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私設Mリーグダービー①【平岡陽明】

今年もドラフトの季節がやってきた。

Mリーグのドラフト会議ではない。そんなものはとっくに終わった。

「われわれのMリーグ」のドラフト会議である。

 今年も雀友のメタボリック健が召集をかけてきた。

 
「来季のMリーグの選手が出揃いましたね。個人的には猿川が加わったのが良かったなぁ。昔から好きな打ち手なんです。さて、われわれのMリーグのドラフトは8月20日に開催したいと思います。平岡さん、準備はいいですか? ぜひ昨年の雪辱を果たしてくださいね、ぐふふふふ」


“われわれ”とは、麻雀が大好きなおっさん4人組のことをさす。メンバーは編集者のメタボリック健、雀鬼流タクシードライバーの貴ちゃん、コンサル会社のデジタル高見、それに小説家の私である。この4人で定期的にセット麻雀を組む。

われわれは打つのも好きだが、Mリーグを観るのも大好きだ。Mリーグの試合が終わったあとは、4人のグループLINEで「ああだ、こうだ」と感想を述べあう。感想戦はそれぞれの思想が表れて面白い。好きな選手もけっこう違う。

 

「それなら自分たちで好きなMリーガーを獲り合うドラフト会議を開いて、自分だけのチームをつくらないか? それぞれがチームオーナーとなって、レギュラーシーズンの総合ポイントを競うのだ!」

これならアベマズやドリブンズといったチームの枠を超え、自分のチームの、自分の好きな選手だけを応援できる。

すぐに開催と決まった。これが2年前のMリーグ開幕1ヶ月前のことである。ルールは以下の通り。

ドラフト会議を開き、Mリーガーの中から4人を指名してチームを組む。女性プロ1名は必須。1位から順に指名していき、かぶったらクジ引きで決める。各選手のレギュラーシーズンのポイントを足して、チームの合計ポイントで勝負する。

やってみたら、めちゃくちゃ面白かった。

Mリーグの見方が変わった。楽しみ方が変わった。

私はメージャーリーグの球団オーナーや、欧州のサッカークラブのオーナーの気持ちが理解できた。「翔平はうちが獲る!」とか、「金に糸目はつけんから、さっさとメッシを獲ってこい!」と命じる、あの気持ちだ。

自分のチームがなにより可愛いのだ。自分のチームの選手が負けたときは、自分が麻雀で負けたときよりも、ショックを受ける。

 そんな楽しみ(と苦しみ)を、Mリーグ大好きな方々と共有したい。

 というわけで、来季23―24シーズンにおける、われわれの「私設Mリーグ・ダービー」のドキュメンをお届けすることになった。まあまあリアルタイムでの更新となるはずだ。

 ちなみに3年目を迎える「私設Mリーグ・ダービー」には、今年からもう一人メンバーが加わり、5人となる。

 新たなメンバーは、メタボリック健の友人で、水谷さんという方だが、私はまだ会ったことはない。
ドラフト会議の日が初顔合わせだ。5人になると、思うようにドラフトで選手が獲れなくなるが、Mリーグも1チーム増えたから、ちょうどいいだろう。

 まずは元メンバー4人の紹介をしておこう。彼らが過去2年、どんなチーム編成をしたかも記していく。それぞれの雀風や、麻雀思想を知ってもらっておいたほうが面白いからだ。


1人目 出版界最強雀士「メタボリック健」

 メタボリック健はさる出版社の編集者で、趣味は釣りと暴飲暴食とギャンブル。見た目のメタボ体型とは裏腹に、麻雀ではスリムに手牌を構える、守備意識の高い打ち手だ。長い麻雀キャリアのうちでさんざん痛い目に遭ったのだろう、「いい配牌なんて罠だから」が口癖で、配牌オリも多用する。

