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出版社の人に会いに行く~柏書房~ ①

「ガチ本フェア」のパネル

2022年に
『24歳新入社員がガチで選んだ同世代に絶対読んでほしい柏の本フェア』

2023年に
『3年目の壁にぶち当たった私がガチで選んだ仕事とか恋愛とか人生とかについてモヤってる同世代に絶対読んでほしい柏の本フェア』

を2年連続で成功させ注目されている柏書房の若手営業・見野さくらさん
この通称「ガチ本フェア」が今年2024年、第3弾の

『後輩に抜かれつつある私がガチで選んだ同じプレッシャーに苦しむあなたに絶対読んでほしい柏の本フェア』

で残念ながら最終回になると聞き、3年間の「ガチ本フェア」への思いを聞きに文京区の柏書房さんへインタビューに行ってきました。見野さんの上司である木村俊介さんにも参加していただきました。
(聞き手:紀伊國屋書店横浜店 千葉拓)


「柏書房への入社は、ある本との出会いがきっかけだった」

千葉「今日は個性的なフェアを毎年企画して注目されている柏書房営業部の見野さくらさんと、上司の木村俊介さんにお話をうかがいに柏書房さんまでやってきました。ではまず最初に、見野さんが出版社で働いてみたいと思うようになったのはいつ頃からですか」

見野「いつ頃だろう…。小さいころから本が好きだったので、なんとなく興味は持っていたんですけど、本当に出版社に入ろうと明確に意識をし始めたのは就活が始まってからですね。でもその根っこを深く掘っていくと、
小さい頃に母から「さくらは本が好きだからいつかきっと出版社に入るね」って言われたことが心の中にずっと残っていて、それが種になっていたのかなと思います。母は今も「あの時私がそう言ったから出版社に入れた」みたいなことを言うんですけど(笑)」

千葉「出版社に入ろうと決めて、たくさんの出版社に応募したんですか?」

見野「もともと大学4年生の時にアメリカに留学に行ってまして、本当は一年の予定だったんですけど6カ月目でまさにコロナに、ぶつかりまして」

木村・千葉「ああ…」

見野「一年留学する予定が、アメリカはロックダウンになって全てが停止してしまって、結局9カ月の留学になって、日本に帰されて6月に戻って来たんですね。で、私の周りの同年代はみんな就活が終わってバイトをしたりしていて、そんな中わたしは何も決まっていない。まだアメリカにいる予定だったから、何にも準備していない状況で帰って来た時に、就職浪人をさせてくれないかと両親に打診したら、「そんなことをしたら家から追い出す」と言われて(笑)。絶対に今回卒業・就職しろと。そこから急ピッチで就活を始めるというスタートだったんですけど、もう大手も中小も出版社はほとんど応募を締め切っていて。あと出版社は経験者採用が多いので、闇雲に書類を送ったり、電話で「今募集やってますか」と聞いたりしていたんですけど、やっぱり全てダメで。9月くらいまでやって、もう出版社は無理だなと思ったので全く方向を変えて、エージェントさんから送られてくるメールのままに、どんな業界でも受けていたという感じの就活でしたね」

千葉「では、柏書房さんとはどんなきっかけで出会ったんですか?」

見野「就職エージェントから色んな業種が送られてくるんですけど、やっぱり興味がない業界への応募は気が乗らなくて…。結局そういうのはバレちゃうので全部落とされて、何もうまくいかないって思いながら就活をしていました。そんな時、たぶん年が明けたころだと思うんですけど、近くの本屋さんをぶらぶらしてたら、あの、あったんですよ、この『だから私はメイクする』が」

見野「私すごくメイク好きなので、かわいいなと思って手に取ったら柏書房の本だったんですよ。私もともと平安文学を大学で専攻していたので、柏書房をちょっと知っていたんですね。中世文学の授業で教授が柏書房の本を読みなさいというのを聞いたりしていたので、あんな難しい本を出している柏書房がこんなポップな本も出しているということに驚いて。で、ホームページを見てみたら「社員募集してます」と。中途採用募集だったんですけど、もう後もないし、ダメでもいいからチャレンジしてみようと半ば投げやりな気持ちで履歴書を送ったら、一回会いましょうということになったのが、面接につながった最初ですね」

千葉「じゃあ、まさにこの本がきっかけなんですね」

見野「そうです、ほんとに」

千葉「出版社の営業という仕事は、入社前はよくわからなかったのではないかと思うんですけど、応募するときはやはり編集のイメージで応募されたんですか」

見野「そうです。私の中の編集イメージは、漫画とかに出てくる書類の山に埋もれてずーっと一日中、文字を書いていたり著者の方と話し合ってるというもので、出版社にはそういう仕事をしている人しかいないと思っていたんです。でも、面接のときに実は出版社にも営業の仕事があるんだよ、と社長に言われたんですね。営業という仕事は、ざっくり言えば本を売る仕事ではあるんだけど、そういう営業の視点からもう一度履歴書を書いてきてくださいと言われたんです」

見野「一回目の面接のときは編集になりたいと思って履歴書を書いていったんですけど、最初から編集の仕事をするのは厳しいし、話しているとあなたはたぶん営業向きだから(笑)、営業の目線で履歴書を書き直してください、そしてまた面接をしましょう、と言われました」

千葉「その時は営業の仕事の内容を、細かくは知らされていなかったんですか」

見野「全然教えてもらってないですね。偶然私の親戚に出版社で働いていた方がいたので、その方と話をして出版営業というのは本のあるところ全て、書店とか大学図書館とかそういったところに本を売りに行く仕事なんだよということを教えてもらいました。それをふまえて、履歴書を営業目線で書き直したというところがありますね」

