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親フラ

『親フラ』という言葉を知っているだろうか。

これはおそらくツイキャスやニコ生を見ていた、もしくは配信していた人なら1度は耳にしたことがあるだろう。

親フラのフラというのはフラグのことで、主に家族と同居している人が作業中に親が近くまできた場合によく使われる。(使用例:「ごめん!親フラだから1回落ちます!」)

一人暮らしをしたがる学生配信者はほとんどの人がこの親フラと決別するためである。

僕は中学生時代ずっとツイキャスで配信していたのだが1つ、忘れられない事件がある。

Sくん。彼は中学生時代の僕の友人であり、親フラ被害者だ。

僕とSくんが話をするようになったのは僕が友達と配信の話をしていたのを聞いていて、彼も配信をしようと思っていると打ち明けてきたからである。

当時、YouTuberという言葉もあまり流行っていなくて、配信自体がわりとマイナーなコンテンツだった。だから同じ趣味を持った子に出会えて嬉しかったのだ。この頃はツイキャスの全盛期でもあり、どんなに話すのが下手でも必ず何人かは見てくれていたし、過疎とは無縁だった。僕は既にツイキャスである程度の人気を確保していて、先輩気分でSくんに色々アドバイスした。そしてSくんがツイキャスを始めてわずか3日でその日はやってくる。

Sくんは僕を自宅へ招いた。2回配信にチャレンジしたが伸びなかったので近くで見てアドバイスをしてほしい、とのことで頼りにされるのが嬉しかったから快諾した。とても暑くて、蝉の声にうんざりしてSくん宅向かったことをよく覚えている。

Sくんはとても声が小さかった。だからせっかく誰かが見にきてくれても挨拶が届いていなくてすぐにいなくなる、を繰り返していた。見かねた僕は自分でもちょっとオーバーかな?と感じるくらいでちょうどいいよ、というと彼はすぐに実践した。

しかし様子がおかしい。誰かが入室するたびにシャウトに近い声で歓迎していた。ここで止めておけば事件は起こらなかったのだが、面白すぎたのと、これはこれで人気出そうだなと思ったのでしばらく様子を見ることにしてしまった。そして、奴が訪れる。

Sくんがシャウトで配信を続けていると1つコメントが届いた。「腹から声出せよ」と喧嘩腰なコメント。その送り主はヨッシーの画像をプロフィール写真に使っていたので以下ヨッシーとする。

Sくんはヨッシーのコメントを見ると激昂した。彼には煽り耐性がなかった。さらにシャウトは激しさを増し、「おら聞けよ出せんだろうがよおおおお!」と叫んでいた。ウェブカメラをつけて配信していた(僕は映っていない)のだが、ヨッシーは次に「そのヒョロイ棒切れみたいな身体じゃ声も出なくて当然だな」みたいなことを言った。

耐性0のSくんは「誰が棒切れじゃい!」と言いながら服を脱ぎ捨てた。この時には視聴者が結構増えていたのだが、Sくんはヒートアップしているため全く気付いていない。

ヨッシーは言う。「細すぎワロタwどうせ下の毛も生えてないw」

僕は嫌な予感がしてSくんを見たがもう遅かった。彼は脱いでしまった。彼の下半身は電波に乗って今旅立とうとしていた。脱ぎ終わったぐらいの時に突然部屋の扉が開く。

「Sちゃん?すごい声出してたけど大丈夫?」

Sの母だ。

時が止まった。


SくんはアカウントをBANされ、配信を辞めた。

母には丸1日怒られたらしく、それを僕に話しながら思い出し泣きしていた。彼は本来シャウトとは無縁そうな大人しい子で、成績も優秀、家から想像するに多分お金持ちでもあった。母のショックは相当なものだっただろう。

彼はその後勉強に打ち込んで難関校に進学していった。配信と距離を置いたからこそ合格したとも考えられるので、あの事件が起きてよかったのかもしれない。幸い下半身は流出していなかったみたいだ。

それ以来会っていないが、彼は今も配信から距離を置いているのだろうか。

配信にはそれなりの危険が伴う。もし配信に興味を持っている人がこれを読んでいたら、ある程度の煽り耐性を身につけてから臨むことを強く、強くおすすめする。





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