それならガチガチの守備派なのかというと、そうでもない。先制リーチを受けたあと、現物ばかり切るので「降りてるのか」と思っていたら、いきなりぴしっとキツイ牌を打ってきたりする。なにをやっているのか分からない。のらりくらりと読ませない。そんなところは、かつてMリーグにいた沢崎を彷彿とさせる。

 健は麻雀に誘われればどんなルールでも厭わない。麻雀好きな作家や編集者があつまり、酒の余興で「出版界で最強の雀士は誰か」となったとき、必ず健の名前が上がる。
だが本人いわく「もう出涸らしで、15年くらい手が入っていません」とのこと。
腕が立つほどには勝っていないらしい。

 たしかにメタボリック健が、しょっぱなからバカヅキの典型のような「メンタンピンツモドラ2、6000オール」みたいな手が入っているのを見たことがない。勝つときはたいてい、凌いで凌いで、ようやくトップを取るといった渋い勝ち方だ。ちなみにわれわれのセットで健が勝ったときは、リスペクトを込めて1週間くらい「メタボリック・ドサ健」と呼んでもらえる決まりだ。

 優秀な編集者は人の選り好みをしない。自分にないものを持った者を素直にリスペクトして、仕事を依頼する。
つまりさまざまな人間性と能力を受け入れる間口の広さがあるのだ。

健も人の長所を見つけるのが得意だ。
その能力はMリーガーに対しても遺憾なく発揮された。健は驚くほどよく人の麻雀を観察している。そして選手の長所・短所を指摘するのがうまい。
私もよく勉強させてもらったものだ。
私程度の雀力だと、ツイてる人は上手く見え、ツイてない人は下手に見えるから。

そんなメタボリック健の過去2年のチーム編成を見てみよう。

まず1年目は佐々木寿人、村上淳、小林剛、二階堂瑠美のチーム編成で臨んだ。

ドラフト1位は寿人。学生時代から30年近く麻雀界ウォッチングを続けてきた健にとっても「寿人は特別な選手です」とのこと。「どこらへんが?」と聞くと、「鬼のように手組みが早くて、守備もうまい」

このあと紹介する「心はいつも雀鬼流」のタクシードライバー貴ちゃんも「寿人LOVE」なので、競合するかと思われたが、あっさり単独指名に成功した。

2位指名は村上淳である。獲得理由は「麻雀を観て泣きそうになった唯一の選手だから」。Mリーグが発足する前に観ていたRTDリーグか何かで、村上の奇跡の逆転ツモに胸を熱くしたらしい。
メタボリック健、こう見えてただのデブではない。内面には大阪・岸和田男の熱い血潮がたぎっているのである。

 3位はコバゴー。これは意外だった。健はとても腰の重い打ち手だからだ。獲得理由を尋ねると、「腰の軽い打ち手は山ほどいるけど、この人の鳴き麻雀はオンリーワン。手牌が短くなっても打ち込まないし、打ち込んでもリカバリーしてくる。自分が絶対に到達できない境地なので、リスペクト込みでの指名です」

 4位の二階堂瑠美は「昔からの大ファン。ひょっとしたら、いちばん好きな打ち手かもしれない」。おそらく瑠美の打ち筋も、健が絶対にマネできないものだろう。一言でいえば、ファンタジスタとしての瑠美の雀風に惹かれているのだと私は睨んだ。
瑠美はこの年から参戦。長年の瑠美ウォッチャーだった健は「ルックスも仕上げてきましたね。やってくれると思います」とご満悦だった。

 初年度のドラフト会議が終わったあと、健以外の3人は「やべーな」と思った。過去の成績に照らすと、健のチームがダントツで強く見えたからだ。

 ところが初年度の「チーム・メタボリック健」はトータル-512。総合3位に終わった。みなさんご存知のとおり、「呪われた村上」の初年度にあたり、村上の4連続ハコを含む絶不調が響いた。エースと期待した寿人も、大好きな瑠美も不発に終わった。

