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ほめ言葉ジャーナルでクラスの土台をつくる

今年度の学級経営を振り返ってみると「言葉」に関する指導がとても多くなりました。
試行錯誤を繰り返す中で生まれた「ほめ言葉ジャーナル」という実践について今回はまとめました。


「ほめ言葉ジャーナル」とは

全く同じ先行実践があったわけではありません。私と、子ども達の間でいつしかこう呼ぶようになり、クラスの中で呼び名が定着しました。
実践に至るまでの過程については後述するとして「ほめ言葉ジャーナル」の概要について説明すると、

その日「ほめられる人」を1人決め、その人へのほめ言葉を全員が書き、1日の最後に手渡す。これを毎日続ける。

というものになります。

「ほめ言葉ジャーナル」に取り組んだ子ども達の感想

「ほめ言葉ジャーナル」をしばらく続けてみての子ども達の感想を一部紹介します。(引用は原文ママ)

ほめ言葉ジャーナルをしてから、スターじゃない人のいいところも見えるようになってきました。まじめにやっている人がすごく見えてきました。自分がスターのとき、自分が気づいていないところなどをみんなが書いてくれてうれしかったです。自分がしぜんといいことをやっていたんだなと思いました。ほめ言葉ジャーナルをやらなくても人のいいところを見つけられる人になれたらいいと思います。

ぼくがスターになった時に、いろいろなことを書いてもらったからとてもうれしかったです。友だちに思いをこめて書くとすごくいいクラスになると思います。みんなできょうりょくするとぜったいいいクラスになる。つぎもいっぱいがんばって書きたい。

ぼくがスターになった時、きんちょうしたけれどみんながたくさんいいことを見つけてくれてうれしかったです。クラスで成長したところは、ほめ言葉ジャーナルを書いていないころは、悪いことのほうこくが多かったけれど、やり始めてからは、悪いほうこくが少なくなってきて、ほめるほうこくがふえてきていた。自分の成長は、前までは悪口とかいっぱい言っていたけれど、ほめ言葉ジャーナルをしてからは悪口が少なくなってきて、成長したと思います。

※「悪いほうこく」とは、「○○さんが掃除中遊んでいた」「○○さんがまたふざけている」などのこと

「ほめ言葉」というプラスの言葉を使い続けることで、子ども自身にとっても、クラス全体にとってもプラスの影響が出てきていることが読み取れます。

「ほめ言葉ジャーナル」の流れ

朝の会にその日のスター(ほめられる人)を決定

子ども達全員は1日の中でその子の「良い所や頑張っている所、成長している所」を探す

5時間目が終了

教室整頓タイム(1~2分間)

席についた子から「ほめ言葉ジャーナル」を書き始める
(先生とスターは黒板前に座って待つ)

書き終わった子からまずは先生に見せに行く

先生は内容を読み、「ここよく見てるね」「昨日より具体的だね」など簡単なフィードバックをしてハンコを押す。そして「さようなら」のハイタッチをしてノートを返す。

返してもらったジャーナルを今度はスターに手渡し、「さようなら」のハイタッチをする。

ハイタッチが済んだ子から下校する。

先生からもスターに便せんに書いた「ほめ言葉」を送る
(家の人にも読んでもらうように言う)

流れだけを説明すると以上のようになります。

はじめは「振り返りジャーナル」だった

ご存じの方も多いと思いますが、岩瀬直樹先生の「振り返りジャーナル」という実践があります。

先生と子どもの信頼関係を築くうえでとても有効な実践です。
「ほめ言葉ジャーナル」のベースにはこの「振り返りジャーナル」がありました。興味のある方は調べてみてください。
4,5月ごろまで「振り返りジャーナル」の実践を行い、私と子ども達の関係が徐々に深まっていく感覚がありました。次第に私の話に耳を傾けてくれるようになり、「先生!先生!」と話しかけてくる子も増えました。しかし、そこ止まりだったのです。先生と子ども達の、いわゆる縦の関係は強くなっていったのですが、子ども達どうしの横のつながりがなかなか強くならないのです。「振り返りジャーナル」単体でこの課題は解消できません。普段の授業や学級経営、さまざまなものが絡み合って子供達の繋がりは強くなっていきます。

子どもたち同士の繋がりをもっと広く、強くしていくために何かできないかと考え続けました。そして6月ごろから、「振り返りジャーナル」を発展させる形で誕生したのが「ほめ言葉ジャーナル」でした。

また、「ほめ言葉」と聞いて菊池省三先生の「ほめ言葉のシャワー」を思い浮かべた方もいらっしゃるかと思います。私も数年前に実践したことがありました。だた、「下校時刻が守りにくい」という現実的な課題があり継続を断念。現任校では「放課後」がなく、バス通学児童も多いことから非常に下校時刻にきびしいのです。今はほとんどの小学校にその傾向があるのではないでしょうか。その点「ほめ言葉ジャーナル」は終わった子から順次下校していくため、この下校時刻問題もクリアできました。

