NGOの不祥事とSR(社会的責任)

 先週、NPOの法人格が売却され、詐欺に利用されていたというNEWSが話題になりました。
参考:脱法売買の詳細を初めて裏付け 犯罪グループ悪用も

 今年初めには国際NGOのオクスファムの売春問題もありました。
参考:オックスファム、ハイチでの買春疑惑で調査報告書を公表

 とまぁ、最近は負の話題に事欠かない感のあるNPO/NGO業界ですが、私の中では4月末に発覚した国際協力NGO「JEN」における助成金不正使用の問題が喉に刺さった骨のような存在として残っていました。正直、この問題をどう取り上げるべきか悩ましく思っていたところ、エイズ孤児支援NGO「PLAS」の門田さんがNOTEに書いた「不正を語ろう」という記事をを読んで背中を押され、きちんと取り上げようと思いました。

§事件の概要について

 まずは1次情報であるJENの記事のリンクを紹介します。
→「JEN職員の不適切な事業執行行為について
ここで概要について知ることができますが、このページの中頃に「調査報告書要旨」のリンクがありますので、できる限りそちらもお読みいただいた方が良いかと思います。また、当該資金の助成元であるJPFも「ジェンの助成金目的外使用に関する公表について」と言うコメントを公表していますので、併せてご確認ください。

 ではこの問題について私なりに噛み砕いてみたいと思います(上記HPと報告書から読み取れる範囲+私の経験に基づく推測や見解です)。
 まず、NEWSの見出しでは「助成金の不正使用」という表現がされていますが、今回報告されている問題点は3点あり、「不正使用」はその1つに過ぎません。問題としては一番重いかもしれませんが。
 ちなみにその3点とは以下です(報告書要旨より抜粋)

不適切な事業執行行為の概要
①助成金の一部につき、目的範囲外の使用があったこと
②簿外現金の取扱い
③内部規則違反の調達取引

 ①がいわゆる「助成金の不正使用」に当たる点ですね。もう少し正確に表現すれば「目的範囲外使用」であり、業務上横領のような私的な流用ではなかったようです。報告書要旨には以下のように記載されています。

JEN は、ヨルダンのシリア難民に対する水衛生環境・学習改善事業に関し、特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)より助成金の支給を受けていたところ、ヨルダン事務所の事務所長の独断により、映画館に相当する建築物(建設費用約 920万円相当)がヨルダンのシリア難民キャンプ区内に建設されていることが判明した。かかる建築物の建設目的はシリア難民へのレクリエーションおよびノンフォーマル教育機会の提供であるが、事前に JPF より承認された助成金の支給目的(水衛生施設の整備・修復事業)の範囲外であった。
※情報をなるべく加工したくないので長めですが部分転載とせず、一項目全文を転載しています。

私的流用でなければいいという話では全くありませんが、問題の捉え方は大きく変わってくると思います。誰かが助成金をちょろまかして懐に入れた個人の犯罪ではなく、あくまで助成金事業の運営上の違反行為ということです。

§「目的範囲外使用」の問題点について


 もう少し噛み砕きます。
 今回、報告書によれば「目的範囲外」に建てられた「映画館に相当する建築物」の目的はシリア難民へのレクリエーション及びノンフォーマル教育の機会提供であり、事業名も「ヨルダンのシリア難民に対する水衛生環境・学習改善事業」であることから、事業の目指す方向から逸脱したものではなかったという説明です。つまり、助成金受給そのものの目的と実施事業の目的は事業名のレベルで考えれば合致しているが、映画館は申請書内の事業内容には含まれていなかったので「目的範囲外」であるというわけです。個人的には「目的外」ではなく「目的範囲外」という言い回しにその意図を強く感じます。映画館がノンフォーマル教育に資する建物として適切だったかについてもいささか疑念が残りますが、それ以上は報告書からは読み取れません。申請書の事業内容を目標達成のためとはいえ、無断で変更(しかも大幅に)したことは契約違反ですが、その変更が起きる原因として考えられるのは以下の2つかなと思います。

A.ニーズに沿って申請したが、事業開始時点でニーズが変わっていた。
B.ニーズに沿わず、承認されそうな申請内容を書いて審査を通した。

 A.の場合の問題点は
A-1.ニーズの変化が判明した時点で「変更申請」という手続きがありながらそれを行わなかったという点。(このレベルの大幅な変更が認められる可能性があるか不明ですが)
A-2.変更幅が大きすぎることから、ニーズ調査、事業策定が甘かったのではないかという点。これは前出の門田さんがTwitterでおっしゃっている「現場の課題分析、ニーズに対してそもそも適切な事業立案がされているか」に該当しますね。

ちなみに「変更申請」に関連してちょっと解説、今回の事案の助成元であるJPFに限らず、予算設計書のようなしっかりした予算立てをする助成金は、予算に関して事前に細かく申請しなくてはならないものの、事業内容について、止むを得ない事情などがある場合(主に天災、現地の政情不安などの外部要因)は申請し、承認を得ることで、予算執行に関しても修正が可能です。むしろ細かい点であっても申請内容とは異なる状況が生じる場合には報告なり申し出を行うのが受給団体としての責務です。