1年目「チーム・メタボリック健」最終成績

小林剛 +154

佐々木寿人-77

二階堂瑠美 -275

村上淳 -384

total -512

健はシーズン途中から「僕はもう来季の編成を見据えていますから!」と悲痛な声を上げた。まあ、あれだけ村上が掴む姿を見たら、やってられないだろう。われわれにとっては「しめしめ」であったが。

 

健が万全の作戦を立ててドラフトに臨んだ2年目は、アベマズが優勝した昨シーズンにあたる。

 健の1位指名は多井隆晴だった。「間違いないところを行かせてもらいました。見ての通り、化けもんです」

 そして2位は松本。「今年はアベマズの年だと思うんですよね。松本はそろそろ本格化すると思います」

 3位はコバゴー。「やっぱりオンリーワンの選手だと思うから」

 4位は、Mリーグ参入初年の前年に活躍を見せた伊達ちゃん。「センス抜群だと思うし、普通に強い」

 シーズン当初、健のチームは破竹の勢いを見せた。一時は伊達、多井、松本でMリーグの個人成績1、2、3位を独占し、「チーム・メタボリック健」は600ポイントを超えた。途中で失速したが、それでも伊達がMVPを獲る活躍でチームを救い、トータル2位で終えた。

2年目「チーム・メタボリック健」最終成績

伊達朱里紗 +320

松本吉弘 +103

多井隆晴 -91

小林剛 -129

total +203

 メタボリック健は今年、どんな編成をしてくるだろう。私の読みだと、自分を勝たせてくれた選手を切るのは難しいので、伊達は再指名してくるはずだ。

あと「自分がこだわって獲り続けたのに、思ったようには活躍してくれなかった選手」も切りづらい。自分が外した途端に活躍されるのが怖いからだ。健にとってはコバゴーがこれにあたる。

 だが健は人柄も麻雀も変幻自在だ。どんな作戦でドラフトに臨んでくるのかは予想がつかない。

 つい先日会ったとき、健は「来季の構想はすでに固まってます」と不適な笑みを浮かべていたが、さて……。 

2人目 心はいつも雀鬼流「タクシードライバー貴ちゃん」

 あなたが朝7時に歌舞伎町のフリー雀荘にいたとする。
そこへ仕事終わりらしき男が飛び込んできたとする。
そいつは駆けつけ3本の瓶ビールを飲み、リーチに対して無筋をビシバシ切ってくる。

基本、陽キャで、落語の中から出てきた八っつあん、熊さんみたいな口をきく。さらにせっかちで、そそっかしい感じがしたら、そいつはタクシードライバーの貴ちゃんである可能性が高い。

 酒は週12回。麻雀は週8回。
人とは違った時間軸で生きている酔いどれギャンブラー。それがタクシー貴の正体である。

 彼は私の古い友人で、桁外れの読書家でもある。そして私のことを、からかい半分に「センセー」と呼ぶ。「センセーの最新作、読んだよ。だんだん上手くなってきてるね」などと言って、私をイラッとさせる。

 タクシー貴は桜井章一をこよなく敬愛している。だからリーチに対してほとんど降りない。なぜか一打目に字牌は切るが(本来、雀鬼流ではアウトだ)、そのほかにも独自の麻雀理論を持っている。たとえばーー。

 「ハイテイずらしのチーは、相手へのリスペクトだからする。だけど一発消しのチーは自分の運気を下げるのでしない。一発消しをして、相手の一発を食い取ったとしても、いずれ報いを受ける」

 「ダマテンに振っても、上がった奴の運気が下がるだけだから、喜んで点棒を払う」

 「最終形はいかなる場況、点況においてもリーチ」

 「放銃は善。でも差し込みは悪」

 「アヤ牌に気づかない奴はカモ」

 「嫌いな言葉は、“目の前の得を積み重ねる”と“牌効率”」

 もうお分かりかと思うが、気持ちいいくらいのオカルト派である。「麻雀には流れしかない」と言って憚らない。

 とはいえタクシー貴は高校時代から雀荘に入り浸ってきただけあって、牌理にも明るい。そして麻雀プロや麻雀業界にも詳しいのだが、ともかく評価軸が独特すぎるので、いつも参考にさせてもらっている(なんのこっちゃ)。

