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瀬戸熊直樹プロ「誤ツモ騒動」の真相 ※無料記事

【実際に誤ツモに見えた】

 10月18日の「鳳凰戦A2リーグ」の対局で、瀬戸熊直樹プロが、まるで「誤ツモ」のような動作をして話題になった。

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  正直、私も初めて見た時は「あ、誤ツモしちゃったのかも」と思ったし、解説の猿川真寿も「ツモった」と言ってしまった。
 でも、対戦相手は全くノーリアクション。立会人も何も言わないので、そのまま試合は進み、瀬戸熊さんの放銃でその局は終了した。

 こういったケースにおいて、放送のスタッフは何も言ってはならない。
 あくまでも公式戦をやっているだけで、それをチャンネル側が生中継しているのである。だから対局の内容に口を出すことはできない。
 チャンネル側から何かを言うとしたら、各回の試合開始時間のすりあわせのみである。それによってCMの時間を決める。
 実況者、解説者としては、試合前や合間に、選手に取材したい時もあるのだが、原則的には禁止されている。
 もし、どうしてもという場合は、立会人に許可を取り、立会人と本人がOKした場合のみ許される。
 その人タイプにもよるのだが、試合前の選手はデリケートに扱わなければならない。たとえば、試合の合間に全然関係ないイベントの日程確認をするのはご法度だ。それだけで「作った気持ち」にブレが生じる場合もあるので、スタッフやその他関係者は勝手に話しかけてはならないルールになっている。
 そういった事情があるから、連盟チャンネルでは試合前のインタビューがない。逆に試合後は時々インタビューを行うのである。
 ちなみに、若獅子戦や桜蕾戦など、若手選手の試合については、事前のインタビューをありにしている場合もある。新しく出てきた選手が多いので、名前と顔を視聴者の皆さんに覚えてもらいたいからである。
 
 今回の件も、ディレクターの三田晋也から「チャンネルとして何か言うべきでしょうか」と聞かれたのだが、私は「立会人に任せるしかない」と答えた。
 そんな杓子定規に堅苦しくしなくても、臨機応変に対応しろよと言われるかもしれない。
 だが、初期の連盟チャンネルと競技部の関係がカオス状態だったのを見かねて、試合と放送の定義をしたのは私自身である。
 だから、たとえば、立会人が明らかに間違ったルール運用をしていて、それを放送スタッフが「おかしい」と思っても、あえて何も言わないようにしている。「その場で知っている人が言えばいい」というやり方は責任の所在があいまいになり、立会人の今後の職業意識に悪く影響する。
 最悪なのは放送スタッフの方が勘違いしており、間違ったルールを立会人に伝えてしまうことだ。
 この場合でも、悪いのは立会人だが、放送スタッフは余計なことを言ったことになる。

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 また、連絡を受けたタイミングで何かを言ったとしても「時すでに遅し」である。対局は進んでおり、取り返しはつかない。こちらが何かを言ったとて、混乱するだけである。

 どうせ後手を踏んだのであれば、しっかり時間をかけて検証し、確認してから対処した方が良い。そう思っていた。

【ツモる直前のモーション】

 これはあくまでも競技部の案件である。私は部外者であるため、口出しはしないが、結果は知りたかった。
 かなり面倒くさい、ややこしいことになるかなと覚悟していたが、意外にも簡単にケリがついた。

 結論から言えば「ただ牌を落としただけ」であった。少なくとも対局者たちはそう感じてアクションを起こさず、そのまま試合を続けた。

 立会人も試合を止めなかった。

 考えてみればそうなのである。立会人のともたけ雅晴プロは、きちんとジャッジができる人だ。
 また、SNSなどでは「瀬戸熊の後輩ばかりで、言えるわけがない」という「昭和の野球部か」というような書き込みがあったが、今回の相手3人は「特にあり得ない面子」でもあった。

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 井出康平内川幸太郎もハッキリ言える人間だし、何よりも山田浩之がいる。

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 彼は通称「スパルタ会」と呼ばれる、森山茂和プロが主宰する麻雀研究会で、年に2回ぐらいは森山さんとケンカする。周囲がシーンとしている中で、森山会長に麻雀理論でケンカを売るのだ。激論を交わすだけ交わして、最後は勝手に2人で仲良くなるのだが、その間中、周囲は緊張感に包まれる。
 山田は前原雄大プロにも言うし、誰にでも「おかしいと思ったことはおかしいという」人間なのだ。
 
 そんな山田が「あれ? 誤ツモ?」と思ったら対局を止めないわけがない。
 
 そんな彼らが揃いも揃ってスルーしたわけは一体何だったのか?

 答えは瀬戸熊さんのブログに載せられた天井カメラの映像にあった。

 瀬戸熊さんはツモる際にすでに牌をこぼしそうになっていた。
 そして、不安定な形のままツモってきて、落とした場所が卓のへりで、しかもその牌が、アガリ牌の一萬にそっくりな二萬だったのである。

 井出のツイッターを見て、さらに納得した。

 麻雀中に相手の挙動を見られる程度の余裕がある、中級者の皆さんなら分かってもらえると思う。
 相手がツモアガリした場合「ツモ」という前に何となく肩や腕の動きで分かるものだ。
 その動きをされて「あっ」と思った刹那「ツモ」という発声とアガリ牌の明示があるのが「普通のアガリ」である。
 井出によれば、その「あっ」がなかったのである。
 瀬戸熊さんはツモの動作をする意思がなく、引いてきた牌をそのまま落としてしまった。だから、ツモの動作に入る時特有の「腕の動き」がなかったため、相手3人ともがスルーしたのである。

 井出のツイートと天井カメラによって、プロ雀士のほとんどは「ただの牌ポロリ」で納得した。

 だが、問題はというか、最も大きな問題は視聴者の「気持ち」である。

【説明の要求】

 今まで私がクドクドと言ってきたのは、あくまでも「選手目線」の話である。
 競技上、まったく問題はない、という結論になりそうだが、視聴者目線で言えば、全然違う話が必要になる。

 視聴者は手元の映像しか見ていなかったし、解説の猿川が「ツモった」と言っており、誰がどう見ても「誤ツモ」に見えるわけである。

 しかし、対局者と立会人からは、誰がどう見ても「牌ポロリ」なのである。
 
 この齟齬を生み出してしまったことに問題がある。
 
 私は今回の当事者であり競技部長の瀬戸熊さんと話し合い「視聴者目線で説明が必要と思われるプレーについては、ディレクターから立会人に『視聴者に説明が必要と思われます』というサジェスチョンをしてもいい」という新ルールを作ってもらった。

 数年に1回しか出番のないルールかもしれないが、今後はこれによって、少しは視聴者のストレスや誤解の解消ができると思う。

 また、当然ではあるが、現在、当事者である瀬戸熊さんを除く競技部の立会人グループで話し合いが行われている。
 瀬戸熊さんは競技部長ではあるが、この件については事情を聞かれる立場だ。

(了)



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