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今週のkinologue【9/26-10/2】

10月になったというのに30度超えの残暑って、もうこれからはデフォルトなのか。早く長袖一枚が気持ち良い季節になってほしいものだけど、きっとそんなのはあっという間に終わって、ウルトラライトダウンな日々になってしまうのだろう。今週は9月末締め切りの論文を何とか投稿し、机まわりを片付けて新学期に備える。模様替えで机を動かした瞬間に、ギックリ腰一歩手前のピキっとした痛みが走る、、、これまで何とか耐えていたのに遂に来たか。とりあえず、うちの唐辛子で魔除けを作ってみた。ギックリ、退散!

今週は次回配給作品の初号試写があり、試写後の反応も上々。やっぱりスクリーンで観ると気づくことがいっぱいある。初めての座組みで、いよいよ本格的に始動。ここ数ヶ月、ぼんやりと思っていたことを形にしていかねば。楽しい企てもいろいろしたい。もう1本の映画で久しぶりに予告編ナレどり。しかし、イマジカが竹芝に移転していたとは全く知らなかった。五反田のイマジカ第一試写室には思い出が多すぎる。まだ建物はあるそうだが、ガランとしてもう何もないとか。何だか切ない。

竹芝周辺は同じようなビルばかり。五反田〜浜松町の開発地区は区別がつかない。

論文を無事書き終えたお祝いに、会期終了間近のゲルハルト・リヒター展@近美へ。遠目からも何だか人がわさわさいるなぁと思ったら、19時からの整理券配布中と告げられる。がーん。そうだよね、、、会期終了間近なんだからちゃんとtwitterチェックするべきだった。しかし、お祝いだし引き下がれない!と意味不明な思い込みで、コレクション展を見ながら時間を潰す(藤田嗣治の戦争画とか良かったなぁ)。30分前から並んで入ると、ものすごい人!若い人が多いのも驚く。ほぼ写真が撮影フリーなのでバシャバシャみんな撮っていて、なんだか慌ただしく、落ち着いて観るような雰囲気がない。人の流れもないので、どこから観ていいのかもわからず、こういう時は音声ガイドに頼る。ガイドの声は鈴木京香。最近有名建築物を買ったりしてるし、アート志向なの?とどうでもいいことを思いながら、聞き入る。この「8枚のガラス」は入ってすぐのところに、どーんとあった。

白枠に入って近づきすぎるとすぐに係員が飛んでくる。人がたくさん映り込むのも作品の一部。
閉館時間間近は随分と人が減って、落ち着いて観られた。

リヒターについてはほぼ予備知識なく行ったが、御年90歳、そのうち60年のアーティスト人生のアイデンティティはドイツ人であることだったのだなと「ビルケナウ」を観て思った。これが2014年の作品と知り、ここまでに長い年月がかかった理由を想像した。昔、12月のベルリンへ旅に出たとき、デッサウまでバウハウス建築を見に行って、16時には暗くなるからいそいそと帰った。予定の電車に乗ったが、急に止まって何やらドイツ語で車内放送。その後、みんながゾロゾロと動いていく。何が起こったかわからず、オロオロしていると、ドイツ人の老夫婦が英語で声をかけてくれた。「電車が故障したから、これからバスに乗り換えるのよ。一緒に行きましょう」。iPhoneが誕生する前の話で、辺りが真っ暗になっていく中、どんなに心強かったか。移動する間、その夫婦と色々話をした。私がブランデンブルグ門近くの虐殺されたユダヤ人のための記念碑を見て、日本人が出来ていないことをドイツの人たちはちゃんと一等地でしていることに感動したと話すと、黙って聞いていた旦那さんが言った。「君がそう思ったことには意味があると思うよ。でも僕はまだ行けないんだよ、あそこには。この先も行けるかどうかわからないな」。あの戦争を受け止めるのは、そんなに簡単なことではないのだと思い知った。「ビルケナウ」を観て久しぶりにその時のことを思い出した。

隠し撮り写真の模写の上に塗り込んだ4枚の抽象画と4枚のその写真が対面になっていて、
グレーの鏡に映る。鏡と対面するのは小さな収容所の隠し撮り写真。

展示設計もリヒター自身が指示。「ビルケナウ」にも展示のパターンがあるのだろう。「4900の色彩」には11パターンあるらしい。次の豊田市美術館では、違う展示パターンが観られるのだろうか。様々な技法を駆使し、変化し続けられる才能の持ち主であることがよくわかった。展示の最後は、「もう絵は描かない」と言った後に、グラファイト鉛筆で描いているスケッチがたくさん。パンデミックが続く世界を共に生きている作家なのだと感じた。


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