 私が麻雀にいちばんハマっていた高校時代、雀鬼流は全盛だった。
だからタクシー貴の気持ちも分からないでもない。リーチを受けても降りない麻雀は、男の子らしくてカッコいい。よい放銃を積み重ねて、上本流をつくり、リーチをかけてツモり倒すのは理想だ。

 私の中にもそんな「雀鬼流の燃えかす」みたいなものは残っている。だから時に『アルマゲドン』の主人公のような気持ちになって、全人類を代表して親リーを蹴りに行くのだが、普通に一発で12000を放銃して「やめとけばよかった」となる。即席で雀鬼流をマネると、控えめに言ってもボロ負けする。

 ところがタクシー貴はフリー雀荘でも数少ない勝ち組である。われわれのセットでも強い。だから私はいつも思っている。

 「なんでこいつ、親リーの一発目にこんな無筋を切りまくって、当たらないんだ? ラッキードライバー貴ちゃんだな」

 なんなら貴がリーチ一発目に無筋を切って、振り込む姿を見たことがない。理由は分からない。たまたまなのかもしれないし、本人にもわかってない理由があるのかもしれない。

 貴は本業のタクシードライバーの仕事でも、流れを重視する。たとえば2局続けて5−8筒で上がりが出たあとは、次も5−8筒で上がりが出やすいように(貴ちゃん調べ)、豊洲で2晩続けてロング(長距離の客のこと)がついた3日目の晩は、豊洲でロングがつきやすいので、しっかり豊洲で待つ。麻雀も仕事もすべてはアヤなのだ。

 いちばん好きなプロは、いわずもがな寿人。Mリーガーの中でも雀鬼流のエッセンスをもっとも残している選手だ。

 寿人の雀風は、貴の仕事のスタイルにも通じるところがあるらしい。客を降ろした瞬間に客がつく「バカヅキ状態」のとき、貴は12時間ぶっ続けで都内を流して稼ぎにいく。それでよく営業所の運転管理者に怒られる。なぜならタクシードライバーには「7時間運転したら、10分休憩しなければいけない」というルールがあるからだ。

 ところがノッているときの貴は「神風ゼンツ・ドライバー」と化し、休まない。オリない。攻めて攻めて攻めまくる。トップ目の寿人が、18000をダマにできるのに、リーチをかけて24000にしに行くように。

 さて、麻雀の話に戻ろう。貴はどっしりした門前派の打ち手も好きだ。自分も「必然の鳴き」以外はしない主義だという。

 そんな貴の初年度の1位指名は黒沢咲だった。われわれは「うおーっ!」と、どよめいた。そうきたか。あの頑ななまでに鳴かない麻雀を、貴は評価しているらしい。「自分のツモ山=運命を信じているから」と。

 2位は瀬戸熊。貴にとってはこの2名が特別な選手らしいことは、翌年もこの両名を獲得したことで証明された。
ちなみに初年度に寿人の獲得を見送ったのは「寿人の流れが悪いと思ったから」だそうだ。

 3位にはこの年の風林火山のオーディションで見事に優勝した松ヶ瀬。4位には、同じくオーディションで名を売って雷電入りした本田を指名してきた。

 「200人のトーナメントを勝ち上がってきた奴の運気はハンパじゃないよ。この流れでMリーグでもやるはずだ。俺には松ヶ瀬の背中に、負けた200人のプロたちの姿が見えるよ」

