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読書感想文 『ブラックボックス』砂川文次 著

たまに本屋に2時間とか3時間いくことがある。
普段はネットで目当ての本を買うか、Kindleでダウンロードしたりするが、書店で本を見ることは別格なのだ。

自分に一切関係がないとか関心がなかった本にも出会うことができ、その本との出会いが考え方を大きく変えてくれることもある。

そんなわけでその日も池袋の某ビル型ブックストアにてこの本と出会った。

最近はもっぱらビジネス書、問題解決のための本、専門書、資格教本ばかりを読み漁っていたので小説を読む機会がめっきりなくなって飢えていたのかも知れない。

無意識に小説のコーナーをウロウロした結果、なんだか格好良さそうなタイトルと帯の「芥川賞受賞」の文字に心惹かれて(権威に弱いわけではないつもりだけど)手に取ってしまった。

帯には以下のような心惹かれる文が↓

ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。
自分の中の怒りの爆発を、なぜ止められないのだろう。
自転車便のメッセンジャー、サクマは都内を今日もひた走る。

なんとなく共感するようなところがあり、なにか自分へのヒントになるかもと読み始めた。

あらすじとしては単純?で
自転車を使ったメッセンジャーとして歩合で働くサクマという男の生活を追うもの。

サクマは定職について長く働くことを得意とせず、かつ自分の怒りが抑えられないところがあり最終的にそれが原因で職を転々とすることになるという話。

最初こそ自分の立場によく似ていると感じて共感していた。私自身、現在はフリーランスで出来高で働いておりここ数年は4度も転職をしている。有り難いことにすべての会社で正社員として雇ってもらったにも関わらず、だ。

辞めたときの原因がサクマと同じように怒りに任せての部分が大きく、自分とどこか似ているサクマはどうなっていくんだろう?と途中までワクワクしながら読み進めた。

サクマと私が大きく違う点は2点あると感じた。

1つは暴力行使の有無。サクマはカッとなると暴力をふるってクビになっている、当然これは自分とは違った。

2つ目は、物事を考えることをすぐに放棄する点。自分の線引で難しいと感じることをすぐにシャットダウンしてしまうところも大きく違った。

ただ、どちらもとても人間くさいところはいいなと思った。現代人は、倫理的や立場の問題から暴力を行使しないだけでそういう衝動は起こるときは起こるものだ。(抑えられるかどうかは個人の気質によるが。)

その点を取り繕うことなく淡々と書いているし、何しろ本人が深く考えることを得意としておらず衝動でやってしまい、その反省がネチネチしたり自分に都合のいい言い訳をしない点も読みやすかった。

ただ、上記の2点を直さないままでいたために最終的には残念な結果になってしまう。そして話はそのまま終わってしまい、自分と重ね合わせて読み始めた私としては残念な気持ちで読了し本を閉じた。

環境の描写は素晴らしく、自分が知らない世界のことなのに目に浮かぶような文章で引き込まれはしたものの、端的に言えば『特にオチもない』話だったのでスッキリしたり納得したりは出来ない本であった。

芥川賞ってなんだろう…?と改めて他の受賞作を読んでみる気になったのは良かったかもしれない。

ちょっと残念ではあったが、この本に何を期待して読むか?で満足度は変わるので、あくまでもこの評価は私なりのものということでm(_ _)m

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