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理科の自由進度学習②

本記事は「理科の自由進度学習」の続編になります。
理科の自由進度学習についてご興味のある方は、以下の記事もぜひご覧ください。
※児童の発言・記述等については要点を抜き出して改変しています。予めご了承ください。

はじめに

「自由進度学習」というワードが色々なところで聞かれるようになりました。少し前まではSNS上で話題になる程度だったものが、今では現場でも話題にあがります。そして、批判の声も大きくなったように思います。「子どもに好き勝手させて何の学びがあるのか」「うちの学校の子ども達にはそれよりも先に身につけなきゃいけないことがある」「教室に入っても授業の流れがわからない」「評価もできないものは授業ではない」等々、なかなかの言われようです。批判というより非難めいたものもあります。

「自由進度学習を行うこと」が目的化してしまい、子どもの学びを保障できない状態になってしまっているのであれば、それは非難されて然るべきです。それは子どもの学びではなく、大人の都合を優先してしまっているわけですから。

賛否両論あるようなテーマだからこそ、子どもに力がついて、かつ現行の学習指導要領の内容に沿ったものになっているかという点は常に意識したいです。

本記事では、前半で私が理科の自由進度学習で意識している最低限のことを具体的に書きました。個人的に、ここで書いたことを意識しないで行なった自由進度学習はただの「放任」になってしまう感があります。そして後半は、最近行った「てこのはたらきとしくみ」の実践について書いています。

理科の自由進度学習で意識すべきこと

⓪小学校理科の目標

自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)自然の事物・現象についての理解を図り、観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
(2)観察、実験などを行い、問題解決の力を養う。
(3)自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。

小学校学習指導要領解説 理科編, P.12

自由進度学習であるかどうかに関わらず、理科の授業はこの目標の達成につながるものでなくてはなりません。
①「見方・考え方」を働かせながら②問題解決の活動を行う中で③「資質・能力」が育成されるという点が重要です。
単元の特性や安全面を考慮する必要はありますが、自由進度学習はこの点をクリアするのに非常に有効だと考えています。

①「見方・考え方」を働かせながら

理科の特質に応じた物事を捉える視点や考え方が、理科における「見方・考え方」の捉えになります。ここで重要なのは「見方・考え方」は、育成を目指す資質・能力とは分けて考えなければならないということです。

「見方・考え方」が、学びの過程の中で働くことを通じて、資質・能力が育成され、それによって「見方・考え方」がさらに豊かになるという、相互の関係なのです。

鳴川哲也・寺本貴啓・辻健・三井寿哉・有本淳(2021)「見方・考え方を働かせる問題解決の理科授業」、明治図書出版

鳴川・寺本・辻・三井・有本(2021)ではこのように述べられています。意識的か無意識的かは別にして、我々は何らかの視点や考え方を働かせながら、目の前の問題を解決しようとします。そしてそれは子どもたちも同じです。子どもたちが働かせている「見方・考え方」を表出させ、全体へ広げていくことで資質・能力の育成に繋げていく。それが自由進度学習における授業者の役割のひとつであると考えています。

②問題解決の活動を行う中で

問題解決の過程ですが、

「自然事象からの気づき」
→「問題を見いだす」
→「仮説を設定する」
→「実験計画を立てる」
→「観察・実験を実施する」
→「結果をまとめる」
→「考察する」
→「結論を出す」

といった流れが一般的かと思います。
この問題解決の過程の中で資質・能力を育んでいくわけですが、この全てに力を注ぎ、クラス全員に問題解決に必要な力をつけるというのは、理想的ですが現実的ではなく、何だか息苦しさがあります。1年間の理科の学習を見通して、「この単元では問題の見いだしを大切にしよう」とか「この単元ではきちんと結果を整理させたい」とか、的を絞って指導しています。その方が、無理なく問題解決の過程を子どもたちの中に浸透させやすいのではないでしょうか。

