金骨 律の文編み屋

個人勢Vtuberの金骨 律(Kinkotsu Ritsu)といいます。 普段はどこか…

金骨 律の文編み屋

個人勢Vtuberの金骨 律(Kinkotsu Ritsu)といいます。 普段はどこか深い森の奥で文編み屋を営んでおります。文章を書くのが好きです。 Twitter https://twitter.com/Kinkotsu_Ritsu

最近の記事

【企画テスト】見られたくない姿

ガタッと、戸を激しく揺らす音に思わず身が跳ねる。 ……中途半端に閉めた雨戸が、風に揺れただけだった。 彼が活躍した夏は少し前のこと。今は秋の夜、少し肌寒くなった。 気を取り直して、緊張に震える手でメスを動かす。夕暮れから始めたコレに、明らかに時間をかけすぎている。 急がなければ。コレが誰かに見られると、私の社会性に関わるのだ。 ソワソワと、外が気になって窓の方を見る。窓の反射が、手元の ……エリンギをうつしていた。 いや、ちょっと気になっただけ、ドラマでたまに見る、ビ

    • 眠れなかった日の話。

      タイトルの通り、とにかく、その夜は眠れなかったのだった。 頭の中では的を得ない疑問ばかりが轟音と共に渦を巻いていた。 ソレに対して、やれ"原因は3時間前に摂った800ml程度のコーヒーだ"とか、"やる事がまだ残っているからだ"、などと投げかけてみても、ゴウゴウと渦巻く竜巻に巻き込まれてしまい、腑に落ちる前に粉々になってしまうのだった。 さて困った。 コレでは、いつまで経っても眠られそうになかった。 時計の太い針が1周し、2周し、それでも飽きずに3周目に差し掛かろうというそ

      • 雑踏

        座り、背中を預け、膝に肘をつけて手のひらに頭を乗せる。 目を閉じて、瞼の裏に溢れ返す雑音を並べて眉間に皺を寄せる。 頬のすぐ先、指で挟んだタバコの火種はゆっくりと弾けている。 お香のような匂い。甘ったるくなった唇を少し舐めた。 それで、雑音に耐えきれなくなったらタバコに口をつける。 熱い熱い息をして、バチバチと激しく弾ける火花を薄目で眺める。 煙をゆっくり吐くと、雑音も遠ざかっていく。 再び目を閉じて、雑音を探す。

        • 平凡×平凡の男子高校生の朝

          ある朝。ある校門にて。 「おはよう。」 「よお、おはよう。」 「昨日のさー。」 そんな何気ない挨拶から始まり、細やかなひと時を過ごす男子高校生達がいました。 次の朝も。 「おはよう。」 「おはよう。」 またその次の朝も。 「おはよう。」 「おはよう。今日の課題やった?」 「あ、あーー.......。」 課題。聞かれた方はバツが悪そうに言い淀みます。 「そ、そう!一つ気になるんだけどさ。」 「ん?」 表情を一変、話を変えるようにそう切り出すと、 「あ、いや、キミじゃなくって地

        【企画テスト】見られたくない姿

          枯れ尾花は何に見える

          自転車に乗っていると、季節の変わり目を直接感じることが多くなる。 それは頬に感じる風の冷たさが、いつの間にか切るような痛さに変わっていたり。暗くなり、夜道を満たす暗闇の濃度が高くなっているだとか。 いつもの道、いつものペース。 ただ、いつのまにか普段より暗くなった道を進んでいると、奥の曲がり角の明かりの中にぼんやりと人が見えた。 歩いている。たぶん、あれは後ろ姿に見える。こっちに歩いているんだったらもっと速いペースで大きくなるはずだから。 白いスカートの様な物がヒラヒラ動

          枯れ尾花は何に見える

          鏡の館

          ねえねえ。夏だしどっか怖いところいこうよ。 心霊スポットってこと?うーん、どっかいいとこあったかなぁ。 じゃあ、あそこ知ってる?”本当に出る”って噂の心霊スポット! あっ知ってる知ってる!たしか、名前は──。 「”鏡の館”って、ここか?なんだ、全面鏡張りなのかと思って損したぜ。」 「それは安直過ぎるでしょ…。」 時刻は丁度正午のあたり。僕らは3人で、"本当に出る"と噂の心霊スポットへと訪れていた。 ついさっき正門を迂回して、外壁に開いた穴をくぐって館の近くまで移動したその時

          テーマリレーSS(仮称)

          テーマ:英単語 今日の4限の英単語のテスト、僕は幼馴染と勝負をすることになっていた。 この日のために沢山練習をしてきた。light、explain、degree…。頭の中には直前まで詰め込んだ単語がグルグルと回っている。 僕の英単語の覚え方をその子に教えたら、変だと笑われたことがあった。 英単語をローマ字読みで強引に発音して覚える方法だ。 リィグハト、イクスプライン、デグレエ…。発音は後から覚えて、綴りだけとりあえず覚える。その覚えた発音のイメージから復元した綴りを回答欄に書

          テーマリレーSS(仮称)

          ようこそ、文編み屋へ

          木製のドアが静かに開き、人影が室内へと入っていく。 館の主は、口の端を軽く上げて客人を出迎えた。 「ようこそ、文編み屋へ。」 その青年の見た目の、特に大きく目を惹くのは、目隠しと首から下の白骨化した骨だった。 椅子から立ち上がり人影へと静かに歩み寄ると、人影のそばにある椅子を静かに引く。 「どうぞ、おかけになってください。ハーブティーをお持ちします。」 椅子の後ろでカチャカチャと静かに音が鳴る。少しすると、ティーセットを手にしたヒトが現れた。 机にトレイを置いてティーコゼーを