また、「書く」ことによる利点もあると思っていました。その点については後述します。

「ほめ言葉ジャーナル」によって生まれた利点

子ども(スター)の立場から

スターになった子どもは、とにかくその日1日張り切ります。
スターの決め方ですが、「ガチャガチャアプリ」でランダムに決めています。決まった瞬間、嬉しさのあまり泣き出してしまった子もいました。
先に乗せた子ども達の感想からもわかる通り、「自分では気づけない良さに気づくことができた」と答える子が圧倒的に多いです。これは大きな利点です。
スターになり、みんなからたくさんのほめ言葉を受けることで、自分に自信をもち、自分をほめてくれたみんなのために自分も頑張ろうというモチベーションも高まります。実際、一度スターを経験した子どものほめ言葉ジャーナルの書く量は増えます。そしてその時に褒められたスターも同じような感覚を得ます。プラスのサイクルが回り始めるのです。
ちなみに、スターは受け取ったジャーナルにある書き込みを行います。「よく見てるなぁ」「これは特に嬉しい」と思ったところに赤線を引きます。翌日返却されたジャーナルを見て、ほめた側の子は赤線があった部分を確認し、次の記述に生かしていきます。

子ども(ほめる側)の立場から

ほめる側になった子は、その日1日の中で「スター」の良い所を探し出さなければなりません。語弊があるかもしれませんが、強制的にスターの良い所を見つけさせることになります。私が子ども達によく言って聞かせるのが、次のような説明です。

「ほめ言葉ジャーナル」を何のためにやっているのか。それはみんなに「人の良いところを見つける力」をつけてほしいからです。人の悪い部分を探すのは誰にでもできるし、簡単です。一方で、人の良い所は見逃しがちです。良い所をお互いにわかっていれば、クラスとして大きな力を発揮できます。他人の良さを知っていれば、その力を借りることができます。自分の良さを知っていれば、その良さを人のために使うことができます。そのためにはまず、人の良い所を見つける力が必要になるわけです。スターを喜ばせるためだけにやるのではありません。自分の目を鍛えるためにやっているということを忘れずにね。

ほめる側の子ども達は、「ほめ言葉ジャーナル」を繰り返していくことでクラスの仲間を「プラスの目」で見るようになってきます。「あ、こんな風に頑張っているんだ」「今まで気づかなかったけれどこんな優しい所があるんだ」という気づきが毎日生まれます。ただ漠然と見ているだけでこの気づきは得られません。良さがわかると、その人ともっと話してみたくなりますし、実際に「ほめ言葉ジャーナル」の影響でよく話すようになった子もいます。
人の良さを見つける力」がつくことによって、仲間との関係がより広く、強くなっていきます。

先生の立場から

私にとって一番大きかったのは「1人1人の子どもをよく見れるようになった」ことです。「ほめ言葉ジャーナル」では、その日のスターに先生からも便せんに書いた「ほめ言葉」を送ります。普段の学校生活ではどうしても手のかかる子に目が行きがちです。そんな中でも「スター」になった子だけは決して見逃すことがないため、その日はもう思い切りほめて家に帰します。(毎日全員の子を見取れれば最高なのでしょうがなかなか…)ちなみにおすすめの便せんは、おにぎりママさんの「おにぎり一便箋」です。保護者の方にも見てもらいやすく、翌日お返事をいただけることもあり、家庭との貴重なコミュニケーションの一つになっています。

いわゆる「帰りの会」がなくなったことも大きな利点です。
帰りの支度を全員が済ませたうえで、みんな揃って「さようなら」のあいさつをする…。これがほとんどの学校でみられる普通の「帰りの会」ではないでしょうか。そのなかに、「係からの連絡」や「先生のお話」が入ることもあるはずです。しかしこれが難しい。担当しているクラスでは、配慮を要する子が多く、そもそも帰りの支度の速さには子どもによって差があります。待たされる子のストレスはたまり、しゃべり始めます。そうなると、「静かにしなさい」の指導が入るわけです。子どもも先生もアンハッピーな状況を生み出してしまうのが、従来の「帰りの会」ではないかなと最近感じています。終わった子から下校できるシステムなので、自分のペースで支度を済ませ、自分のペースでほめ言葉を書き、ハイタッチをして帰る。先生から自分に関係ない「静かにしなさい」という言葉聞くこともない。ノーストレスです。帰りのあいさつの場面で「きちんと立ちなさい!」と指導して後味悪く下校させてしまった経験はありませんか?私はあります。わざわざ指導が必要になる場面を増やす必要はないのではないでしょうか。

「ほめ言葉ジャーナル」の書き方

書き方については「ほめ言葉のシャワー」を参考にしている点があります。

「事実」+「気持ち」

この2点セットで書くことがポイントになります。
例えば、

○○さんは、今日の2時間目の算数の授業でわからない問題があった時、○○くんに「わからないから教えて」と言っていました。私はそれを見て”人に聞く勇気のある人”だなと思いました。

