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今週のkinologue【9/12-18】

台風の余波で豪雨と晴れが交互にやってきた蒸し暑い日曜。大学図書館に行くのを諦め、家で粛々と論文を書く。今週は金曜日に携わっている映画の情報解禁があって、その準備でバタバタしていたが、週の前半は集中ゼミと重なり、何ともアンビバレントな1週間だった。そのせいか終電に乗り換えそびれる惨事も。先週仕入れた秋冬色の花だけが唯一の癒し。

「空気の研究」は誰にも真似できない

読まなきゃいけない本が色々あるにも関わらず、6月の訃報以来、寝る前に少しずつ小田嶋隆さんの著作を読み返している。特に2015-2019年の連載コラムをまとめた『ア・ピース・オブ・警句』を読み返すには、これ以上にない絶好のタイミングだったと言えよう。ほぼ全編にわたっている安倍政権とモリカケ問題、東京五輪顛末を鋭く斬るコラムを読み始めた頃から、安倍元首相の死→国葬騒ぎ→東京五輪汚職逮捕が並行して起こり、小田嶋さんの指摘の答え合わせをしているようだったからだ。小田嶋さんに今の状況を痛烈に批判して貰えないのが悔しくてたまらないのだが、起こるべくして起こったことだと、小田嶋さんが遺した言葉が教えてくれた。だって「ポケットに入れたママの写真を見られるのが恥ずかしかったシンちゃんが、ポケットを覗き込もうとした子供を階段から突き落としてしまった」から。シンちゃんが素直に恥ずかしいといえる子だったら、こんなことにはならなかった。大事なお友だちを絶対に守ると誓っていたのに、前代未聞のお手製銃の凶弾に倒れて守りきれなかった。国民の半分以上が反対する国葬をお友だちが断行してくれようとしているのに、その前に史上最大の「本物の国葬」が挟み込まれてきた。ブラックユーモアが過ぎるこんな時に、小田嶋さん、なぜいないのか。コロナ禍直前の2020年1月28日に書かれたあとがきの最後、「大丈夫、われわれはやり直せる。日本もきっと立ち直ると思う。大丈夫だ。ありがとう。ありがとう。」を信じるしかない。そして、昨日の(惜別)記事で、亡くなる数日前にジョン・レノンの平和を願う歌を4コーラスも歌ったと知って、泣けてきた。カッコいいぜ。

映画業界的には、今週はジャン=リュック・ゴダールの死を悼む。もちろん何本も観ているが、リヴェットやロメールほど好きな作品はない。殆どがDVDでしか観ていなかったが、劇場で観た『女と男のいる舗道』のアンナ・カリーナが美しく、一番好き。最近劇場上映していた『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』を観ようと何度も計画していたが、かなわなかった。ゴダールといえば、フランス映画社の柴田さんを思い出す。リヴェットの『恋ごころ』のパブリシティを引き受けていた頃、確かゴダールの映画史の作業をされていた(BOWのHPを発見したが、本物だろうか)。あなたの「あらまほし」は何だと責められて答えられなかったときに、難解なその頃のゴダールと柴田さんが重なって見えた。スイスで自殺幇助と聞いて思い出したのは、『母の身終い』の最後のシーン。90歳を過ぎても自分の最後を自ら演出したのは、映画監督として完璧すぎる。

明日は「本物の国葬」。生中継とかあるのだろうか。棺の上に置かれた王冠を見て、あれ?どこかで見たことある。引き出しをひっくり返して探したら出てきた、王冠のポストカード。在位60年のダイヤモンド・ジュビリーで湧いていたロンドンに1ヶ月滞在していたときに買ったものだった。ハロッズで見つけた愛らしいコにしっかり抱えて貰う。R.I.P.

2012年のロンドンは五輪、ジュビリー、キャサリン妃ご懐妊と、本当に輝いていた。


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