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第18回 高齢者への対応 CGAプロブレムリスト

総合内科流 一歩上を行くための内科病棟診療の極意
著:森川暢(市立奈良病院)
第18回 高齢者への対応 CGAプロブレムリスト

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超高齢社会では、急性期病院でも、高齢者を包括的に評価し介入することが重要になります。今回は、高齢者への包括的介入であるCGAについて勉強していきたいと思います。

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症例(病棟の極意・実践前)

82歳男性、糖尿病が既往歴にある。今回、心房細動による心不全で入院した。心不全は利尿薬で改善したため退院とした。しかし、退院後に自宅で転倒し、慢性硬膜下血腫を認め、再度入院となった。

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【極意】

① CGAとは?

そもそもCGAとは何でしょうか?

CGAは高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment)のことです。高齢患者を包括的に評価する老年医学の手法であり、高齢者の死亡率低下や機能改善に寄与するとされています[1]。

老年医学の世界では非常に重要な手法で、実際に、CGAを集中的に病棟で行ったところ、患者の死亡率を低下させたというエビデンスもあります[2]。

CGAで評価する項目は表1の通りで、多岐に渡ります。

表1 CGAの項目

・機能的能力
・転倒リスク
・認知機能
・気分
・薬剤
・栄養/体重の変化
・尿失禁
・性機能
・視覚/聴覚
・歯
・生活状況
・社会的支援
・経済的問題
・ケアの目標
・アドバンスケアプランニング
・スピリチュアルケア
(文献[3]より作成)

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② CGAプロブレムリストについて

では、どのようにCGAを病棟で行えば良いでしょうか? 表1の項目をすべて、その都度考えるのは大変です。

そこで、筆者は、第16回でご紹介した「BPSプロブレムリスト」を応用した「CGAプロブレムリスト」を用いています[4]。

特に、多種多様なプロブレムがある高齢者が入院したときには、CGAプロブレムリストの出番になります(表2)。

表2 CGAプロブレムリスト

(文献[5]より作成)

「BPSプロブレムリスト」は、「B(生物)」「P(心理、精神)」「S(社会)」の3項目で成り立っていました(第16回の連載を参照)。

つまり「CGAプロブレムリスト」は、「BPSプロブレムリスト」に「倫理的問題(Ethical)」、「機能的問題(Functional)」、「薬剤に関する問題(Drug)」を加えたものです。

筆者はこのCGAプロブレムリストを、高齢者を病棟で診療するときの基本としているだけでなく、外来や訪問診療で高齢者を定期フォローする場合にも使用しています。

「BPSプロブレムリスト」に慣れ、ある程度使いこなせるようになったら、「CGAプロブレムリスト」に挑戦してみてください。

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③ CGAフレームワークとICFの関係

前回(第17回)の『一歩進んだリハビリオーダー』でご紹介した「ICF」とCGAプロブレムリストとの関係についても考えていきます。

CGAプロブレムリストは、BPSプロブレムリストやICFの応用系と考えるのがわかりやすいと思います。

個人的には以下のように使い分けています。

ICFは、BPSプロブレムリストに「Functional」な問題を加えたイメージですが、さらにそこに「倫理的問題」や「薬剤にまつわる問題」を加えたのがCGAプロブレムリストです。「倫理的問題」には、緩和ケアで重要となるアドバンスケアプランニングや予後予測なども含まれます。

それでは、最初に提示した症例をCGAプロブレムリストに準じて考えるとどうなるか、見ていきましょう。

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④ CGAプロブレムリストの実際

1)Ethical(倫理的問題)

高齢者では、DNARをどうするかが日常的に確認されています。DNARは本人への確認が原則であり、家族はあくまで本人の代理意思決定者であるというのが基本的なスタンスです。

アドバンスケアプラニングも重要ですが、決定した内容よりも、なぜその決定を行うかというプロセスのほうが重要になるため、その思いも書いておくと意思決定支援がスムーズに行えます。

QOLや予後予測、病状説明の有無などもここにメモしておくと良いでしょう。筆者はEthicalな問題を、プロブレムリストの先頭に記載します。

<プロブレムリストの例>

2)Biomedical(生物学的な問題)

