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夜の儀式

歳をとってから夜の「儀式」がやたら面倒くさくて閉口している。

若い頃は寝る前にシャワーで汗を流し、せいぜい化粧水と乳液を塗ったらそのままベッドにもぐりこんでおしまいだった。儀式なんか何もなかった。

ところが歳を取ると、それだけではとてもすまない。

たとえばこんな風だ。風呂から上がるとまず、病んでしまった肩に病院からもらった湿布を貼る。50じゃないのに五十肩になった。痛い。自分で貼ると変にシワがよったりズレたりするので、タオルを巻いたままオットを呼ぶ。

「おとーさん、湿布はって」

貼ってもらうと肩がスースーする。効いているような、いないような。来週はまた肩に注射を打ちに行かなければならない。ああ嫌だ。

肩をかばいつつパジャマを着る。左肩が痛いので、まず左袖を前に持ってきてそーっと腕を通す。それから無事な方の右手を思い切り後ろに回して着るのである。今は肩だが、背中が鉄板みたいだったり腰が痛かったり胃が重い時もあり、オットはしょっちゅうわたしに湿布を貼っている。

「オレ、こうやって一生あんたに湿布貼るんだな」

とても感謝しておりますよ。いつも湿布臭くてごめん。わたしも貼ってあげるよ。二人で臭けりゃこわくないわ。

さて、今日はでかいマスクをしていたのに何故か顔が日に焼けたみたいに熱いので、パックをすることにした。いつもすることじゃないので、パックの時は気を付けなくてはならない。まず家族全員に宣言する必要があるからだ。

「お母さんこれからスケキヨだから!」

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前に言わないでいたら、たまたまキッチンにやってきた息子と鉢合わせして「ぐぇああああ!」と動物がつぶれるような悲鳴を上げられた。わたしに似てホラーが大嫌いなので衝撃が大きかったらしい。ううむ気を遣う。後になって実は息子はスケキヨを知らないことが判明した。これからはカオナシと言わなければならないだろう。

パックがすむと美容液と化粧水と乳液をペタペタする。気休めだが、多分、やらないよりはマシだ。きれいにはならなくてもこれ以上きちゃなくなるのは防いでいるはず。

それから歯を磨く。

歯も、さんざんいろいろあって歯医者からガッツリ指導されている。まず小さめヘッドの普通の歯ブラシで小刻みに力を入れないで磨く。歯一本につき10回、それを上下表裏ぜんぶ磨く。すべての面にあたってプラークが落ちるようにがんばる。それから歯間ブラシで落ちきれない歯と歯の間の汚れをきれいにし、最後にタフトブラシという三角形をした小さい歯ブラシで届ききらない奥歯の裏側などを仕上げる。真面目にやると20分くらいかかる。

さらに皮膚科からもらった軟膏を塗る。いまは口唇。下唇の中央部の表皮が剥けたまま再生しないのだ。ヒリヒリするし痛いし腫れるのでもらった薬をつけている。早く治って欲しい。唇が大丈夫な時は鼻の脇にヘルペスができていたり、まぶたが腫れて痒かったりしている。若い頃は超疲れた時の口唇ヘルペス以外なかったので、いろいろつけ加わったのは加齢が原因だろう。皮膚科ともなかなか縁が切れない。

そこまできたら寝る前の薬を出して飲む。毎日飲むものばかりではない。頓服とか便秘した時のみとか、いちいち確かめなければならない。面倒くさい。

そして寝付きの良さを誇っていたのに、入眠障害と中途覚醒と早朝覚醒に悩むようになったのはいつ頃からだっけ? 決して病気というわけじゃない。加齢でそうなってしまうのである。なんとかするために寝る前にストレッチやヨガの真似事をする。ちなみに今現在は肩も股関節も痛いのでやれていない。

スマホは大敵なのでリビングに置いた充電器に刺してそのまま寝室に行く。これは鉄則。それでもこの頃は寝付きが悪く、昨日から友人に勧められた目の温湿布を試みている。寝る前にたくさんやることがあって本当に大変だ。半分以上は加齢のせいだと思う。

本の虫なので寝床に入ってから意地汚く本を読もうとするのも良くないのだろう。けれどこれはもう身に染みついた性癖でやめられない。

気をつけなければならないのは、ちょっとでも感情を動かすタイプの本を読んではいけないということだ。若い頃は、寝る前にミステリーを読んでも疲れていればすぐに寝付くことができた。今はダメだ。ストーリー性の乏しい軽いエッセイか、さほど面白くない位の本でないと眠れなくなってしまう。その昔、大学の一般教養で使った岩波書店の数学の本なんかは眠りやすい。ただし、重い。軽く小さくて、適度につまんない本があればぜひ教えてほしい。


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