真顔でボケる文章術

むかしガラケー時代に、着信音を好きなメロディーにカスタマイズする機能が加わった。
MIDIデータをDLして、当初は単音、後に和音も付いた。
そこで「クレージーキャッツ」を見付けてDLしたが、どうも面白くない。スライディングホイッスルの音など入れてコミカルにしているのだが、それがむしろ滑る。
やはりクレージーは植木氏が朗々と歌い上げて、オーケストラが華やかでないと。

そこで気付いた「大真面目に馬鹿やる方が面白い」。

地元DJで敬愛して止まない上岡龍太郎師も、あくまでも「真顔」で、皮肉の効いた暴論を理路整然、立て板に水で力説されていると、笑いが生まれた。

「型があるから型破りが出来る、型が無ければ単なる形無し」。中村勘三郎氏の言葉だという。全く同感。

水の中で手足をバタバタさせても、さっぱり前に進まないが、プールサイドを蹴れば、スイーッと進みますね。この場合の壁に該当するのが型だと思います。
花や出土物の写真を撮っても大きさが分かりませんが、横に煙草の箱を置くとサイズが分かります。今はスマホを置くのかな。
基準があって初めて、逸脱が分かるのです。

冗談を言ったり演じたりする場合も、真面目な部分を残す、または高い技術、壮大や崇高があると、落差が引き立ちます。
前述のクレージーキャッツ、植木氏はわざわざ声楽を習われたそうです。
一流のコメディアンたちも、高い身体能力や音楽性を身につけていたり、周到なリハーサルを積む方が多かったそうです。
「これが○○さんの味だから」といった逃げがあると、結局はファンだけ、身内だけ、サクラだけ、にウケる代物に終わると思います。

だから、笑いを狙った文章を書くとき。
商用に使えるほど、端正な文が書けると、笑いも取りやすい。

以前、多摩地方版の編集を担当した日の夕方。取材から戻った若手記者がえらい勢いで電話をくれました。
「すいません! JR青梅線がシカと衝突したとFAXが来て、都内でこんなことがあるなんて、面白い記事になると思ったんですが……………取材に出てたもんで気付くのが遅れ、JRに取材しても詳しく分かる人が帰った後で」

要は、情報は少ないが、紙面デザインで面白くできないか?とのリクエスト。そこで私は違う提案をしました。

「取材に出てたんだから貴方は悪くない。ここはひとつ、無理して面白くしようと考えるより、徹底的に紋切型の鉄道事故原稿を書いてください。JR担当者が交代しても型通りの広報はできるでしょう。JRに電話して、特に影響人員を聞いてください」

しばらくして、弾んだ声で電話があった。
「電話しましたっ! 影響人員7人!w」
JRの回答で、私の意図が完全に分かったようでした。

シカと衝突 7人に影響
○日午前○時ごろ、■■市■■のJR青梅線で、▲▲発××行の普通列車(○両編成)がシカと衝突。この事故で列車は現場に■分間停車、7人に影響が出た。けが人はなかった。JRによると現場は………

みたいに仕上げたかと思う。
「いやぁ、勉強になりました」
「いえ、まぁ、無理せずに、真顔でボケるんですよ」

新聞記事というのは、紋切型の宝庫ですから、馬鹿馬鹿しい話、意外な話、大真面目に伝えた方が、虚を突かれて笑ってしまうんですな。

人が亡くなっている話なので笑ってはいけませんが。むかし、ある山中で、カバンに入った女性の死体が発見された事件があって。
職場では「ピーポーピョロッ」と、スピーカーから通信社の速報が流れてくるんですが。
いつもの緊迫感ある声で、大真面目に。
「女性の死体が発見されたを、女装した男性の死体が発見された、に訂正します」と読み上げられたもんだから、申し訳ないことに、もうゲラゲラと。
「こんなん、間違うもんなんやな」
「そら、出してみて、ちゃんと調べはったら、分かったんや」

脱線しました。
紋切型にハメることで、逸脱がハッキリする、という見せ方も有効なのですよ。

息子の中1英語で
A:  I'm from Australia.
B:  So, do you play rugby?
A:  No, I don't play rugby. I just watch it.
だったかな。
「私は豪州から来ました」
「それじゃ君はラグビーをしますか」
「いいえ、私はしません、見てるだけです」

この文を参考に自分で作文しろ、とあったので、私は息子をそそのかした。

A:  I'm from Otsu city.
B:  So, do you play Ijime?
A:  No, I don't play Ijime. I just watch it.
「私は大津市から来ました」
「それじゃ君はいじめをしますか?」
「いいえ、私はしません、見てるだけです」

豪州を大津市、ラグビーをイジメに、2語変えただけだ。大津も江州だし。
息子は大笑いしてたが、後日、英語の先生は怒ってた。何も間違っていないのに。

自由演技よりも規定演技。
全裸よりスキャンティの方がいやらしい。
何か、標準を残して逸脱する。
こういう手法です。

替え歌なんかも同じ理論ですね。
元があるから笑える。

左翼の人が「風刺」と称して流している、替え歌も画像も動画も、何故つまらないのか?
左翼は目いっぱい改造して原型を留めないので面白くならないのです。本当は改造範囲が小さいほど良い。
まぁ左翼の自称風刺に笑いは要らなくて「作った」と上に認めてもらえたら満足するのでしょう。






いいなと思ったら応援しよう!