従来の生物学的な問題は、このフレームで扱います。高齢者では、急性疾患だけではなく、慢性心不全のように徐々に進行する疾患についても意識する必要があります。

実際に最近、佐藤健太先生が「慢性臓器障害」という概念を提唱されています[6]。具体的には、慢性心不全、COPD、CKD、肝硬変(慢性肝不全)に関して、特に高齢者では意識して精査することが必要になります。なお「#」を使った記載方法ですが、下の例のように、原因となる疾患を左に、その結果起こっている合併症は右にずらして書くことで、整理すると良いと思います。

<例>

3)Psychological(精神的な問題)

認知症と抑鬱は、高齢者では特に重要です。

特に食欲不振がある場合は、抑鬱が背景にあることもしばしば経験されるため、PHQ-9などを用いて積極的に抑鬱のスクリーニングを行う必要もあります。

認知症がある場合や入院前からすでに興奮している場合、せん妄の既往歴がある場合などは、せん妄のリスクが高いため、せん妄リスクをプロブレムリストに挙げる必要があります。せん妄のリスクを把握し、適切に予防に努める必要があります。

また、退院後に自宅生活が可能かを判断するためには、認知機能の判断も重要になります。入院をきっかけに認知症が指摘されることもあります。長谷川式やMMSEで客観的に認知機能評価を行うことが重要です。

認知機能低下が明らかであれば、介護サービスの導入や施設入所も検討する必要があります。なお、アルツハイマー型認知症ではFASTというステージング分類が知られています(表3)[7]。FASTは概ね、ADLによって重症度が決定されます。認知症が原因で寝たきりとなっているのであれば「FAST 7d」と最重症に分類され、予後は半年程度とされています。

表3 認知症 FAST 分類

(文献[8]より作成)

<例>

4)Social(社会的な問題)

高齢者を診療する際には、社会的な情報も重要になります。

具体的には、介護申請、サービス使用状況、経済状況、家族構成/家族の介護力、生活保護、教育歴/職業歴などを把握します。

例えば、認知症で独居にもかかわらず、介護保険未申請、家族や身寄りはいないなどの状況の方が、急性期病院に入院することもあります。その場合はソーシャルワーカーにすぐに介入を依頼することが重要になります。

ケアマネージャーがいる場合は、情報を聴取し共有することも重要です。COVID-19が流行することでケアマネージャーが病院に来ることも難しくなりましたが、ソーシャルワーカーにケアマネージャーへ連絡するように依頼するだけでも、スムーズに物事が進むことがあります。

また、看護記録にこれらの詳細が書かれていることもあります。特に、入院時の看護情報は詳細に見るようにすると良いでしょう。これらの情報をプロブレムリストに記載するだけでも社会的問題が明らかになり、何をすべきかが明らかになることもあります。なお、貧困なども重要な社会的問題です。

<例>

5)Functional(機能的な問題)

高齢者の機能的な問題をここで網羅します。

リハビリのICFで扱った、機能的なプロブレムリストを扱います。ADLやI-ADLは、第17回で伝えたように、それぞれ「DEATH」と「SHAFT」で評価することが理想ですが、まずはADLに関しては、トイレ排泄と入浴を中心に記載します。I-ADLに関しても、食事準備と買い物が、最も生活の根幹に関わるので、まずはそれらを丁寧に記載します。

さらに、高齢者特有の機能的問題も意識してチェックするようにします。具体的には、視力や聴力の問題、易転倒性、フレイル、サルコペニア、栄養状態、歯科的な問題になります。

必要に応じてリハビリセラピスト、管理栄養士、看護師と連携し、身体機能の維持・改善を目指す必要があります。例えば、視力低下があれば、白内障を念頭に眼科コンサルトを考えます。また聴力低下があれば、補聴器で聴力が改善するかもしれません。これらの介入で、認知機能の改善も期待できます。