 ほんとにそれが見えたら生き霊だからむしろマイナスじゃね? と思ったが、貴の読み通り、松ヶ瀬は初年度から豪腕を見せつけた。

 だが「チーム・タクシー貴」はトータルでは大撃沈。
雷電がチームで-1256という記録的な大敗を喫した年に、そこの選手を3人も編成していたのだから当然だろう。
最下位の4位に沈んだ。タクシー貴は一言、「毎日、吐きながら観ていたよ」と漏らした。

 1年目「チーム・タクシー貴」最終成績

松ヶ瀬隆弥+213

黒沢咲-148

本田朋広-307

瀬戸熊直樹-405

total -647

 2年目も、タクシー貴は前述のとおり、お気に入りの黒沢瀬戸熊を指名した。最終成績は見事1位で、昨年の雪辱を果たした。それでも貴は欲張りなことを言った。「まさか本田がプラス300も叩くとはな。今年もいっとけば良かったよ」

2年目「チーム・タクシー貴」最終成績
佐々木寿人 +213

松ヶ瀬隆弥 +212

瀬戸熊直樹 -34

黒沢咲 -9

total +382

 3年目の今年、タクシー貴はどんな構想でドラフトに臨んでくるだろう。

 2年連続で稼いでくれた松ヶ瀬は外しづらいだろう。2年続けて思うようにポイントを稼いでくれなかった黒沢・瀬戸熊のお気に入りコンビも、意地になって指名してくるかもしれない。

だがタクシー貴は独特の読み筋を持っているから、ガラっと編成を変えてくる可能性もある。メタボリック健とは違う意味で、読みづらいのだ。

3人目 狂気のマルコ推し、勝ち組人生の「デジタル高見」


 高見はわれわれのメンバーの中でいちばんの勉強家である。日本で出版される麻雀戦術書を、発売一週間以内にすべて読破する。

 関西の金持ちの家に生まれて、なに不自由なく育ち、超絶偏差値の高い中高一貫校に通いながら、東大に入れなかった。そのことが彼のいちばんのコンプレックスだ。
まごうことなき人生の勝ち組でありながら、東大に入れなった話になると、しんみりする。

 それはダントツでトップを獲った者が、「オーラスの4000オール、3面張なのにツモれなかった。ツイてねー」とボヤくあの感じに近い。
高見はこうしたセリフをよく吐く。
われわれはそのたびに、こめかみにピキッと青筋を立てる。

 高見はSEからコンサルに転身したというだけあって、ばりばりの理系の頭脳の持ち主だ。
だから論理的に説明のつかないことを口にする人間を、7分の哀れみと、3分の蔑みの目でもって見つめる。

日頃から、彼にそんな目で見下ろされているわれわれは、彼の明晰な頭脳に対する「2分の敬意」と「3分の嫉妬」と「5分の敵意」を込めてデジタル高見と呼んでいる。

 デジタル高見は若干、変態でもある。
丸山奏子が好き過ぎて、マルコのイベントには必ず顔を出す。待ち受け画面もマルコとの2ショットだ。マルコが雀荘にゲストで来たとき、同卓して撮ってもらった写真だという。もちろんドリブンズのサポーターにもなっている。

高見はもともと、引き出しが多い園田の麻雀が好きだったらしい。鈴木たろうも好きだったという。でもやっぱりマルコがいちばん。マルコ命。

 高見が初年度のドラフト1位でマルコを指名してきたとき、タクシー貴が言った。

 「おいおい、高見さんよ。こう言っちゃなんだけど、マルコはもっと下位の指名でも獲れるだろーに」

 「いいんです。マルコはボクの本命だから」

 高見は鼻の穴を広げて答えたが、私も正直「ラッキー」と思った。
高見がマルコを1巡目に行ってくれたおかげで、2巡目にまだ多井が余ってる!
(次に私と高見で多井指名がかぶり、くじで引き負けたが)。
それにしてもマルコもここまで愛されると、かえって迷惑ではないだろうか。