こんな感じです。

「事実」

「事実」として書くのは、その日自分が見つけたスターの言葉や行動です。自分が見ていたことをそのまま書くだけなので、そんなにハードルは高くありません。しかし当然ながら見ていなければ書けません。
「事実」を見つけるためには、スターがその日何をしているのか気にする必要があります。しかし、子どもはよく忘れるものです。初めのうちは特に、教員からの働きかけがなければ「そういえば見ていなかった…」と書く瞬間になってスターのことを思い出すなんてことにもなります。
1日の中で「そういえば○○さん(スター)の良い所、そろそろ見つけた?」「先生はもう見つけちゃったよ」などと折を見て全体に声掛けをします。すると何人かが「もう2つも見つけたよ!」「…!(そういえば…!)」という反応を返してくれます。自分はよく3時間目の初めや給食の時間に声掛けをしていました。
さらに、「」(かぎかっこ)を使って事実が書けるようになると内容がとても具体的になってスターにも伝わりやすくなる、ということも少し慣れてきたことに話をします。スターが何を言っていたのか、どんな会話をしていたか、そんな言葉を使っていたか…自然と「言葉」に敏感になっていきます。

「気持ち」

「事実」を受けて、自分はどう思ったかを次に書きます。
初めのころは、「すごいと思いました」「優しいと思いました」など単純な書き方が目立ちますが、それで良いです。徐々に表現が変わっていきます。慣れてきた段階で「○○な人だと思いました」という書き方をお勧めすると効果的です。

次の日の朝の会で「スターからひとこと」

スターは次の日の朝までに全員の「ほめ言葉ジャーナル」に目を通し、「よく気づいてくれた!」「こんなところまで見てくれたんだ」という所に赤ペンで線を引きます。
そして翌日の朝の会で、ひとこと発表します。

「みんなからの言葉を受けてどう思ったか」+「自分はどんな人だと思ったか」

この2点セットで話してもらいます。
とくに「自分はどんな人だと思ったか」が重要です。
今の子ども達は「自分の良さがわからない」「自分に自信がない」「自分の好きなところがわからない」…といった傾向が強いように思います。
毎学期にある個人面談で子ども達と話すのですが、どの学年を持っても、年々この傾向が強くなっているように感じます。
私が思うに、「自分に良さがない」のではなく「自分の良さに気づく機会」がないことがこの現象の根底にあるような気がするのです。
「ほめ言葉ジャーナル」は「自分の良さに気づく」再発見の場になることも狙っています。そんな意図もあって「みんなからの言葉を受けて、自分の良さについて自分はどう考えたのか」を自分の言葉で語ってもらっています。

「ほめ言葉ジャーナル」がお休みになる日

どうしても実施できない日もあります。例えば、クラブや委員会がある日や一斉下校の日などです。そんな時は、潔く「今日はやりません」と朝の段階で子ども達に伝えておきます。
その一方で、チャンスでもあります。その日の最後に「今日誰かの良い所見つけた?」と聞いてみるのです。すると、何人かの子は手を挙げて答えるはずです。その子を思い切りほめます。「人の良い所を見つける力が付いてきてるね~」といった感じで。「ほめ言葉ジャーナル」がなくても、人の良い所に目を配っている子が増えるのはクラスにとって大きなプラスになります。そしてそれは、確実に広がっていきます。

「ほめ言葉ジャーナル」と学級通信

私は学級通信を週に最低1回は発行しています。
「ほめ言葉ジャーナル」をはじめた当初は、学級通信の裏面に何名かのジャーナルの内容を掲載しました。そして必ず、子ども達には読み聞かせました。そうすることによって子ども達は「こんな書き方があるんだ」「次はこれをまねして書いてみよう」と書き方を学ぶことができます。保護者の方には「うちの子はクラスでこんなことをしているのか」「こんな風に見て貰えているのか」と知ってもらえます。
「ほめ言葉ジャーナル」の1周目はぜひ、学級通信を用いて内容や書き方を広げていくと良いと思います。

最後に

通常、褒め言葉の載った手紙などは相手に届けられ、自分の元に保存されることはありません。これまでの「褒め合い」の活動では基本的にそうなると思います。
しかし、褒め言葉ジャーナルはクラス全員の「良い所」が自分のノートに書き残されています。自分が見つけたクラスメイトの良いところが、相手ではなく自分の手元に形として残っているわけです。
「自分は人の良いところをこんなにたくさん見つけた」という実感は、その子のクラスメイトの見方を変え、そして集団を変える力へと変わっていくと思います。

片田舎の一教員が行った実践ですが、大きな効果・可能性を感じたものになりましたので、自分の実践記録という意味合いも込めて今回まとめました。
ここまで読んでくださった方に、感謝です。



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