高齢者では、緩徐な下肢筋力低下を認めることも多く、「低栄養による筋力低下=サルコペニア」が原因かもしれません。さらに変形性関節症による痛みがADL低下の原因かもしれません。これらの状態では、栄養改善、変形性膝関節症への鎮痛・治療、リハビリを行うことで、下肢筋力低下が改善し、転倒を防ぐことで、大腿骨頸部骨折を予防できるかもしれません。また、圧迫骨折などがあり骨粗鬆症もあるならば、ビスホスホネートを導入し、骨粗鬆症の治療を行うことも検討しても良いかもしれません。誤嚥性肺炎のリスクがある場合は、STによる嚥下評価、嚥下訓練および歯科介入が有効です。

内科研修ではここまでの機能的問題を網羅していないことが多いですが、高齢患者の場合は、意識してチェックすることが重要です。

<例>

6)Drug 薬剤に関する問題

まずは、現在内服している薬をすべて確認します。筆者は、現在内服している薬は黒文字で、入院中は中止している薬は銀文字で、電子カルテ上、文字の色を使い分けて整理しています。そして、薬をすべて把握したうえで、薬剤有害事象やポリファーマシーが起きていないかを検証していきます。

ポリファーマシーは一般的に「5剤以上の薬剤を内服している状態」とされており、薬剤に関連した有害事象や転倒のリスクとされています[9]。さらにポリファーシーを惹起する要素として、臨床的には「ポリドクター」というべき、患者さんが複数の診療科に通院している状態が挙げられます。

日本のデータは乏しいですが、「ポリドクター」は明らかにポリファーマシーのリスクであり、同じ薬が別の診療科や病院から処方されていることも経験しました。よって、異なる医療機関から処方が出されている場合は、医療機関ごとに処方を列挙することが重要です。

また、薬剤の有害事象による症状に対して、別の薬が処方されるという負のカスケードに陥っていることもあります。高齢者の非特異的な倦怠感などでは、まず薬剤の有害事象を疑うことが重要です。

日本老年医学会から『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』が発行されていますが、そこでも高齢者にとってリスクがある薬剤がリスト化されています。インターネットでも閲覧可能であり、ぜひ目を通すと良いでしょう[10]。高齢者にとってリスクとなる代表的な薬は、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン、睡眠薬、スルピリド、抗コリン薬、ジギタリス、利尿薬、酸化マグネシウム、抗ヒスタミン薬、制吐薬、NSAIDs、糖尿病治療薬が挙げられます。特に高齢者では、ベンゾジアゼピンや睡眠薬などは有害事象を起こしやすいので、常にチェックをすると良いでしょう。

高齢者では認知機能低下により、薬剤のコンプライアンスが低下することが非常に多いです。薬剤師と連携し、内服状況を確認し、場合によっては1日1回投与にする、薬剤カレンダーを使用するなどの対応が必要です。

<例>

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⑤ CGAプロブレムリストからどのようにするか

以上、最初に提示した症例をCGAプロブレムリストで整理しました。状況を整理すると非常に複雑な症例であったことが理解できると思います。

実際は、このような複雑な症例では、看護師などのコメディカルがその複雑性に気づき、ソーシャルワーカーに相談することがほとんどです。ただし、医師もそのような複雑性に気づき多職種で連携すること、また必要に応じて専門医のアドバイスを受けることが極めて重要になります。

高齢者をきちんと診療するためには、本来、これらCGAの内容を網羅する必要があることだけでも、まずは覚えていただければと思います。

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⑥ 主治医意見書について

最後に、主治医意見書について考えてみます。病棟でも書く機会がある書類です。主治医意見書を記載する際に障害高齢者の日常生活自立度を記載しますが、日常生活自立度はADLを評価しています。ランクBとランクCの境界線が、まさにトイレに行けるか行けないかという瀬戸際であり、ランクCでは何らかのサービスや介助がないと在宅生活は難しいとされています。

最近、日常生活自立度(寝たきり度・認知度)が客観的なADL指標(Barthel Index)と相関があるという論文が佐賀大学から発表されました[11]。

主治医意見書では、認知機能や社会的な問題についても記載する必要があります。したがって、主治医意見書を丁寧に書くことで、自然とCGAを実施可能であると考えると、モチベーションも上がると思います。

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■ 極意 ■

●CGAプロブレムリストで網羅的に評価しよう
●多職種連携が高齢者医療では極めて重要である

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症例(病棟の極意・実践後)

