今、この瞬間、みっちゃんを見る目が変わってしまった。お願いだから弟子入りさせて欲しい。

当時の現地の様子はどうだったのか、覚えている限り教えて欲しいと懇願すると

「いやそれがね、ミッシェル目的で行ったのにあんまり記憶が無いの。その後、ブランキー(ジェットシティ)を見た記憶はうっすらあるんだけど、もう20年以上前のことだから。」
「オールナイトフェスなんて初めてだったから夜中の記憶があいまいなんだよね。最後、サニーデイ・サービスか誰かを聞きながら見た朝焼けが綺麗だったのは覚えているんだけど。行ったわりに語れることがなくてゴメンね~。」

ライブから20年以上も経つと、夢中になったロッカーのステージのことさえも記憶が薄れるらしい。
私も将来そうなるのだろうか。できることなら、好きなミュージシャンへの純粋な気持ちだけは忘れずにいたいけれど、覚えていられるだろうか。
人間は老いも若きも「忘れるという機能」を持っている。時を経て忘れてしまうことも人間の発達のなせる技だから、私もきっと色々忘れてしまうだろうな。その時は、このnoteを読み返そう。

私がフォローしている方で、ミッシェルやエレファントカシマシといったバンドマン達を、唯一無二の個性と解釈で最高にクールな絵にする方がいるのだが、その方が「老後の自分が見るために絵を描く」と仰っていた。
その気持ちが今とても共感できる。私も、記憶を失う将来の私のために、感じたことを残しておきたい。

「レッドシューズは大人の店よ~!お洒落して行かなきゃ負けちゃうよ。徳ちゃんの今日の服、正解!大・正・解!!」
「ウエノファンなら、私と同世代かちょっと上の人が多いと思うんだよね。徳ちゃんと同世代の観客いるのかなぁ?」
「店の雰囲気に気後れしないように髪をセットしない?可愛くするからさ!いや~こういう話を聞くと気合い入るなぁ!『腕が鳴る』ってこれよね~。」

レッドシューズデビューで、しかも初めてウエノコウジを見に行くのならば!と、本来カットだけのところをヘアセットまでしてくれた。みっちゃんの心意気が嬉しい。

しかし、バンギャの先達としての言葉がプレッシャーとして重くのしかかり、憂鬱さから無駄に緊張してしまう。私の勝手な想像では、今夜の舞台であるレッドシューズは悪っぽく怖い店、観客はウエノさんと長年共に歩む歴戦の猛者ばかり…。ということになった。
私は今夜、どんな天下一武道会(ドラゴンボール)へ参加するのだろうか。いや、暗黒武術会(幽遊白書)へのチケットを持っていると言った方が正解か。暗黒武術会の会場、首縊島くびくくりとうが南青山にあるとは知らなかった。案外ご近所だなおい。

そんな私の憂鬱などつゆしらず、我が先達、みっちゃんは嬉しそうにして髪を編み上げ、手早くアップスタイルを作っていく。

私と美智子さんの会話を聞いていたアシスタントさんが「なんかすごい所へ行くんですね!仕上げにこれ!良かったら使ってください」と、生花がついた飾りピンを持ってきてくれた。
春の花、ミモザだ。小さく丸い黄色の花が沢山集まり、稲穂のように揺れている可憐な手作りピン。お店に飾っていたミモザのブーケから少し摘まみ、ヘアピンに絡ませて即席で作ってくれたらしい。
小さくコロコロとした黄色い花が可愛い。ヘアピンに生花がついただけでこんなに可愛くなるのか。

私の想像を遥かに越えたサプライズ。ヘアセットをしてくれたり、数時間で枯れてしまう生花で飾りピンを作ってくれたり、みっちゃんやアシスタントさんからのお気持ちがとても嬉しい。レッドシューズでのライブという天下一武道会、いや、暗黒武術会へ向かう私へのはなむけということか。
果たして今夜、私は暗黒武術会を勝ち残り、生きて帰ることはできるのだろうか。

ちょっとしたパーティーというやつにでも行くことができそうな、作り込みすぎないアップスタイル。仕上げに黄色いミモザの髪飾り。みっちゃんとアシスタントさんの共作だ

「アウン・サン・スーチーさんみたい!いいよ~。」
「似合ってますよ~胸張って行ってきてください!」
「頑張って!ライブ報告楽しみしてる!」

帰りは、スタッフ総出で首縊島くびくくりとう、もとい南青山へ行く私を手を振って見送ってくれた。まるでドラマのワンシーン、永の別れみたいだ。ドラマだったら、私達はもう会えなくなるストーリー展開。
私、ライブという名の暗黒武術会で死ぬのかな。

ライブの様子は既にnoteに掲載した通り。
(※現在は削除済み)


みっちゃんには、このアカウントがばれると恥ずかしいので、ライブレポの内容を要約し別途LINEを送っておいた。

『ウエノってば、ほんと人たらし!すごいね!今、そんな感じのおじさんになったんだね~。もう20年近く生で見ていないから、最近の様子を初めて知ったよ。』
『徳ちゃんとウエノのトークに爆笑!面白すぎて、旦那にも読ませたら大笑いしてた。ウエノからあふれる色気にこっちも興奮!今夜は眠れそうにないよ。髪綺麗にしておいて良かった~お役に立てて何より♡』
『店休日とウエノのライブが重なりそうな日があれば誘ってね!一緒に行こう!』

私の書いたものが、美智子さんの家に楽しいひと時を提供したようだ。旦那さん共々、笑ってくれて良かった良かった。ヘアセットのお礼として十分にお返しできただろうか。

みっちゃん愛してる。大好きだよ。
私の人生の一夜を楽しく盛り上げてくれてありがとう!
最近なかなか一緒にイベントへ行けないけど、今度ウエノさんに会いに行こうね。みっちゃんにも、人たらしウエノさんの生の色気に興奮してもらいたいな。

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