彼は以下のチームを組んで、初年度を2位で終えた。

1年目「チーム・デジタル高見」最終成績

多井隆晴+242

鈴木たろう+132

丸山奏子+45

石橋伸洋-286

total +133

 

 2年目もやはりマルコが1位指名だった。われわれは「はいはい」という感じでツッコミもしなかった。高見は好きなドリブンズ3名でチームを固めた。

 2年目「チーム・デジタル高見」最終成績

園田賢+262

岡田紗佳+36

丸山奏子-141

村上淳-307

total -150

2年目で注目すべきは、前年「チーム・メタボリック健」のアキレス腱となった村上を指名したことだろう。あそこまでツカなかった者を指名するのは勇気がいるものだ。

「なんで獲ったの?」と私は尋ねた。

「やっぱり村上の著書って、言ってることの水準が高いですから。普通に強いですよ」

「だけど、さすがに流れが悪くない?」

「流れ? なんすかそれ」

やはり虫けらを見るような目で見つめられ、聞かなきゃよかったと思った。この歳になると、あからさまな蔑視には傷つく。だがデジタル高見の名誉のために付け加えておくと、彼に決して悪意はない。だから余計に始末が悪いのだ。

 打ち手としてのデジタル高見は、われわれがセットを組み始めた頃、決して強くはなかった。戦術書はすべて読んでいるし、地頭がいい。だから座学から吸収した引き出しは異様に多い。

 たとえば私がnoteで沖中祐也さんの記事を読んで勉強していたとき。いわゆる鳴き読みの問題にぶつかった。

マークで隠れて見えない部分の文章は、「1ピン以外で通せる筒子はあるか?」だ。

 

「あー、はいはい。こういう読みのセオリーあるよね。知らんけど」と私は思った。自慢じゃないが、私は鳴き読みのセオリーまで覚えるつもりはない。

覚えられる自信もない。

 しかし答えが分からないのは気持ち悪いので、すぐにLINEで高見に尋ねた。

「これの答えと理由を教えて!」

 高見は5秒後に「4筒です」と教えてくれた。のみならず、5分後に渋川難波の著書から「食い伸ばし」に関する表を撮って送ってくれた。
えっ、これって食い伸ばしに関する出題だったの? てゆうかお前、いまどこにいるの⁉︎

『麻雀 魔神の読み』渋川難波著(マイナビ麻雀BOOKS)

  高見はこんなふうに、セオリーに強い。
だが、いかんせん実戦歴が少なすぎて、ベテランのメタボリック健や、タクシー貴によくやられていた。

 高見が自滅するパターンは決まっていた。「相手の鳴きはケイテンと思い込んでの放銃」「差し込みにいったつもりが、ほかの人のダマテンに刺さる」。こんな感じの、典型的な「策士策に溺れる」パターンが多かった。

 だがここ数年で、めきめき腕を上げた。
私など足下にも及びつかない打ち手になってしまった。
なにせ相手3人の「手出し・ツモ切り」をすべて覚えているというから驚異的だ。「自然と覚えられるようになったんです」。
われわれのセットでも勝つことが増えてきた。トータルではまだあのベテラン勢に負けているが、猛追している格好だ。

メタボリック健も、タクシー貴も、デジタル高見にだけは負けたくないらしい。
自分より実戦歴の少ないデジタル派に負けることは、彼らのアイデンティティが揺らぐからだ。
のみならず、麻雀というゲームの持つロマンの根幹にも関わるらしい。要するに、「理屈を覚えれば勝てると思ってる小僧に負けられるか!」というのが彼らの本音のようだ。

Mリーグ・ダービー2年目を終え、高見にとっては由々しき事件が起きた。
マルコがドリズンズを首になったのだ。
怒りにうち震える高見は、発表があったその日に、ドリブンズのサポーターを脱会し、その証明画面をわれわれのグループLINEに送りつけてきた。そんなん、別にいらんのやけど。

「まあ、マルコ首はあるとは思ってましたよ。思ってましたけど……。これでボクはドリブンズ縛りという呪縛から解放されました。来季は本気で勝ちにいきますんでよろしく」

 えっ、これまでは本気じゃなかったの? マルコ推しのほうが大切だったってわけ? ま、そうかもしれないけど。

 高見はおそらく、昨年ポイントを稼いでくれた園田は再指名してくるだろう。だがあとは予測がつかない。マルコの後釜の「推し枠」として、新加入の中田菅原あたりを指名してくるだろうか?

