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土木業は底辺か?

「でも真夏、蒸れたカッパ着てる時、うなじのとこから水が入ってきたら『底辺だなー』って思いますよ」

 Y君は自嘲気味に言った。
 僕に「転職は成功したって思いますか?」と質問し、僕が「まあ……良かったんじゃないかな」という返事した直後。
 彼は22歳で5年目。
 かなり現場のことが分かり、かつ仕事をこなすのでベテランからも中堅からも一目置かれている存在。
 底辺という強い言葉は、多分現場ギャグだろう。
 難しくて危険な仕事をしている矜持が50、労働環境の悪い仕事に就いた後悔が50。
 僕は吹き出して「そんなこと、あんま思わん方が良い」と言うと「でももっと勉強しとけば良かったって思いますね」ニヤニヤしながら言った。
 ニヤリと笑いながら言ったので、ギャグだと言うことにした。
 
 偏差値40台の高校にいき、そのまま就職。一生ブルーカラー、という痛烈な自虐。
 僕はハハハと笑うしかなかった。

 これがなぜ笑えるのかというと、実際本人は底辺だと思ってない、となんか分かるからだ。

 鋼矢板圧入に関して「トップクラスの技術をもつ会社だ」「つまり日本でトップクラスの技術をもつ先輩がいる」「その人と仕事している」という矜持があった。
 よく分からないがこの会社は、その分野じゃ名門らしい。

 底辺かぁ、と思った。
 僕は底辺に来たのだろうか。
 「自分は底辺だとは思ってない」「けど、そう思われても不思議じゃない」という半々のゆらぎの中に生きていくような予感がある。

 僕はわりかし落語が好きだ。
 時に酒と博打で失敗し、時に人情にほだされる<お職人さん>の噺なんかは結構好き。
 昔からこの手の噺は人気だったらしい。 

 江戸っ子の職人のようになれたらと思う。
 宵越しの金は持たねえ、というのは「金はこの腕の中に入ってる=すでにずっと先まで仕事が入っているから明日の心配はない」という意味だと聞く。
 つまり腕の良い証。
 もう一つ。
 「貯蓄なし=生涯現役宣言」である。
 宵越しの金は持たねえ。そう解釈すると、粋でイナセな台詞だと思う。

 ちなみに。
 いくら底辺と自虐してみても(稼ぎはかなりいい)という腹の底があるし、それも踏まえて笑いになっている感じもある。

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