③「資質・能力」が育成される

「資質・能力」はどの教科においても「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つに整理されています。
小学校理科で育成を目指す資質・能力を具体的に示したものとして、鳴川哲也先生の資料が大変わかりやすいです。

https://www.nits.go.jp/materials/youryou/files/011_001.pdf

<小学校理科で育成を目指す資質・能力>※上記リンクの内容より
(1)自然の事物・現象についての理解を図り、観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。(知識及び技能)
【知識】
・自然の事物・現象の性質や規則性などの把握
【技能】
・器具や機器などを目的に応じて工夫して扱う
・観察、実験の過程やそこから得られた結果を適切に記録する
(2)観察、実験などを行い、問題解決の力を養う。(思考力、判断力、表現力等)
・差異点や共通点を基に、問題を見出す力(主に第3学年)
・既習の内容や生活経験を基に、根拠のある予想や仮説を発想する力(主に第4学年)
・予想や仮説を基に、解決の方法を発想する力(主に第5学年)
・より妥当な考え方をつくりだす力(主に第6学年)
(3)自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。(学びに向かう力、人間性等)
・生物を保護する態度、生命を尊重する態度
・意欲的に自然の事物・現象に関わろうとする態度
・粘り強く問題解決しようとする態度
・他者と関わりながら問題解決しようとする態度
・学んだことを自然の事物・現象や日常生活に当てはめてみようとする態度
など

育成すべき資質・能力が何であるのかを授業者が理解していない状態で「子どもに任せる」ことはできません。自由進度学習であろうとそうでなかろうと、その学習を通して育成したい資質・能力は何であるかという意識があるかという点は非常に重要です。

【実践】6年「てこのはたらきとしくみ」

本単元で見取りたい理科の「見方・考え方」

「てこのしくみとはたらき」で働かせたい「理科の見方」は何か。エネルギー領域になりますから「自然の事物・現象を主として量的・関係的な視点で捉える」となります。例えば、「おもりの位置を2倍にしたら、つり合わせるために必要なおもりの重さが2倍になるのではないか」というような、「Aの量を変えることで、Bの量も変わるのではないか」というものの見方をしているような子を見逃さないようにしたいです。
次に、ここで働かせたい「理科の考え方」は「条件制御」です。「おもりの重さについて調べているから、位置は変えずに実験する」という発言や行動を積極的に全体へ広げていきたいです。「変える条件」と「変えない条件」がそれぞれ何であるかの共通認識は持った上で実験ができるように教師は働きかけていく必要があります。

1時間目(ゲーム・専門語の確認)

初めは、大型のてこ実験器(よくある砂袋を持ち上げるタイプのやつ)で、ゲームの時間を取りました。ゲームといっても、「おもりが一番重く感じる状態」と「おもりが一番軽く感じる状態」を探るという単純なものです。「てこ」という用語はまだ出さずに、子どもたちの発想に任せました。ただこれだけのゲームですが、非常に盛り上がります。「おもりが遠いと重い!」「手の位置は端っこだと楽だな〜」といった、後の結論につながるような発言がどんどん出てきます。あとで紹介できるようにメモを取りながら、子どもたちと楽しみました。

ゲーム終了後、てこ実験器で場所を確認しながら「支点」「力点」「作用点」といった専門語について解説しました。後に述べますが、「専門語」と「学習語」を私の中で区別して使用しています。言葉がわからないと、教科書の読み取り、友達との会話、先生からの説明、そのいずれにも影響が出てしまうため、子ども達に学習を任せる前にこの言葉の確認の時間は丁寧に取ることを意識しています。

支点・力点・作用点の位置関係によって、てこの手ごたえが変化することを全体で確認し、1時間目は終了しました。

2時間目(学習語の確認)

バトラー後藤裕子(2021)は、著書にて学習語彙習得への不安を指摘しています。学習語とは、日常生活ではあまり使用しないものの、学校教育での学習全般に必要な語のことです。

・学習語が厄介なのは、学習語は教科の理解に大変重要な役割を果たすのに、知っていることが前提となるために、教科書も先生も改めて意味を説明してくれないことが多い

・実証研究からは、テクストを自力で読みこなすには、テクスト内の語彙の実に95%から99%を知っている必要があるといわれている(Hu & Nation, 2009)

バトラー後藤裕子(2021)「デジタルで変わる子どもたち」、ちくま新書

実証研究は英語圏のものですが、日本語でもあてはまるといわれているそうです。
私の理科の自由進度学習では、教科書の内容を足がかりに進めることが多いです。そのため、この学習語の確認を怠ってしまうと教科書の内容がイマイチ理解できないままで、学習が滞ってしまう子が出る可能性が出てしまいます。
てこ実験器の「数字」が「支点からの距離である」といったことも、何となくの理解のまま実験に入ってしまいがちです。実験に必要な前提知識を授業者は意識すべきだと考えています。)