4人目 「口は一流、腕は三流」。まあまあカモにされている作家の平岡

さて、私である。
私は高校時代の16歳から19歳まで麻雀にどっぷりハマった。
高校生活が4年あったのは、麻雀を打ちすぎて留年したからだ。しかし大学に入ると同時に、ふっつりやめた。本を読むのが忙しくなったからだ。

そこから25年。
麻雀はほとんど打たなかった。
ところが4年前、なんの気なしにアベマをつけたら、Mリーグがやっていた。2019―20シーズンだ。
ユーミンこと魚谷がMVPを獲った年で、「こんなに上手い女性がいるのか!」と舌を巻いた。

 解説を聞きながら観戦を続けた。
そして「麻雀のセオリーはここまで体系化されていたのか」と、またしても驚いた。
そこから見れば私が高校時代に打っていた麻雀なんて、絵合わせのドンジャラみたいなものだ。当時の私は河に迷彩をつくり、カン8索で純チャン三色をアガるのが麻雀だと思っていた(©️小島武夫先生)。

Mリーグにハマった。
ハマりにハマった。
試合のある月火木金はあらゆる誘いを断り、19時からテレビの前で正座して対局開始を待った。この4年、ほとんどの試合をリアルタイムで観てきたはずだ。

そして同じくMリーグ大好きなメタボリック健、タクシー貴、デジタル高見らとセット麻雀を打つようになり、まあまあカモられてきた。

タクシー貴は言う。「センセーの麻雀は、口は一流だけど、腕は三流だね」。なんだとテメェ、いつかギッチョンギッチョンにやっつけてやるからな、と思うが、スカッと勝てる日は滅多にない。口惜しいばかりである。

 私は1年目のドラフト1巡目で、堀慎吾を指名した。デビュー年に+275ポイントを叩き出した前年の印象が強烈だったからだ。私もこんなふうに打てたらと憧れた。

 私が言うのもなんだが、堀は麻雀地頭がよい気がした。麻雀の実戦は、唯一局面や応用問題ばかりだ。だからその場その場で「最適解」を導き出すには、麻雀地頭が必要になる。堀はこれが、すこぶるいい(感じがする)。
ほかのプロの堀に対する評価もやたら高い。2年目のジンクスなどなく、やってくれるだろう。そう思って1位指名した。

次に、私がMリーグを見出した年に大活躍した魚谷近藤のフェニックスコンビを獲った。この2人が負ける姿はあまり想像がつかなかった。

 そして4人目は白鳥。バランスのいい麻雀で、ポイントをまとめてくれそうな選手だと思った。結果は以下の通りだ。

 1年目「チーム平岡」最終成績

堀貴吾+178

白鳥翔+108

近藤誠一+5

魚谷侑未-128

total +163

なんと、たった163ポイントで優勝してしまった。
Mリーグのレギュラーシーズンで優勝するチームは最低でも300〜400ポイント稼ぐ。われわれのリーグの低調ぶりが窺えよう。

勝って気をよくしたので、2年目もメンバーはほとんど動かさなかった。白鳥に代えて、新規参入の渋川を「お試し枠」で入れてみた程度だ。渋川の解説における頭の回転の速さと的確さは、きっと実戦でも強いはずだと思った。

ところが2年目、私は地獄を見た。

 

