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【無料記事】魔神の父の観戦記 特別編「片山作品フォーエバー‼―私達はいつも片山作品と一緒に過ごしていた」(後編)

3 我が家では

それ以降片山さんとの接触は無かったが、私はこの体験だけで大満足だった。家では渋川が順調に育っていった。
絵本時代は早く終わり、彼は家に多くある漫画を物色し始めた。幼稚園の頃にはちょこんと椅子に座り読書に集中していた。何を読んでるんだ?げげっ「ノーマーク爆牌党」だって。
だが私は嬉しかった。
だって片山さんとの会談を実現した私の次の夢は、将来渋川と一緒にお酒を飲むことと麻雀を打つことだったからだ。さすがに麻雀牌の意味は分からなかったのだろう、渋川は時々質問に来た。私は「小学生になったらちゃんと教えてやる」と言ったものだ。

渋川が小学1年生の晩飯時、彼は少し食べ遅れていた。台所で妻が「渋君急いでね」と言うと渋川が答える。
「うん、大丈夫、もうオーラスだから」

その瞬間お皿を洗っていた妻の動きが止まる。
そして静かにこちらを向いて私をにらむ。
「あなた、渋君今何て言ったの‼」。もごもごする私。「最近おかしなことを渋君に教えてるでしょ」と妻。でもまあこれくらいは御愛嬌だ。金曜日の夜は娘も一緒になって家族で麻雀やトランプを楽しんでいた。

巷では片山作品が大人気。「ノーマーク爆牌党」や「牌賊オカルティ」も絶好調。雀荘ではあちこちで、「爆牌だ‼」「これぞ爆守備」「メロンソーダ早く」「全然オッケー」等片山語が飛び交う。片山語、そう、これこそ私達麻雀打ちの共通言語だったのだ。作品に出てくる珠玉の言葉は、私達に多くの力をくれた。ボロボロになって雀荘を出る時(負けるってことはこういうことなんだ)と歯を食いしばる。とんでもないメンツと打った時(対戦相手にリスペクト)の声が頭の中に響き渡る。片山作品は私のバイブルだった。

まあ色んなことはあっても、私の麻雀人生は順風満帆であったと言えよう。しかし2008年春、とんでもないことが起こる。私は渋川から「麻雀プロになるために上京しようと思う」旨を告げられたのだ。寝耳に水とはまさにこのこと。渋川が「麻雀プロで生活できる」という像が全く浮かばない私は猛反対。妻もばあちゃんも半狂乱。

2010年、渋川は私達を振り切って上京。その頃片山作品は「おバカミーコ」の時代に入る。そしてちょうど物語は、同じく親を振り切り麻雀プロになった今井恭子編に入った。

うわっ、この場面ってリアルだったな。

4 麻雀プロ渋川と片山さん

でもまあとりあえず渋川とは仲直り。
彼がプロになって何年か後、「今度片山さんに会うことになったよ」と連絡が入る。これには私は大喜び。だって1989年に会ったファンの息子が麻雀プロとなって出会うなんて、全くドラマじゃないか。私はワクワクしてその結果を聞いたのだが・・・・。まあこれは、別の話だ。

3年前のこと。妻が急に私のそばにやって来る。「片山まさゆきさんってあの片山まさゆきさんよね」。全く意味が分からない。

「とにかくこれ見てよ」と妻は私をテレビの前に連れていき、ユーチューブの動画を映す。

これは「Мリーグチームを作ろう」という企画だ。
画面を見て私は度肝を抜かれた。何と何と、あの片山さんが第1に渋川を推薦してくれている。こんなの夢だよ。というか、いつの間に片山さんとそんなに親しくなってるんだよ。

6 片山まさゆきフォーエバー

私はちょうどこの頃雀荘で少なからぬストレスを感じ始めていた。
片山語が通じない人達が増えてきたのだ。
確かに近代麻雀への連載は「雀術師シルルと微差ゴースト」を最後に終わっていた。ある時店長が若者達に「爆牌」の説明をし始めたことがある。しかし通じない。そのやりとりを聞きながら、私は(片山作品が、片山語が世界から消える?どうすれば防げる?)という思いを強ち、そして決めた。片山20作品の総決算とも言える冊子を作ろう‼そして作った。それが「麻雀マイスター 片山まさゆき 心ときめく20の物語 Ⅰ・Ⅱ」だ。

キンコーズで製本して、周りの若い人たちに配った。これは大好評だった。生の片山作品を読みたいという人が随分と増えた。しかし一番嬉しかったのは、渋川に頼んでこの2冊が片山さんの手に届いたこと。そして片山さんからのコメントが聞けたこと。

片山ファンになって40年。ファンとしてこんな幸せがあるかと思えるひと時であった。

7 エピローグ

つい先日のこと。A荘で麻雀を打っていると、スタッフのタッチさんがバイトの学生の後ろで大声を出している。

「そんな牌切ってるようじゃあ、デジタルクルーズに乗れないぞ」

えっデジタルクルーズ?何か懐かしい響き。瞬間気づく。「牌賊オカルティ」のデジタル集団だ。バリバリの片山語じゃないか。

しかし周りに居るいつも感度の良い若者たちは、ほとんど無反応。そうかみんな「デジタルクルーズ」を知らないんだ。しかしタッチさんはおかまいなしに何度も「デジタルクルーズに乗れないぞ」を繰り返す。

雀荘からの帰り道、先程のシーンを思い返す。
不器用に非効率な牌を切ってしまう学生。後ろで叱咤激励する先輩。「デジタルクルーズに乗れないぞ」には、ぴったしの絵柄だ。
これもしかしたら流行る?片山語の復権か‼私は店内あちこちで「デジタルクルーズに乗れないぞ」という声が響き渡る光景を頭に浮かべ、こみあげてくる笑いを抑えながら家路についた。

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