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エロと僕と家族会議

僕はあまり性欲が強くない。

開幕から品位を疑うような書き出しに辟易した人もいるかもしれない。でも今日はずっとこの調子なので苦手な方は画面を閉じることを強く推奨する。

本題に戻ろう。性欲が強くないとはいったが全くないわけではない。だが女性の裸体を見ても「曲線美が素敵」だとか「足細くて羨ましいな」といったような感想を抱き、芸術品を見てるような気分になるのだ。どちらかというとジャズやファンクを聴いている時に好きな音階やリズムと出会えた時のほうが性的に興奮する違ったベクトルのド変態である。

しかし昔からこうだったわけではない。僕も立派な男なので、思春期にはそれなりに性への関心も強かった。

僕は小学校4年まで手をつなぐと子供が生まれると思っていた。もし仮にそんな世界線が存在すればきっと陸地は余すところなく人で埋まっていたに違いない。

さて、そんな僕に性知識を授けたのは友人であるKくん。彼は地元の小学校の誰よりも先に性知識を網羅していた。なにを聞いてもすぐにわかりやすい絵と説明で返ってくるため、うちのクラスは彼を「エロ魔人」と呼んでいた。

ある時、エロ魔人は僕に尋ねた。

「君は子供がどうやって生まれるか知っているかい?」

僕は自信満々で「簡単だよ、手を繋ぐんだろ?」と返した。するとエロ魔人はにやにや笑いながら僕ににじり寄り、手をつないだ。

(!!!!生まれる、、、、!?)

警戒したが、子供は生まれなかった。確かに思い返せば女の子の友達や母親と手をつないでも生まれたことがなかった。戸惑う僕を見てエロ魔人は言った。

「子供は、セックスをしてできるんだよ」

今まで聞いたことがないその単語を、僕はオウム返しする。彼は続けて言った。

「パソコンで調べてみるといい。そこに答えはある。」

そう言い残し去っていった。エロ魔人の顔は全然かっこよくないのだが、その時の後姿はなぜか凄くかっこよく見えた。

家に帰ると僕は父親が1ヵ月ほど前に購入したばかりのノートパソコンを開いた。そしてグーグル先生に先ほど聞いた単語を入力すると、検索ページの先頭に「性行為」と題したウィキペディアが載っていた。恐る恐る開く。

するとそこには、今まで僕が聞いたことも見たこともない言葉が所狭しと並んでいるのだ。原因不明の背徳感を覚えながら、概要からいろいろな言葉のページに飛んだ。その日はずっとネットの大海原を冒険した。宝物だらけである。

翌日、僕はエロ魔人の席目指して走った。昨日覚えて自由帳に書き込んだ単語たちを発表する。「うんうん」と最後まで聞くと彼はこう言った。

「次は、動画だ。」

彼はいくつかの動画サイトを教えてくれた。僕はお礼にポケモンのカードとシールを手渡した。

授業が終わると僕は光の速さで家に帰った。比喩ではなく、あの時の僕は光だった。家につくと手も洗わずにパソコンの電源を入れた。エロ魔人から教えてもらった動画サイトに飛ぶ。

そこには、楽園があった。

よく楽園をピンクで表現すると思うが、僕もあの時目に映る全てがピンクだった。それから僕は一ヵ月、毎日毎日動画を眺め続けた。そして、事件は起こる。

その日も僕は家に帰るとアダルトサイトを貪り見ていた。サイトを何個もはしごしてたどり着いたそのページは、なんだかとても整っていて見やすかった。動画を閲覧しているとすぐ画面が閉じられた。どうやらサンプルであるらしく『続きを見るにははい!を押してね!」と画面内の女性キャラクターが言っていた。僕はなんのためらいもなく先へ進んだ。

クリック。

次の瞬間、部屋中を爆音が埋め尽くした。

ウィルスである。

僕はヘッドフォンをしていたはずなのにその爆音はスピーカーから鳴っていた。よくよく聞くと外国の軍歌だと思わしき音楽であり、画面にはアラビア語のような文字が無限に湧いてくる。慌ててウィンドウを消すが、すぐに復活し、やがて増殖を始めた。そして音楽が止まると、画面にはでかでかと0が沢山の数字が表示されていて、日本語で「~日までにお支払いください、住所や電話番号は分かっているため、払われない場合はあなたの家まで伺います」といった意味合いの警告文が表示されていた。

僕はパニックになった。まずは弟に相談する。しかし小学校に入学したばかりの彼はポケモンに夢中である。次に僕は母親を呼んだ。母親はしばらく呆れていたものの、やがてパソコンを触り始めた。だが画面は消えない。父の番がきたが、父もパソコンには強くないため業者を呼ぶことになった。

数時間後、業者は帰っていき我が家は沈黙に包まれた。なんでも業者によると今回のウィルス以外にも膨大な数のウィルスに感染していて、新しいものを買ったほうがいいとのこと。まだ家族に加わり日が浅い高価なパソコンは、あっけなくガラクタに変わった。

食卓に家族が集められる。

重い空気の中、父が口を開いた。

「なぁ〇〇、そういうのが見たくなるのは普通や、なんも恥ずかしくない。でもまだ見るには早すぎる。もっと大人になってから見たらいいんや。」

母親にも同様のことを言われた。混乱しているのか何度も同じことを言っていたし長いなぁと思ったが、僕が悪いので大人しくしていた。向かいの席で弟がしてるポケモンの鳴き声に耳を集中させていた。

そしからしばらくたった。我が家に新しいパソコンがくることはなかった。思えばあの時が僕の性欲のピークだったと思う。

今でもたまに親戚の集まりに行くとこの事件の話をされる。

それが嫌で僕はあまり親戚の家に行かない。

アダルトサイトの閲覧には最新の注意を払うべきである。

これがこの話の教訓だ。


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