82歳の男性で、糖尿病が既往歴にある。今回、心房細動による心不全で入院した。心不全は利尿薬で改善した。しかし、CGAプロブレムリストで評価したところ、非常に複雑な症例であることがわかった。まずは薬剤の有害事象として、腎不全に対してNSAIDs、ガスターが処方されていたので中止した。レボセチリジン、ゾルピデム、デパスは転倒のリスクであり、離脱を起こさないように慎重に漸減し中止した。ジギタリスも腎不全があるため中止した。心不全がありACE阻害薬とβ阻害薬を導入した。エドキサバンは腎不全があるため、腎機能に応じて減量した。酸化マグネシウムも腎不全があるため、PEG製剤に変更した。SU製剤は腎不全があり低血糖のリスクがあるため、肝代謝型のDPPⅣ製剤に変更した。認知機能を精査したところ認知症が明らかになった。せん妄のリスクが高く、眠剤はトラゾドンを使用した。認知機能から独居はかなり難しいと考えられ、介護保険の申請が必須と思われた。社会的な問題もあり、ソーシャルワーカーからケアマネージャーに連絡した。その結果、成年後見人の申請と生活保護の申請を開始する方針とした。機能的にも低栄養に伴うサルコペニア、ADL低下と転倒リスクが著名であり、栄養科と相談して高タンパク質の食事を提供しつつ、理学療法と作業療法を導入した。歯科衛生も不良であり、後日歯科受診する方針とした。眼科を受診したところ糖尿病性網膜症と白内障を認めた。後日、まずは白内障の治療を行う方針とした。難聴があり耳鼻科を受診したところ、補聴器を使用する方針となった。すぐに自宅に帰ることは現実的ではなく、上記の社会的調整とリハビリを行うために地域包括ケア病棟に転院とした。本人は可能な限り自宅での生活を希望されたため、社会的調整を行った後に訪問診療も導入し、自宅に帰る方針となった。

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【参考文献】

  1. Stuck AE,et al. Comprehensive geriatric assessment: a meta-analysis of controlled trials. Lancet. 1993; 342(8878):1032-6.

  2. Rubenstein LA, et al. Impacts of geriatric evaluation and management programs on defined outcomes: overview of the evidence. J Am Geriatr Soc.1991; 39(9 Pt 2): 8S-16S; discussion 17S-18S.

  3. Ward KT,ReubenDB.Comprehensive geriatric assessment.Up To Date

  4. 佐藤健太,他(監).病院家庭医新たなSpeciality.南山堂. 2020.

  5. 佐藤健太,他(監).病院家庭医新たなSpeciality.南山堂. 2020.

  6. 佐藤健太.慢性臓器障害の診方、考え方.中外医学社.2021.

  7. Sclan SG, et al. Functional assessment staging (FAST) in Alzheimer’s disease: reliability, validity, and ordinality. Int Psychogeriatr. 1992; 4 Suppl 1 :55-69.

  8. Sclan SG, et al. Functional assessment staging (FAST) in Alzheimer’s disease: reliability, validity, and ordinality. Int Psychogeriatr. 1992; 4 Suppl 1 :55-69.

  9. 日本老年医学会(編著).高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015.メジカルビュー.2015.

  10. 日本老年医学会(編著).高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015.メジカルビュー.2015.

  11. Tago M, et al. High inter-rater reliability of Japanese bedriddenness ranks and cognitive function scores: a hospital-based prospective observational study. BMC Geriatrics.2021 21; 168.

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■著者略歴

森川暢(市立奈良病院)

2010年  兵庫医科大学卒業
2010年~ 住友病院にて初期研修
2012年~ 洛和会丸太町病院救急・総合診療科にて後期研修
2015年~ 東京城東病院総合診療科(当時・総合内科)、2016年からチーフを務める
2019年~ 市立奈良病院総合診療科

■専門
総合内科、誤嚥性肺炎、栄養学、高齢者医療、リハビリテーション、臨床推論

■著書
『総合内科 ただいま診断中!-フレーム法で、もうコワくない-』(中外医学社)
監修:徳田安春/著:森川暢

■現在連載中
『J-COSMO』(中外医学社)総合内科まだまだ診断中!フレームワークで病歴聴取を極める


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