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【連載エッセイ】余生ーわたしは何処へ向かうのかー3話


◆弟の話は続く◆

2話でだけでは収まりきれなかった弟の人となり。少しくどい気もするが、これからの私の日常を記していく上で欠かす事はできないので、この回も姉弟の不仲エピソードにお付き合い願います。

不穏な空気が流れ始めたのは、私の離婚も成立して田舎の実家暮らしも慣れてきた頃だろうか。

弟から、仕事を辞めて実家に戻ると報告を受けた。
こちらに帰ってきてやりたい事業があるのだとか。

「うちは2階建てだし、上下で生活分ければ問題ないでしょ。」
「お風呂や台所は一緒だけど、お互い食事は自分の分だけ用意すれば気を遣わなくて済むでしょ。」…とまぁ気軽に考えている模様。

私は嫌な予感しかしなかった。
若い頃、あれだけ不仲だったのだ。
今、歳を重ねて丸くなっているとはいえ、人間の気質はそうそう変わるものではない…お互いに。

一緒に住んでから私が出ていくのは感じ悪いので、弟が帰ってくる半年前に『1時間の車通勤がしんどい』という、あくまで私の都合です的な理由で2つ隣の自治体へ引っ越した。


◆私もなかなかのポンコツ◆

この2つ隣の自治体は、職場がある街でもあり、一応小さな地方都市なので便利で住み易い。そして何より、結婚してからずっと住んでいた街なので馴染みがある。

実家に暮らし始めて迎えた愛犬を連れて、職場近くのペット可マンションに引っ越した。

若い頃、初めて一人暮らしをした時の様な高揚感だった。

しかし、当然ながら今まで掛からなかった家賃と駐車場代が毎月掛かってくる。なんとかギリギリ生活出来ていたが、この頃から『足りなくなったら父から貰ったお金がある』と甘い事を考えていたのも事実だ。

成熟した大人は、きっと貰ったお金には手を付けず、自分の稼ぎに見合わない生活はしない。うん…それがちゃんとした大人だ。

私はブランド物や贅沢品に興味はないが、少しお金に余裕があると日用品や食品、友達との交際おいて少し調子に乗って贅沢してしまう。
これがジワジワと自分の首を絞める事になるのだ。

◆終わりの始まり◆

1話で軽く触れているが、私は自己破産をして自分のお店を失っている。
自己破産の原因は、大きいものでは私の事業計画の甘さだが、余裕があると生活必需品などを高級にしてしまう癖も地味に影響していると思う。そういう生活の癖が、経営における全ての局面に影響していたと思う。

ある時、起業以来借りていた小さなテナントが手狭になってきたのを機に、店舗移転を計画した。

予約制の業種だった為、店を大きくしなければこれ以上の売上アップは見込めないと思ったからだ。

スタッフへのお給料を遅らせた事も、仕入れ先への支払いが遅れた事も無かったが、私の生活はギリギリだった。
心に余裕があったのは父から貰ったお金があったからだ。
保険があるから、実質ギリギリなのに心はセレブの様だった。

これで良い訳ないのは自分でも分かっていたのだ。
自分の稼ぎだけでセレブになりたいし、スタッフもセレブにしてあげたい。

そうなるには、店舗の面積を広げて予約のお客様を沢山受け入れること。銀行さんや商工会にも相談して、現在の予約状況やお断りしている予約数など…諸々を頭の良い方々に計算していただき、お金をかけて移転しても元が取れるとなり…銀行さんに融資を受けて移転、新装開店する事になったのだ。

移転にはびっくりする金額が動いた。新店舗の内装工事はもちろんのこと、旧店舗の原状回復費用…。私が予想していた額を遥かに上回った。

ほとんどが融資で賄えたのだが、足りない分は自腹だ。そして大きくなった店舗に見合う売り上げは、徐々に上がっていく予定だったが、軌道にのるまでは経費、支払いなど諸々足りなくなる計算で、数ヶ月は自腹を切り続ける事になる。そこまでは想定内だった。

想定外だったのは、自腹を切り続ける期間と金額が思ったより長く大きかった事。
父から貰ったお金はみるみる減っていく。そして資金は底を尽き、自己破産となるのだが…。

私が自己破産を決断した時には、もう弁護士を依頼するお金も残っていなかった。だから弟に頭を下げた。
必ず別な仕事に就いて返す…何年掛かっても必ず返す…という約束で、弟が弁護士費用、スタッフへの最後の給与、最後の家賃、引越し費用、当面の生活費を工面してくれた。


◆お金は姉弟の仲を壊す◆

私は分かっていた。お金を工面してはくれたが、弟は静かに怒っていた。
静かに怒りを胸に収めているつもりだろうが、収めきれないものがちょいちょい顔を出す。

弁護士に自己破産手続きの依頼に2人で行った帰り、ひと息付きたくて喫茶店に入った。
カフェではなく昔ながらの…コーヒーが売りの喫茶店だ。
弟もタバコを吸うし、私も電子タバコを吸う。
その時も、これからの事を話しながら何の気無しに電子タバコを吸った。…それが気に入らなかったらしい。
弟の言い分は、『おまえは俺からお金を借りてるんだ。すぐに返す事は無理でも色んな事をこれから我慢して節約して少しでも浮いたお金で俺に返すという覚悟がなければいけない。タバコは贅沢品だ。お前は覚悟が出来ていない』…のだそうだ。
正論だ。ぐうの音も出ない。

この日から弟の前でタバコを吸う事は無くなった。

家賃節約の為、また実家に引っ越した。今度は弟と住むという難題が待っていた。

⚫︎4話へ続く⚫︎
不仲エピソードが長くてすみません(^^;4話も読んで頂けたら嬉しいです。
緋色しゅうこ



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