          ようこそ、文編み屋へ

          Vtuber界隈での親子関係

          あの、オーナー?これは一体何ですか? おやおや律ちゃん。もう喋れるようになったんでちゅね~!えらいえらい。オーナー? 律、知っていますか?Vtuberの界隈では、親と子という関係があります。その関係にワタクシたちを当てはめれば、赤ちゃん律と親の私という事になります。 はあ。 だから律。赤ちゃんの真似をしなさい。 いやオーナー。僕はとっくに──。 真似をしなさい。 ……ばぶ。 わ~~~^^可愛いでちゅね~~。 あ、あのオーナー、そろそろこの姿勢がしんどいです。 しせい?赤ちゃん

          Vtuber界隈での親子関係

          望みを叶えるお店

          さっきまでベッドで眠っていたはずなのに、いつしか霧が漂う森の中を歩いていた。 周りに生える黒々とした木々からは不安を感じる。 しかし同時に、これは私の行動が正しいことの裏付けでもあった。 でも、いつまで歩けばいいんだろう? ある夜のこと。 こんな所に占いの館なんてあっただろうか?思わず立ち尽くしてしまったのは見慣れた通勤路。 この建物に見覚えはないけれど、その前にあったはずの建物の事も思い出せないでいた。 人間が持つ景色の印象なんてそんなもので、この占いの館だって案外前から

          望みを叶えるお店

          納涼の夢

          蒸し暑くって、日差しが厳しい夏の日のこと。 周りに海と山しかないような田舎に住んでいるから、外に出るわけでもなく縁側で横になっていた。 あんまり暑いものだから、家中の窓を全開にしてうちわを仰いでいると、どこからともなく風が入ってきた。 涼しい風だった。居間を通って縁側へと抜けるその風は、手に持ったうちわの動きを止めてしまうほどで。 良い気分になった僕は、腕を枕にして寝転がって目を閉じた。 チリンチリン 軽く、どこか冷たさを感じる風鈴の音が聞こえる。 目を開けると、風鈴が一

          昨日はどんなゴミ?

          昔は、部屋に物が溢れかえっていた。 足の踏み場もないほど散乱した洗濯物、空き缶、弁当の容器。 なにも、昔から掃除ができないわけじゃない。ただ、忙しい日々の中で掃除をするタイミングを失っただけ。 でも、ただそれだけで、自分の生活がこんなにも圧迫されてしまっていた。 上手くいっていない人間関係。昔に感じた後悔の記憶。 そういったものが全部嫌になって、それから逃げる為に部屋のものをすべて捨てた。 思い切れば、意外となんともなかった。要るもの、要らないものを選別する必要がなく、目の

          昨日はどんなゴミ?

          燃えるゴミ?

          ゴミ捨て場にあるゴミ袋には、その人の私生活が垣間見える。 例えば、中にストロング系チューハイが大量にあると、"この人は大変そうだな"とか考えるし、カップ麺の空き容器が沢山あれば、"自炊をしない人なのかな"とか、"食生活が偏ってそうだな"なんて邪推をしてしまう。 まだ日が昇り切っていない早朝。袋を手にゴミ捨て場へ向かい、顔も知らない住人達の私生活を想像する事が細やかな趣味になっていた。 でも最近、ちょっと変わったゴミ袋が捨てられるようになった。 毎週2回の燃えるゴミの日に、

          煩い蝉の鳴き声は

          この学校に入ってから2回目の夏。 照りつける太陽とその暑さから逃れるのに、この図書室は便利だった。 窓を全開にすればそれだけで風が通り抜ける。涼しい風が夏服の袖口をくすぐるこの時間が、私は好きなのだ。 ただ、蝉の鳴き声だけはいただけない。 セミの騒音は夏になる度に聞いていたけれど、この図書室で聞く騒音は格別の煩さだった。 なんというか、部屋にこもるのだ。部屋の壁や本棚に反響した鳴き声が私を押しつぶそうとしてくるような感覚。 この騒音のワケを知りたいと思って、図鑑を手に取っ

          煩い蝉の鳴き声は

          うるさいセミの鳴き声は

          "セミが鳴く理由、それはオスが自分の位置を知らせるため。つまり求愛行動である。" 目の前に大きく開いた図鑑に目を走らせると、そんな事が書いてあった。 この学校に入学して少ししてから、僕は図書室に入り浸るようになってしまった。 春の心地良い日差し、肌触りの良い風はとっくに懐かしい思い出になり、今は蒸し暑い気温を少しでも流そうと全開にした扉から大音量のセミの鳴き声が遠慮なく入り込んできている。 あんまりうるさかったから、図鑑を手にとってその理由を調べていたのだった。 どうやらこ

          うるさいセミの鳴き声は

          最初の話

          いつからか、人間が嫌いになっていた。 僕の血の色は金色で、身体の外に出ても、時間が経てばキラキラとした粒子になって消えてしまう。 その珍しさを一目見ようと世界中から色んな人が集まってきた。 その度に肌を傷つけられては、歓声、驚嘆、溜め息、好奇心からくる眼差しに包まれて...そして、その中には気味の悪いものを見るような視線も混じっていた。 「羨ましい」 そんな声が聞こえた事もあった。 冗談じゃない。こんな生活にはうんざりだった。 いつしか、僕の血が高値で売られるようになっ