今回の授業では、前回のゲームの結果や子どもたちの発言を紹介しつつ、「てこには何かきまりのようなものがあるのだろうか?」という問題を見いだしました。
その中で、教科書に出てくる「条件」「水平」「つり合う」「きまり」「左のうで」「右のうで」といった学習語について確認しました。

T「『条件』を整えるって、どういうことだった?いままで『条件』を整えてどんな実験をしてきたか思い出してみよう」
C「インゲン豆の実験のとき」
T「発芽には3つの条件があったね」
C「水と、日光と…」
C「日光は成長の条件じゃない?」

T「つり合うってどういう意味かわかる?」
C「同じってことじゃないかな」
T「同じってどういうこと?」
C「てこが、こう、傾かないこと」
T「うん、傾かないと、まっすぐになるよね。この状態が『水平』という状態です。この水平の状態でてこが止まった状態なら『つり合っている』と言えるね」

T「左のうでと右のうでに、同じおもりをぶら下げるとつり合うね」
T「左のうでのおもりは変えずに、右のうでのおもりを支点に近づけると…つり合わない。どうする?」
C「おもりを増やせばいい」
T「2つにしたらまたつり合ったね。何かきまりのようなものがあるのかな?」
C「距離を1/2にしたから、おもりは2倍にするんじゃない?」
C「逆に2倍にすると、おもりの重さは半分にしなきゃいけないのかな」

こういったやりとりを、板書をしながら進めていきました。
2時間目は教師主導の一斉指導です。ここは割り切って行いました。

3〜7時間目(自由進度)

3時間目以降は自由進度で進んでいきました。
子どもたちの学習の足がかりとしていつも使用しているのは、「教科書」と「学習進行表」です。(学習進行表については、ダウンロードしてご覧ください)

まず教科書についてですが、理科の授業における教科書の使用については意見の分かれるところだと思います。教科書には実験方法も、実験結果も、まとめも、全て載っているからです。実験前に結果を知ってしまっては、理科を学ぶ楽しさが失われるだろうという話ですね。
私としては「資質・能力の育成に有効であるならば積極的に活用すべき」と考えています。よって、有効でないと判断した場合はなるべく見せない場合もあり得ます。今回の授業では、大いに活用しました。
本単元では、問題解決の過程の中で特に「考察」に力を入れたいと考えていました。「結果からわかることを考え、表現できるようにする」ことを狙ったわけです。「考察」の段階は、時間的にも内容的にも個人差が大きいくなる部分です。ある子は、もう一度実験をしてみたいかもしれない。ある子は、一人じっくりと考えたいかもしれない。ある子は、他のグループと意見交換したいかもしれない。そう考えた時に、自由進度学習と非常に相性が良いと考えました。しかし、時間は限られている。そこで教科書です。教科書の内容を基に実験を計画し、自分たちのペースで実験を進めながら、結果からわかることを吟味する。このようなことから、今回は教科書を積極的に活用するという判断に至りました。

「学習進行表」は問題解決の過程が視覚化されるようにデザインしました。
また「考察の書き方」という部分を設け、初めに解説します。「考察」では、「事実」と「解釈」、「仮説の検証」の3点を記載するように指導しています。

基本的な進め方ですが、

①初めに「問題」に対する「仮説」を自分で考え、記入する。
(「結論」は最後に記入する。)

②以降は問題解決の過程に沿って、漏れのないようにグループごとに進めていく。

③「先生チェック」で口頭試問を受ける。
【口頭試問の例】
・てこの3つの条件を答えなさい
・今回の実験で明らかになった「てこのきまり」を説明してください
・おもりがこの位置に吊るされている時、どこに重りを何g吊るせば水平になる?(実験器を見せながら)

といった流れになります。

本来であれば子どもたちのノートを示しながら授業中のやり取りを紹介したのですが、さすがに無断でノートの掲載はできないため、いつかの機会に。

ある子の「考察」を2つ紹介します。自由進度学習では、色々な子がお互いに影響し合いながら考えを形成していく姿がたくさん見られます。1時間1時間ぶつ切りの授業ではなかなか見られなかったものでもあります。私が理科で自由進度学習を実践する理由の一つです。

