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編集後記『Less is More 考える集中治療』

医学領域専門書出版社の金芳堂です。

このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。

どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。

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■書誌情報

『Less is More 考える集中治療』
著:太田啓介(静岡県立総合病院集中治療センター集中治療科/急変対応科)
A5判・152頁 | 定価:3,190円(本体2,900円+税)
ISBN:978-4-7653-1889-1
取次店搬入日:2021年12月08日(水)

「Less is More」で見えてくる「シンプルな集中治療戦略」

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■編集後記

こんにちは。ワークマンのHeyaルームブーツで足冷え知らずの編集部のFです。

本書では「Less is More」という視点をもってICUにおける医療行為を見直すことで「重症患者だから、あれもこれも」ではなく「ICUだからといって肩ひじ張らず、必要な介入を行えばよい」というメッセージを、特に非専門医や研修医の先生方に感じてもらえるように書かれています。

すなわち「Less is Moreな管理」こそ「世界標準のシンプルかつスタンダードな管理」でもあり、本書を読むことが集中治療における医療的介入の根本的な見直しを行う機会となって「集中治療の真のエッセンス」について、まっさらな目で理解を深めることができるようになっています。

はたして自分自身の日常生活を振り返ってみても、惰性や思い込みで「〜しなければならない」と動いてしまっていることが多いことに気づかされます。世間的・社会的にも慣習や同調圧力などで「AだがらBをする、しなければならない」という無批判な行為が横行していることが多いように思います。

それらが必ずしも「すべて無駄」とは言い切れませんが、少なくとも「本当に必要な行為なのか?」と主体的に考える頭を持って、どこかのタイミングで根本的に検証してみる必要はあると思います。そうすることで「実は必要がなかった」それどころか「足を引っ張る要因になっていた」「本当にすべきことは**だった」なんてことに気づくことができるかもしれません。

でも、忙しく日々を過ごしていると、そんなことを振り返って検証する時間もない、だから「いつもどおり」に流れてしまいがちですが、本書では、この点で「集中治療」をテーマとして、そうした惰性に流れがちな日常において考え直すための手助けをしてくれます。しかも簡潔に要点をまとめているので読みやすくエビデンスも豊富で、全体に適度な分量なので通読しやすい作りにもなっています。

「〜しなければならない」「あれもやらねば、これもやらねば」という暗示から開放してくれる思考法として「エッセンシャル思考やエフォートレス思考、上流思考」など、西欧流の合理的な思考法がビジネス書でも取り上げられていますが、こうした思考法の源流に「Less is More」があるように思います。

ぜひ本書を通して「Less is More」による「シンプルな集中治療戦略」を感じ取って見てください。そして本当にやるべきことを見極める目を養ってください。

Let's “考える集中治療”!

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■序文

――すべてのものは毒であり、毒でないものはない

パラケルスス(スイス人医師、1493~1541)

我々医療者の行為には、侵襲的なものや、効果効能が疑問視されているものも存在します。そして、それらはもれなくコストやマンパワーも必要とします。時にその有害性が命を脅かすことも稀ではありません。こと集中治療においては「重症だから」という理由だけで、詳細な病態や適応の評価もそこそこに、安易な薬剤投与や連日の検査などの医療的介入が行われることをよく目にします。しかし過度な医療行為は、パラケルススの言った通り「毒であり」、過ぎたるは及ばざるが如しであるということを肝に銘じなければなりません。すなわち、“less is more”な管理を行うことの価値を知る必要があります。そこで本書は、海外の集中治療系“Choosing Wisely”とヨーロッパの集中治療医学会雑誌『Intensive Care Medicine』の特集である“less is more”シリーズの内容を紹介しつつ、最近の知見を踏まえて、世界標準のシンプルかつスタンダードな管理を提唱することを目的として企画しました。

と、偉そうに書いていますが、正直に言うと、集中治療専門医として第一線で活躍されている先生方にはほぼ常識といえる内容です。ただ日本では集中治療専門医の数はまだまだ少なく、非専門医の先生が探り探りの集中治療を行っていることも多いと思います。研修医の先生においては、重症管理に精通して手取り足取り教えてくれる指導医がいないかもしれません。そんな先生方に向けて、本書から「ICUだからといって肩ひじ張らず、必要な介入をシンプルに行えばよい」というメッセージを感じてもらえればと思います。もちろん第一線の集中治療専門医の先生方にとっても、日頃のプラクティスを見直す機会となれば幸いです。また筆者自身もまだまだ勉強中の身でありますゆえ、本書を叩き台として忌憚なきご意見・ご指導をいただければと存じます。