2年目「チーム平岡」最終成績

渋川難波 -105

堀慎吾-124

近藤誠一-195

魚谷侑未 -355

total -779


エースの堀がまさかの27戦10ラス。堀が全Mリーガーの中でラス頭になるなんて誰が想像しただろう? 堀が当たり牌を掴むたびに、私の寿命は3日ずつ縮まっていった。

 近藤と魚谷にも、ひたすら手が入らなかった。展開も「これでもか」というくらい向かない。これで2人は2年連続の不調だ。

 渋川は、ほかの新規参入である仲林と優と歩を合わせるように、スカッとしない状態が続いた。

 堀は国士を振った。ユーミンはスッタンを振った。

2年目のチーム平岡は、間違いなく呪われていた。

 私は松ヶ瀬の剛腕が羨ましかった。伊達瑞原のMVP争いが羨ましかった。なんならラス回避→3着確保を繰り返す多井のぎりぎりの底力さえ羨ましかった。

 だいたい-105の渋川がうちのチームの「勝ち頭」って、どういうことよ⁉︎ 

「毎日、吐きながら観てたよ」というタクシー貴の言葉を思い出した。

 メタボリック健は言った。「うちのチームは最高のスタートダッシュを切りましたが、多井と松本が不調モードに入ってから、ボクもメンタルにちょっと不調をきたしました。だけどそんな時は『チーム平岡がいる』と思うことで救われました。ダントツ最下位のチームがいるって、ほんとに最高の精神安定剤ですよね」

 うんうん、わかるよその気持ち。初年度は俺も君のチーム(小林剛 +154 佐々木寿人-77 二階堂瑠美 -275 村上淳 -384)に対してそう思っていたから。来季はまた船ごと沈んでしまえ、このメタボめ。

 さて、3年目の今年、私はどんなチーム編成で臨めばいいだろう。

 今年からMリーグはジャパネットが参入して、Mリーガーは7名も増えた。

 われわれの「私設Mリーグ・ダービー」にも新たに1名が加わる。外資系金融マンの水谷さんという人だ。彼も麻雀狂で、Mリーグ大好きだと聞いたが、ほかのことはわからない。どんな選手をドラフトで指名してくるだろう。

 私は3年連続でを指名すべきなのだろうか。私が獲らなければ、誰かが獲るだろう。堀を敵に回したとき、どう見えるのか、見てみたい気もする。
だが手放したくない気もする。
堀はいま自団体のリーグ戦でダントツのトップだから、Mリーグでも復活するのではないか? もし獲らずに堀が大活躍したら、私は地団駄踏んで悔しがるだろう。

 

女流枠はどうしよう。2年連続で指名して、2年連続不調だった魚谷を、3度目の正直と言って獲るべきか。それともこの2年、敵としては憎たらしいほど強かった伊達瑞原を強奪すべきか。

 だがユーミンは私にとって特別な選手である。Mリーグを見出したきっかけが彼女だったから。なんなら、異性としてちょっと意識しだしてさえいた。(私もデジタル高見のことは言えない)

 好きだった誠一さんは引退してしまった。かわりに入った醍醐はやってくれそうな気がする。誠一さんが「強いだけでなく、いま強い選手を獲りました」と言っていたから。

 寿人黒沢仲林は、ほかのメンバーたちが獲りそうだ。とくに仲林の評価はメンバーの中でも高い。勝負にいく選手が好きなタクシー貴は、大介を指名するかもしれない。

 いまのところ私の頭の中を、駆け巡っているのは、次の選手たちの名前だ。

 多井、堀、松ヶ瀬、醍醐、魚谷、伊達、瑞原……。

 あとは渋川もシーズンオフ中に開催されたMトーナメントで優勝したから、来季は大活躍するかもしれない。そうなった場合、獲っていなかったら悔しい。

 さらにはこの2年、なぜか「空き家」だった勝又だってめちゃくちゃ強い。

 次回はわれわれのドラフト会議の模様をお届けする。

私の1位は多井? 堀? 松ヶ瀬?

あー、本当に迷う。

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