残酷な天使のテーゼと宇宙戦艦ヤマトとカラオケ。

カラオケボックスに行って、「何歌おうかなー」ってとりあえずランキング見ると、必ず「残酷な天使のテーゼ」が入っている。

これはなかなかすごいのではないか。なんせ、新世紀エヴァンゲリオンは1995年のアニメだ。(wiki調べ)。

20年以上前のアニメソングが、今もカラオケでよく歌われるランキングトップ10にいるのだ。

そんなにカラオケ行かないのでたまたまかもしれない、またはわたしがよく行ったカラオケボックスが秋葉原だったからかもしれない、という不安にかられて只今サクッとカラオケランキングを検索してみたけれど、今週も元気にJOYSOUNDの週間ランキング6位に入っていたので、おそらく「常にランキング10位以内にいる」っていうのは気のせいじゃないはず。

リアルタイムでエヴァを経験した世代なので、「残酷な天使のテーゼはいい曲だからなあ…」などと思ってしまうけれど、20年以上前のアニメソングっていったいどんな感覚なのかを考えるために、とりあえずアバウトに今現在から20年くらいさかのぼった2000年ごろから、さらに20年以上前のアニメを考えてみよう。

古いアニメで、1期の主題歌が有名で、今でも歌われることがあるものの中でなんとなく知ってるやつというと、宇宙戦艦ヤマトあたりだろうか。

劇場版とかだと、すでにテレビシリーズで人気があったものが劇場版になるため、必ず売上が見込めるし予算もあるしで、けっこう大物アーティストが歌っていて、曲も有名、みたいなパターンもあるけれど、新規アニメの1期OPがそのまま有名、っていうと宇宙戦艦ヤマトくらいしか思いつかなかった…。

つまり、2000年になっても宇宙戦艦ヤマトのOPテーマがずーっとカラオケのランキングに入っている状態、みたいな感じ…?

おそらく、「カラオケボックス」という文化が日本の端々の末端まで届き始めたのが90年台初頭で、その頃から飛躍的にごく普通の一般人がフルコーラスで気持ちよく歌を歌うことがめちゃくちゃに増えたところに、社会現象になるほどヒットしたアニメの主題歌、といういろんな条件が重なって、残酷な天使のテーゼは今もカラオケランキング上位にいるのだと思う。

カラオケボックスで気軽に誰でも歌う文化が、もし1970年頃に根付いたのだとしたら、2000年なのに未だに宇宙戦艦ヤマトが10位以内にいる、みたいなこともあったのかもしれない。

そういえば、亡き父はカラオケという文化にがんばって後対応していた。たぶん、昔は「スナック」だとか「キャバレー」だとかいう場所にしか、カラオケがなかったものが、急に降って湧いて「カラオケボックス」なるものができ、「飲み会の二次会ではカラオケに行きたいと会社の若いものが言い始める」という運びになるにあたり、上司としてもさして歌が得意なわけではないのだが、とにかく何か1曲くらいは歌わねばならなくなってしまった。

最初は自分の好きな「マイ・ウェイ」を十八番として歌っていたけれど、どうも会社の若い人にウケが悪いようだ、ということを察して、何かいい曲はないかと悩んでいた頃、小学生のわたしが、学校で朝や夕方のホームルームで歌う「今日のうた」という小学校の独自の習慣のために児童全員に配られている歌の本の中に、童謡にまじって「宇宙戦艦ヤマト」があるのを発見し、「これを今の子どもたちは知っているのか?」ということを聞かれ、これはクラスでも人気でよく選曲(歌は日直がチョイスするので、人気曲はわりと頻繁に歌うことになる)され、我々は「うちゅーうせんかんとーまーとー♪」などと替え歌して歌っている。我々世代も知っているくらいなので会社の若い人もわかるであろう。という情報を伝えた。

この情報を入手した父はさっそく「これなら歌えるぞい!」とばかりに、意気揚々、歌う気満々で会社の飲み会に出かけて行ったので、気になって、父が帰ってきた翌日に「無事に宇宙戦艦ヤマトは歌えたか」と聞いたら、部下が気を利かせて「この曲いれときましたよ!」とすでにマイ・ウェイが入っていて、歌えなかった。しょんぼり。という事件があった。

その後、無事に「宇宙戦艦ヤマト」を自分の十八番であることを徐々に認知してもらうことができたようで、しかも若い人たちもとても盛り上がってくれる、と大変喜んでいたので、マイ・ウェイよりはよっぽどよい選曲だったのだろうと思う。

もしや、「残酷な天使のテーゼ」は今この「父の宇宙戦艦ヤマト」の位置にあるのではなかろうか。有名なアニメソングであり、アニメは見ていなくてもこの曲は知っているという人も多く。そして曲も最初アカペラでサビゆっくりと歌い上げたあと、どーん!と前奏が盛り上がり、Aメロ、Bメロと貯めて貯めてそしてまたサビがどーん!というわかりやすく盛り上がりやすい展開で、盛り上げる方も楽ちんである。

たぶん、わたしがもし残酷な天使のテーゼを知らなくても最初のサビのアカペラっぽいのが終わった瞬間に拍手して「ひゅううううううー!!!」って言ってタンバリン叩いたら大丈夫だな、って容易に察する事ができる。

そんな理由からついついみんなが歌うのではなかろうか。というか年代的にそろそろ「上司が飲みの二次会でいつも残酷な天使のテーゼ歌ってる」みたいな状態なのかもしれない。

父がカラオケで宇宙戦艦ヤマトを歌い始めた頃、30代半ばだったけれど、リアルタムエヴァ世代も、おそらく30代半ば以上だし、きっと会社でも中堅になっていらっしゃることだろうと思う。

というか、むしろとーちゃんは30代半ばでマイ・ウェイを気持ちよーく歌っていたのかと思うと、渋すぎでは?と思うのだけれど、結局、早くに亡くなってしまい、そして、自分の人生を楽しんでいたので、人生の長さから考えると、30代半ばで「マイ・ウェイ」もあながち間違ってなかったのかもしれない。そんな気がして、お葬式の出棺のときにはBGMとしてマイ・ウェイをかけてもらった。

もし今、残酷な天使のテーゼを歌う上司が、我が家の父のように、残念ながら早くに亡くなってしまったとき、お葬式では「Komm, susser Tod(甘き死よ、来たれ)」が流れるのかな…。などと思った。

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