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東京で雪に出会う

長野県。
出身地を答えると、じゃあスキー得意?と聞かれるくらい雪のイメージがある都道府県。



東京に雪が降った。

長野県出身の僕は1つのアイデンティティを奪われたような気持ちになった。

東京はなんでも持っているのに。
流行、イベント、有名人、観光地、夢。
形になるものも、ならないものも全部持っているのに、パッとしない田舎の特徴を掻っ攫っていった。

本当は気にしてない。気にしているわけがない。というか僕の実家の地域ではそんなに雪が降らない。

でもちょっとだけ、東京に雪が降ってしまったらなんかもう全部あるじゃん、と少しだけ羨ましいような、寂しいようや気持ちになった。


そんなことを考えながら歩いていた。積りはしないだろうと思っていた雪は既にくるぶしのあたりまで大きくなっていた。

顔に当たる雪から攻撃の意志を感じたので、一度部屋に戻って傘を取りに帰った。傘をさすことが嫌いな僕だったが、真っ黒で頑丈な傘を持っていた。友達が東京から地元に帰った時に、使わないからとくれた良い傘だった。コンビニで買える商品だったが、ビニール傘ではない少し高い傘。

街ゆく人が強風にあうたびに傘が揺れているのを見て優越感に浸るくらい、僕の傘は安定していた。さすが高い傘。実際の値段は知らないし、どれくらい頑丈なのかも知らない。しかし、友達がくれた情報が実力以上の安心感を傘に授けていたように思う。

だが、外出してから3回目の強風が吹いた時、いとも簡単に傘の骨組みが折れた。

あーあ、とインスタントな絶望を味わってから、折れた傘を畳もうとしたけれど、折れた骨組みが邪魔をして綺麗にまとまらない。
結局1時間くらい、ズタボロの傘を抱えながらずぶ濡れで歩き続けた。

やっぱり東京の雪は嫌いだ。
長野の雪は傘を壊したりしない。

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