“less is more” とは、シンプルなもののほうが、高度なものや複雑なものよりも優れている、という意味合いで使われる表現で、何かをやり過ぎてしまうことへの危惧がこの考え方の背景にあります。このフレーズは“God is in the details.”(神は細部に宿る)というモットーを掲げたことでも知られるドイツ人建築家のルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(1886~1969)が遺した言葉とされています。多くのデザイナーがこの言葉にインスピレーションを受け、シンプルでありながら美しいものをデザインするという一つの表現が生まれたそうです。

医療においても同様で、余計なものが多すぎると本質的なものを見失ってしまう可能性があります。我々医療者も、洗練された患者プランを提案できるデザイナーとなり、真に重要なことに集中することが望まれます。

2021年8月
57年ぶりの東京オリンピックのかたわら、毎年変わらぬ蝉の声を聞きながら
静岡県立総合病院集中治療センター集中治療科/急変対応科
太田啓介

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■目次

はじめに

1章 神経・鎮痛鎮静のless is more

海外のless is more-推奨・根拠
Discussion
深鎮静が必要なケースとは?
鎮静薬の選択
鎮痛なくして鎮静なし
早期離床の重要性
騒音減少で良眠を得る

2章 気道・呼吸のless is more

海外のless is more-推奨・根拠
Discussion
離脱評価は日々SBTで行う
SBTの実際
肺保護戦略―TV制限の重要性
これからの肺保護戦略―メカニカルパワー
PEEPも必要最低限の時代に
もはや常識―酸素投与は必要最低限
気道管理は重要な予防対策

Column 気管切開は早くする? 遅くする?

3章 循環のless is more

海外のless is more-推奨・根拠
Discussion
血圧目標MAP≧65mmHg
昇圧薬を使用するならノルアドレナリンが第一選択
ドパミンを優先使用する場面は存在するか?
補助療法によるカテコラミン温存戦略は期待薄
投与ルートもless is more?
末梢還流評価も動脈ガスはless is moreか

4章 腎・in/outバランスのless is more

海外のless is more-推奨・根拠
Discussion
RRTは必要時まで待つ
造影剤腎症予防は生理食塩水で
過剰輸液が予後不良因子であることはニューノーマル
輸液反応性は実際にチャレンジ
アルブミン製剤もless is more
晶質液は生理食塩水よりリンゲル液を
CRRT処方量も多ければよい、というわけではない

5章 血液のless is more

海外のless is more-推奨・根拠
Discussion
赤血球輸血は必要最低限―もはや常識
血小板輸血や新鮮凍結血漿もless is more
DIC治療=現病治療、他にはない
ECMOの抗凝固管理も見直しの時代?

6章 感染のless is more

海外のless is more-推奨・根拠
Discussion
適応のない侵襲的デバイスは留置しない
不要となればすぐに抜去
抗菌薬の投与期間は適切に・無駄に長期投与しない
抗菌薬のスペクトラムは適切に・無駄に広域にしない
不必要な抗菌薬併用療法は行わない
抗菌薬投与量はless is more、ではない
本当にペニシリンアレルギー?

7章 栄養・予防のless is more

海外のless is more-推奨・根拠
Discussion
栄養は急性期はless is more、回復してきたら十分に
血糖140~180mg/dL目標はもはやICUの常識
ストレス潰瘍予防は適応を評価し、漫然と続けない
DVT予防も適応を評価し、漫然と続けない

8章 その他のless is more

海外のless is more-推奨・根拠
Discussion
「ICUだから……」というだけで毎日の採血/X線や定期的な血液ガス測定は不要
救命だけがすべてではない、治療制限が患者/家族/医療者にとって最善策にもなり得る
TLTは治療方針決定の一助になり得るかもしれない
DNAR=何もしない、ではない

索引
著者プロフィール

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■サンプルページ

https://rbti.org.br/exportar-pdf/0103-507X-rbti-32-01-0011-en.pdf
https://rbti.org.br/exportar-pdf/0103-507X-rbti-32-01-0011-en.pdf
https://www.ualberta.ca/critical-care/media-library/documents/5-things-clinicians-and-patients-should-question.pdf

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■終わりに

今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。

是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。

それでは、次回の更新をお楽しみに!

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