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外岩クライマーになるためのボルト知識

こちらは、Google共有で配布した資料のリライトです。

■ 背景… 現代的事情

昨今、全国のクライミングジム数が500を越え、クライミング愛好者人口は、60万人とも言われています。クライミングジムでクライミングに親しんだ方たちのほうが、外の岩場で登る人たちより、多数派です。そのようなクライミングジム出身のクライマーも、次の目指す先は、一般に、外の岩でのクライミングです。

そこで問題になることの一つが、

『外岩の課題の作り』と『人工のクライミングウォールの課題の作り』

の違いが、明快に説明されていないことが多い、ということです。

インドアのリード壁を登る作法 → そのまま外の岩に持ち込む

これが起こると、悪くすれば、

  死亡事故などの重大事故

になります。現に何回かそのような事例を見ています。

重大事故が起こると、当然ですが、地元の自治体からは歓迎されず、クライミングそのものも、禁止になってしまう…という結果になってしまいます。

そのような事情を踏まえ、外の岩に登る際に、最低限知っておかないといけない、ボルト強度に関する知識をまとめた資料を以前、元JFA理事長の井上大介さんと作ったことがあります。

すでに配布済みの資料ですが、NOTEで公開するほうが、多くの人に目にしてもらえるだろうということで、投稿します。オリジナルのURLも張っていますので、プレゼン資料のほうが、簡略されて分かりやすいという方はこちらをご利用ください。

■ 人工のリード壁と外岩リード課題の作りの差

1)ボルトの間隔

人工のリード壁では、ボルトの間隔は、一定で頻繁です。落下率が0.3になるように配慮して、打たれています。(落下率について興味ある方はググってみてください)

一方、外の岩のリード課題では、

 ボルトはできるだけ少なくて済むように

打ってあります。これがどういうことになるか?と言いますと… 

  どこでも落ちて良いわけではありません。

”どこで落ちても、ビレイヤーに受け止めてもらえる”という作法が通用する、稀な状況を人工的に作り出しているのが人工壁である、と、ひと昔前は一般的に理解されていたのですが、現在は、逆転現象が起きています。つまり、人工壁は知っていても、外の岩場の作りを知らない人のほうが、多いです。人工のリード壁を知っている人:外岩クライマーの割合は、10:1くらいになってしまっています。そのため、人工のリード壁に慣れしてしまうと、どこで落ちても大丈夫だという”無意識の思い込み”が、出来てしまいます。

このことが、人工のリード壁で登っていたクライマーが、外の岩にデビューする場合に、最も大きなリスクになってしまいます。(専門用語で、”ランナウト”、と言われています。ランナウトを説明しだすと、長くなりますので、興味がある人はググってみてください)

”どこでも落ちて良い”という無意識の前提が真実であるのは、人工壁でのリード壁だけです。

※人工のリード壁でも3ピン目を取る以前に落ちないように、日ごろから注意するほうがベターです。ジムでも死亡事故は起こっています。3ピン目を取るまでは落ちるな!という指導は、大変、良心的です。

2)ボルトの強度が弱い

人工壁でのボルト強度は、人為的に管理されています。一方、外の岩場でのボルト強度は、”何十年も野放し状態”です。必要な強度が出ているか、出ていないのか、は、目視判断では、分からないです。(見出し写真参照)

以上を踏まえて、今回は2)ボルト強度について、再掲にはなりますが、記載します。インドアクライマーから、外岩に行きたいと考えている方は、ぜひ参考にされ、セーフクライミングの一助にされてください。

■ 必要な強度は? 25kNです

UIAAによるスポートクライミングにおける埋め込みボルトの強度基準は、

25kN

です。

※ ”スポートクライミング”というのは、意識的に、”スポーツクライミング”を分けて使い分けられている用語です。スポーツクライミングは、オリンピック競技になるようなクライミングの事です。スポートクライミングは、ボルトによって守られたクライミングという分類です。反対は、カムやナッツ、ハーケン、などでクライマー自身が支点を打ちながら登る、トラッドクライミングと呼ばれるクライミングです。スポートクライミングは、一般に、トラッドクライミングより安全性が高いクライミングと認識されています。

※これは、ボルト自体の強度であり、設置される岩の状態は別問題です。岩が脆ければ、そこにどんなに強度のあるボルトを打っても…ということです。脆い岩場に出かけるのは自殺行為です。

※ 正体不明の残置支点を利用して登ってはいけません。例:オールアンカー、残置ピトン。

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上記支点は、登らない判断のほうが良い支点の事例です。オールアンカー+シャックルです。

■ 現時点で強度的に合格のボルト

・M10 グージョン 別名:ハイテンションアンカー、ウエッジ式ボルト 
・グルーインアンカー(FIXE社製、Petzl社製 など)
・ケミカル施工された、M10以上の全ネジボルト

です。外の岩場に行く前に、見分けられるようになる、というのが大事なことです。※ M10というのは直径10ミリという意味です。径が細ければ、強度は、出ていません。

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上記の写真が、直径10ミリのグージョンボルトの頭の見た目です。六角形に、ねじ山がついたボルトが突き出ている形状です。

例えば、次のようなボルトは、ハンガーが付いていたとしても、強度的に満たさないボルトです。(写真のボルトは、”カットアンカー”と呼ばれるものです)

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■ 直径10ミリあるかどうか?をどうやって確かめるか?

17mmのスパナを持ち歩き、このスパナのサイズに合致しないボルトは、グージョンであっても、強度不足のNGボルトと言えます。過激な墜落は、しないほうが身のためです。場合によっては、登攀もしない方が身のためです。

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■ 大体このような見た目であるのが安心できる終了点です

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この写真では、下のハンガーの角度が少し水平すぎますが、このようなアンカー(終了点)が、現代の外岩クライミングで、標準的に施工されている、十分、強度があるとされるものです。

現代、頻繁に登られている人気ルートでは、このような支点ばかりなので、一般に東京近郊のリードクライマーは、古い支点、信用するかどうか疑問になるような、脆い支点をみたことがないかもしれません。

逆に、地方によっては、このような製品化されて売られている、きちんとした終了点を見たことがない人のほうが多いかもしれません。

これ以外の手作り感あふれた終了点などでは、必要な強度を出していない可能性もあります。必要な強度があるかどうかは計測のしようがありません。

材質、施工年月日、施工者、ボルトのタイプの4点のうちのどれも不明だからです。特に施工年月日が不明だと、ガルバニックコロージョンなどで、見た目は良くても中身が腐植している場合があります。(見出し画像が事例です)

すでに取り付いてしまって、そのような由来の不明な支点を使わざるを得ない場合は、3点目のバックアップを追加して使用するなどの、他の知識を入れる必要があるので、そのための下準備をして出かけてください。

見分けがつかない人やバックアップのとり方が分からない場合は、最初から、不明な支点のある岩場には出向かないのが、唯一の策になる場合もあります。

■ 支点についての有効な資料URL

こちらを参考にされてください。

確保理論:https://www.jpnsport.go.jp/tozanken/Portals/0/kougisiryou/H24kakuhoriron.pdf

クライミングをこれからも楽しむために

https://www.jpnsport.go.jp/tozanken/Portals/0/images/contents/syusai/2021/tozankensyu36/2-7.pdf

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