千葉「それでもう、スピード採用みたいな形で(笑)4月から怒涛の……」

見野「怒涛でしたね(笑)ほんとに。柏書房の面接が始まったのが2月の中旬くらいで3月の終わりに採用が決まりました。実はそのころ別の会社の最終面接もしていたので、3月の終わりはバタバタしながら就職活動をしていたのをよく覚えています」

千葉「採用側からすると、どんな感じだったんですか。突然年明けに学生からポンと応募が来て」

見野「ワハハ(笑)」

木村「実は私も同期になるんですよ。中途採用でそのタイミングの少し後に私は入社してるんですね。若手しかいない状況で、なんとかしてほしいみたいなところにマッチングさせてもらう形で入社したので。だから当時見野をどういう形で採用していたかというのは私もよくわかっていないんですよね」

見野「そこは後で社長に聞いていただけたら(笑)」

※後で社長さんに聞くのを忘れてしまいました。申し訳ありません………
(千葉)

「出版社の営業の仕事」

木村「書店さんに本を置いてもらうのは営業の基本ですけど、一年目だとなかなか難しいことだと思うんです。一冊一冊しっかりと、その本の内容やポイントや読者層なんかを会議ですりあわせてから営業に向かうんですけど、実際に直接書店さんと話して、現場で自分の準備したものがあってるかどうかを答え合わせしていく作業だと思うんですね」

千葉「見野さんも営業を始めて、書店員が話の前半でこの本に興味ないなとかわかったりすることは多いんじゃないですか? そういう時、そのあと後半戦どうしようとか…」

見野「新人のころは全てが怖いので、ちょっと書店員さんに「え?」とか言われると、あの人は怖い、もう絶対あの書店のあの担当さんには話しに行けないって思うんです。けれど少し慣れてきた後にもう一度同じ書店さんに行ってみると、担当者の方は最初の印象ほど怖くなくて、ああ、あのときはただ忙しかっただけなんだなとちゃんとわかったりする。そうやってめげずにお話しするとわかってくださる方が多いので、その変化を感じられるのは楽しいです。対「人」という感じが、対◎◎書店とかではなく対〇〇さん、みたいなお話ができるようになるともっと楽しくなってくると思います。なので、気合を入れて本の営業をするというより、おしゃべりを楽しみながら営業をしているという感じが私はあります

千葉「学生の時までは普通に読者目線で本屋に行けてたと思うんですけど、営業の仕事を始めてから本屋に行った時の見方は変わりましたか?」

見野「まずPOPをすごく見るようになりました。書店員さんが書いてるのか、それとも出版社が書いているのかというのを特に。あとは、うちが人文書の出版社なので、人文書の棚にまず行って、うちの本や他の人文書がどれくらい置いてあるのかを見ます。そして、高価だけどしっかり売れている本がきちんと置いてあるのを見ると、この本屋さんはすごいな、と思ったり、小さい本屋さんでも、こんな堅くて高い本を置いてくださっているんだ、ということは見るようになりましたね」

見野「あと、地域ごとに歴史の本の比率が違っていて、例えば東京だと戦国時代の本とかが売れて棚の幅を取っているんですけど、京都に行くと古代とか、関東では少ない分野の棚のものが広くとってあったりします。地域が変わるだけでこんなに棚の配分が違うんだという地域性の発見などもあります」

木村「私もこれまで一日5~6軒書店さんを訪問してきて、30代の頃とかほとんど日中は書店さんにいるような毎日だったんですけど、そうすると、見野のいうようにPOPを見たりとか、どうやって今度の企画を案内しようかなとか、あの人いるかなとか、そういう営業目線でしかずっと本屋さんを見れなかったんです。でも最近オフの日に本屋に行くと全然見え方が違うんです。それは自分が二人いるんじゃないかと思うくらいで、同じ場所で同じお店だとしても違うように見えてきて、それはほんとに不思議ですね」

千葉「本屋の人間でも、休みの日に本屋に行くと全然見え方が違いますね。休みの日にも本屋に行くのか、みたいな感じですけど(笑)」

木村「でもそういう目線で行かないと、お客さんがどういう風に行動するのかということがわからなくなってきちゃう。だから、休みの日にも本屋に行くというのは重要なんじゃないかなと思うんです(笑)」

見野「私はまだ、休みの日に書店さんに行くと結構緊張しちゃうんですよ。本の匂いを嗅ぐと、わーすごい仕事思い出すわーっていう。木村さんはすごく長くやってらっしゃるので、そのような感覚になると思うんですけど、私はまだ仕事の延長線上で見ちゃうなっていうのはあって。早く木村さんの境地に達したいです(笑)」

木村「探しに行くんですよね。自分がお客さんとして本を選びに行く時は、何かを見つけに行くぞって。読みたい本を探しに行くのと、本を置いてもらいに行くのとは大きな差があると思います」

木村「あと、書店員さんと仲良くなってくると、本をおすすめしてくれる人もいるんですね。絶対自分では手に取って読まないだろうなという本でも、教えてもらって読むと、面白いなーということもあるので、そこは出版社営業のお得ポイントですね。読んだ本の面白さを誰かと共有したいっていう気持ちがすぐに満たされる」

見野「うんうんうん。書店の棚に担当者がいるということを、営業の仕事をしていく中で私は初めて知ったんですけど、この担当の人はこの本をガチで推してるんだろうなっていうのをお客さん目線からもわかる形で置いてあったりするとなんかグッとくる。この棚の担当の人とおしゃべりしてみたいなっていう気持ちになるので、棚担当の人と仲良しになるメリットは確かに出版社営業は非常に享受しているところだと思います」

②に続く