 さて続いてB.の場合はより重大な問題点を孕む気がします。というのは
B-1.現地ニーズの優先度よりも、助成スキームに合致するかどうかが優先された。これは門田さんの言う「ドナー獲得のできる事業立案に寄ってしまっていないか」ですね。
B-2.確信犯的に実施事業とは異なる申請内容で助成金を受給した。なので、変更申請も行われなかった。
こうなると詐欺行為に近い印象ですね。

 再度解説を。この大幅な事業内容の変更はバレないのかという点。JENの報告によれば現地事務所長が独断で行い、東京本部は気づいていなかったが内部告発があり、調査した結果判明した、というものでした。これはJENに自浄作用が働いたという面で評価できる部分かと思います(組織内に通報システムが用意されていたのかは存じ上げません)。で、自浄作用がなければ見過ごされ続けたかと言うと、その点については私は懐疑的です。助成元であるJPFは事務局スタッフも現地のモニタリングに行きますし、第3者の評価チームが入ることもあります。また、その前に収支報告書とその根拠資料(証憑、いわゆる領収書)をチェックする時点でJPF、もっと前に東京本部が気づいたかもしれません。
 以上の点を考えると、B-2は考えにくいかなという感じはします。

§その他の問題点二ついて

 さて、B-2は早晩明るみになるから考えにくいと言いましたが、今回あまり注目されていない感のある残り2つの不適切な事業執行行為が並ぶとちょっと嫌だな、と思うわけです。
その2つとは
②簿外現金の取扱い、
③内部規則違反の調達取引
です。
ここで報告書要旨(原文)を転載しておきましょう。

簿外現金の取扱い
ヨルダン事務所内にある金庫内において、出納簿に記録されていない現金の存在が確認された。この簿外現金の資金源が助成金なのかヨルダン事務所の事務所長の自己資金なのか等は明らかではないが、この簿外現金は、少なくとも 2013 年以降、存在していたと認められる。簿外現金の金額は、実査の結果、2018 年 4 月 24 日現在で約 75万円程度であった。

内部規則違反の調達取引
ヨルダン事務所では、職員は自らの近親者等を JEN の資材等調達手続に関わらせてはならないという規則等があるにもかかわらず、同事務所の調達担当者が、その近親者が株主かつ代表を務める会社と JEN との間で調達に関する契約を締結し、これを実行していたことが判明した。なお、かかる調達の際の価格と市場価格の差額が JEN の損害額ということになるが、当該調達が行われた当時の市場相場の価格を遡って確認することが困難であったため、かかる規則等違反による JEN の損害額については算定することが出来なかった。
※情報をなるべく加工したくないので長めですが部分転載とせず、一項目全文を転載しています。

 このような不適切な会計業務、現地業務運営が常態化してしまっていたとなると、なんでもアリだったような印象を受け、どのような弁解も苦しい言い訳に聞こえてきてしまうな、というのが率直な感想です。特に③の調達に関しては現地の人間関係を詳細に把握するのはなかなか困難なので、相見積もりなど、客観的に適正な調達を証明できるような運営努力を団体としてはとる必要があるでしょう。損害額が算定できないというのは契約時においても価格の適正を判断する客観的な情報に乏しかったということですから。現地の商習慣によっては、発注を確約しないで見積りだけとるのは困難なケースも少なくないので、個人的には同情する余地はあるのですが、こういった事件があるとやはり有事のリスクを回避するためにも必要な手順だなと改めて思います。
 公益性をうたって助成金や寄付をもらっている団体は何よりも信頼が一番で、それを支えるのは公正な資金管理と事業運営です。現地と本部の物理的な距離感などは決して言い訳にはなりません。

§NPOの社会的責任

 企業にCSRという社会的責任が強く問われている現代にあって、非営利団体であっても同様に、あるいは企業以上に高い「SR」(社会的責任)を根幹に置いた運営理念が求められるでしょう。
 このSRに関しては、すべての組織に共通するガイドラインとして「ISO26000」が存在します。非営利セクターにおいてもこれを活用して組織のSRを向上させようという取り組みがあります。その名も「社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク」、略してNNネットです。
 これを説明するとさらに長くなるので今回は紹介のみにとどめます。

 度重なる不祥事は当事者である団体のみならず、業界や「NPO」という組織体そのものの評判を下げてしまう恐れがあります。良い活動をしていてもなかなか話題にはならないけれど、ひとたび不正があるとワッと火がつくのは世の常です。
 このピンチをチャンスに変えるためにはNNネットのような前向きな取り組みをこそもっと積極的に宣伝しなくてはなりませんね。

もしサポートいただけたらファンドレイザーとしてのスキルアップに活用させていただきます。