「てこ」がつり合うときは、結果の表のようなときである。
このことから、「てこ」は「支点からの距離×おもりの重さ」が左右で同じになると「つり合う」ことがわかった。
よって、私たちの仮説は「公式のようなものがあるのではいか」という点では合っていた。

ある子の考察

例えば、ピンセットを扱うときなどはどの部分が力点なのかを考え、そこに力を加えれば便利。
力点の場所をはあくすることで、色々な道具が使用しやすくなるのではないか。

ある子の考察

成果と課題(授業後アンケートより)

単元終了後のミニテストの結果

単元終了後には「てこのはたらきとしくみ」に関するミニテストを行いました。上記のような結果になり、多くの子どもたちは基本的な内容を理解している様子でした。一方で、伸び悩む子も少なからずいます。その子達に共通していたのが、「てこが水平になる時のきまりを使って、つり合う時の重さを予想する」という問題の正答率が低いという点でした。また、ノートを確認していくとどうやらおもりの「重さ」ではなく、おもりの「個数」として考察を進めている傾向がありました。「個数」ではなく「重さ」が意識できるような課題を設定することや、口頭試問時に確認の質問を入れるなど、手立てはいくらでもあります。ここは大きな課題だったと捉えています。悔しい。

子どもたちからの記述式のアンケートからは、好意的な反応が多く見られました。

・考察のときに、水平に釣り合う仕組みをチームで考えたときに分からなかったときに、B班と交流したことによって、「重さ✕メモリ」が左右同じになることがわかったし、その後もう一回かんがえたら、自分でも『公約数』になっていたりすることに気がついた。考察を、他の班と交流して、考えを深めたり、自分の考えを広めたりできた。
・どうやれば水平になれるかたくさん考えられ、かけ算やわり算でしたりして算数の学習も活かせた。チームの人と話し合いながら「ここはこうすればいいんじゃない?」など、意見を出し合えた。

このような、問題解決の過程で他者と関わりながら自分の考えを深めることができたという回答が目立ちました。これらは、育成を目指す資質・能力の(2)につながっていくと考えられます。

・私達の周りにもある道具にもてこの原理が使われていることを勉強して、理科のてこに親近感や身近なことを感じられた。
・てこについて「ハサミとか栓抜きなどもてこの原理と同じなのか!」ということが驚きだったのが良いと思いました。そしててこがどれだけ便利かも理解できた。

このように、日常にある「てこ」の存在に親近感や驚きを感じる回答が見られたことは、育成を目指す資質・能力の(3)につながっていくと考えられます。

おわりに

自由進度学習になりますから、当然実験の進度には差が出ます。しかし「早いからすごい」というような空気はなく、どのチームも「なぜこうなるのか」「この結果から何が言えるのか」を他者と関わり合いながら考える姿がありました。「はい、じゃあここまでです」と、授業者が切るのではなく、自分たちなりの納得感を大切にして進めていけることが、このような形の授業の醍醐味であると思います。しかし時間は有限です。そこをうまくファシリテートし、限られた時間でより質の高い学びを得ることができるよう支援することが授業者の役割であり、今後も磨いていかなければならない部分です。

自由進度学習は「子どもに任せるから負担感が減る」と考える人がいるようなのですが、そんなことはありません。個人的にはむしろ、これまで以上に「学ぶとは何か」「指導要領はどうなっているか」「単元のねらいは何か」と教材研究するする時間が増えたように感じます。また、毎時間の子どもの学びを見取り、誤概念につながる様子がないかを注視する必要もあります。それを負担感とは捉えていませんが、やはりある程度の手間はかかります。それを負担に感じ、授業者自身が教材に向かい合うことを避ければ、それは子どもたちの学びにマイナスに作用します。授業者が学び続けることが、自由進度学習ではより一層求められていると感じます。

本記事が、理科の自由進度学習に取り組もうとしておられる方の一助になれば幸いです。読んでいただき、ありがとうございました。

子どもたちの生の発言や記述、アンケート調査の詳細は省いています。いつかここ以外で、別の形でまとめることができたらと思います。

参考文献

鳴川哲也・寺本貴啓・辻健・三井寿哉・有本淳(2021)「見方・考え方を働かせる問題解決の理科授業」、明治図書出版
バトラー後藤裕子(2021)「デジタルで変わる子どもたち」、ちくま新書
文部科学省(2017)小学校学習指導要領【理科編】

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