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ホットミルクの味


先日、TBSラジオ「日曜天国」を流していたら、ラジオネーム「やぶからスティック」と聞こえてきた。
ルー大柴がトゥギャザーしていたその音声はアデランスのCMなのだと、あるエッセイで触れられていたのを読み、後になって思い当たった。
そのくらい、「アデランス」という固有名詞を忘れ去っていた近年だったのだが、アデランスと聞けばすぐに記憶のふたが開く。

通っていた小学校の至近にアデランスの工場があった。
小学生時分社会科見学に行ったのだろう、みんなで応接間のような部屋に通され、砂糖入りホットミルクを出された。初めて飲んだそれはとても美味しくて(こんなに美味しい飲みものがこの世にあるなんて!)感動した。意外にもおかわりをねだった生徒は私だけだった。
いろいろな観点でなんてこともない思い出だけれど、書いておかなかったら私も歳とともに忘れるんだろうなと思ってここに書いてみる。
かつらの製造過程などは見ただろうか?そこは覚えていない。

後年、村上春樹『日出る国の工場』で、彼がホットミルクのアデランス工場を訪問していることを知った。さらに安西水丸氏のエッセイで、この取材時にタクシーでドライブ中まぎれこんだ村上市に縁を感じ、その後、村上トライアスロン大会に出場したのだとのこと。
私は村上高校にも通っていたのだけど、このエピソードを知ったのはごく最近になってからだった。

以下、安西氏のエッセイを引用する。


なんてことないけれど折に触れ浮かんでくる記憶の断片。「だからなんだ」と自分でつっこみを入れそうな何度も思い出す経験。書いておかなかったらどこに消えていくのだろう。作品として出版されたりして、多くの人にシェアされる物語もいつか消えていくのだろうか。

限られた誰かに話したとして、伝承されるような物語はごく限られているだろう。

それでも、誰にでも、その人にしか書けないことはあるんだろう。

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